第24話 同棲


 朝起きるとお湯を沸かす。


「……おはよう」


 ミステリは、少しだけ朝に弱い。

 でも俺は、村無防備な表情が好きだ。


「コーヒー飲むか?」

「……うん」


 2人でコーヒーを飲みつつ、ミステリが朝食の用意をする。

 ミステリが料理をする後ろ姿が好きだ。


 パンとベーコンエッグとスープ、簡単な食事だけど満たされる。


「調味料を入れる容器があったほうがいいよな」

「うん、そうしてもらえると、助かるわ」


「大きさとか、希望はあるか?」

「大きさはこのくらい」


 ミステリが手で大きさを見せる。


「あ、砂糖とお塩は、違う色にしたいわ」

「朝起きたばかりだと間違うよな」

「そう、そうなの」


「まずは調味料だ。砂糖・塩・ハーブ3種・コショウ・後は肉の削り節(鰹節の肉バージョン)か。一回作って使って貰って変な所や使いにくい部分は作り直そう」

「お願いね」


 ミステリが皿や鍋を全部洗ってくれた。


「助かる。作るのはいいんだけど、後かたずけは嫌いでさ」


 自分でも悪いとは思う、でも俺はそういう人間なのだ。


「いいわよ、容器はすぐに作るの?」

「うん、簡単だからな。蓋は木にするけど、容器はガラス、陶器、木、どれがいい?」

「どれが大変なの?」


「全部そんなに変わらない。どれにしてもすぐできるぞ」

「ビンがいいわ」

「分かった」


 ガラスの塊と木を収納から取り出した。

 ガラスを空中に浮かせて熱を加え溶かして形を整えていく。


「こんな感じでいいか?」

「いいと思うわ」


 空中に浮かせたままガラスの強度を補強しつつ、冷やしていく。

 すべての容器がテーブルに着地する。



「器は完成で次は蓋だ」


 木を加工して蓋を作る。

 砂糖の蓋は白っぽい蓋にして、塩は茶色の木を使った。

 蓋が容器の上に被さる。


「もう出来たの!」

「まだだ」

「え?」

「スプーンも作る」


 木を加工してスプーンを作り、容器の上に乗せた。


「これで調味料は一式出来たぞ。次は保存と冷却魔法付きの収納だな」


 冷蔵庫だ。


「私も収納魔法の練習をしたいわ」

「俺も覚えるまで時間がかかった。生産の紋章じゃないと少し時間がかかるかもな」

「そうね、でも便利だわ」


「うん、温かいものを入れれば温かいままだし、腐らないし便利は便利だ。後で練習してみよう」

「お願いね」


 2人で冷蔵庫の大きさを決める。

 何気ない話が楽しい。

 ミステリは俺の小さな欠点には気づいて目をつぶってくれる。

 それが心地いい。


 昼前になるとモモイロとバットが遊びに来てミステリがパスタを作ってくれた。

 4人で食事を囲む。


「ほっぺにソースがついてるわ」


 ミステリが俺の頬についたソースを手で取る。

 そして舌で舐めた。


 モモイロとバットが俺とミステリを見る。


「……」

「……」

「なんだ? 言いたいことがあるなら言ってくれ」

「結婚したら?」

「もう結婚でいいよね」


「バットとモモイロだって結婚すればいい」

「まだ、色々あってね」

「……そう、だよな。悪い」


 バットの祖父はエルフ排除派だ。

 表面上父上に協力して国を富ませる為に動いてはいる。

 でも内心では納得していないだろう。

 モモイロと隠れて恋をして、祖父の顔も伺う。


 バットは今難しい状況だ。

 そしてエルフ排除派とエルフ友好派をおとなしくさせる為に父上も兄さんも俺も手を尽くした。

 その時に父上が言った。


『エルフ排除派に厳しくしすぎている』と。


 政治は駆け引きだ。

 相手をぼこぼこにしすぎてはいけない。

 それをやるのは相手を滅ぼす覚悟でやる時だけだ。


 相手の逃げ道を用意した上で相手をある程度立てる配慮が必要だ。

 人には感情がある。

 特に貴族はプライドが高い。

 出来るだけ相手を激怒させないように事を進めるのがベストだ。

 だが、そうはいっていられない状況は必ず出てくる。


 表面上うまくいっている状況だ。

 父上はそれでもなお、政治を続け関係の修復に努めている。

 それはエルフ排除派のうっぷんはかなり溜まっている事の裏返しだ。

 一見うまくいっている状態が怖かったりする。


 ゴンゴン!


「俺だ、ギルド長だ!」


 ギルド長を家に入れる。


「食事中か」

「いや、いい。何かあるんだろ?」

「全員に依頼だ。フラグにはポーションの納品だ。バットには冒険者モンスター討伐遠征の切り込み役、モモイロには兵士団によるモンスターの巣の魔法攻撃を、ミステリには冒険者と兵士共同訓練の技術指南を頼む」


 4人全員が違うクエスト。

 いつもならよくある事だ、みんな強い為1人だけ呼ばれる事はよくある。

 でも、嫌な予感がした。

 今は誰に何が起きても不思議じゃない。


「これは王と貴族、俺が話し合って決めた事だ」

「そう、か。みんな、念のためにポーションを持って行ってくれ」


 全員にポーションを渡した。


 みんなが出かけると、俺はギルドで薬草を受け取り、城で大釜と薬草を受け取って家に戻った。


 何も起きなければいい、そう思った。

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