第23話 再会

 ミステリに会っていない。

 お見舞いに来ても全員追い出す作戦だった。

 俺の回復を発表した後も貴族と交渉を続け、微調整を繰り返してきた。


 ミステリに、会いたい。


 父上と兄さんに言った。


「パーティーに会ってきます」

「ミステリに会いたい、の間違いではないか?」

「そうですね。休みます」


「うむ、今回はご苦労だった。ゆっくり休め」

「遊ぶのはいいがほどほどにな」

「はい」


 城を出て思った、ミステリはどこにいる?

 俺の家はロックを解除しないと入れない。

 普通に考えて宿屋か、それかギルドの依頼だな。


 ギルドに向かうと冒険者の男が俺に気づいた。


「あ!」

「よう」

「無事だったか、来い!」


 俺は手を引かれてギルドに向かった。


「フラグが帰って来たぞ!」


 みんなが集まってくる。


「クレイジーがいなくなったら流石に寂しいですよ」

「無事でよかったぜ」

「今日は飲もうぜ」


「お前いっつも飲んでるだろ?」

「ばーか、いつもより飲むんだよ」

「ビール5杯!」

「こっちは10杯だ!」


 ギルド長が歩いてくる。


「ちょ、パーティーの居場所を」

「フラグ、乾杯が終わってからだ。すぐにビールを持ってこい。フラグの分もだ」

「そうだぜ、復帰祝いだ!」

「樽を空にしようぜ!」


 みんなにジョッキが配られた。


「「乾杯!」」


 俺のジョッキに皆がジョッキをぶつける。


「当たりが強い、こぼれるこぼれる」

「ウエーイ!」

「復帰おめでとう!」

「おかわり!」

「俺の分があるからとりあえず飲んでくれ」


 その後、皆が酔っ払い、厄払いだと言って1人が俺にビールをかけると囲まれてみんなが俺にビールをかけて更に飲んでいく。

 前世より居心地がいい。


 俺や、皆も多少癖があっても、


 変わっていても自分は自分だ。


 人の事をそこまでとやかく言わない。

 今はこの時間を大切にしよう。



 ガチャ!


 ミステリとモモイロが帰ってきた。


「ミステリ、探していたんだ」

「何やってるの?」

「ミステリ、怒ってる?」

「怒っているとかそういう事じゃないの。何をやってるの?」


 子供に怒るお母さんのように見える。


 周りを見ると冒険者がすっと俺とミステリから距離を取った。

 だが決して出て行かず俺とミステリをじっと見ている。

 こいつら、安全な所まで逃げた上でしっかり楽しんでやがる!


 モモイロが話しかけてきた。

 助け船か!

 やさしい、流石モモイロだ。

 こういう気配りがいい。


「フラグ」

「なんだ?」

「防壁の外で戦っていた冒険者が4人石化しちゃったの」

「コカトリスか」


 コカトリスは石化攻撃をしてくる鳥だ。


「石化解除のポーションはある?」

「あるぞ」


 石化解除のポーションはたくさんある。

 俺は走って防壁の外に向かう。

 そしてこの空気を無かったことにして俺が助かりつつ皆も助かる。

 モモイロ、グッジョブだ。


「すぐに行こう」

「ううん、私が持って行くから」

「な!」


「ミステリと話があるよね?」

「逃げようとしてる?」

「い、いや」


 俺は石化解除のポーションを取り出すとモモイロが受け取って出て行った。


 ギルド長が前に出た。


「フラグは色々あって面会も禁止されていたからな。仕方ねえって」


 ギルド長、いいタイミングだ。

 流石ギルド長だぜ!


「だが今はやっと出歩ける。積もる話もあるだろう」

「ん?」

「食事をおごるぜえ! あの席でゆっくり話し合いな! ビシ!」


 ギルド長がサムズアップした。

 てめえ!

 見学しやすい席に俺とミステリを誘導しつつにやにやしやがって!

 しかも俺と目が合うとニヤッと笑うあの顔とサムズアップ!

 むかつく!


 2人で席に付く。


「……」

「……」

「心配をかけて悪かった。今までの事を話せる範囲でざっくり話そう。と言っても、全部を知っているのは父上だけだから、ちょっとした勘違いもあるかもしれないし酒が入っている」


 ミステリが無言で頷いた。

 本当の事を全部言うわけにはいかない。

 情報操作をしている部分もある。

 どこか辻褄が合わない部分も出てくるかもしれない、その時言い訳を出来るように布石を打ったのだ。

 俺は問題の範囲で語っていく。



「……と、言うわけで、俺とエルフ友好派、エルフ排除派のいざこざは和解した。で、今は両陣営が父上に協力するために国を富ませる方向で兵や金貨を出してもらって農地開拓やモンスター狩りで協力している」


「……うん」

「色々あって、心配をかけてしまったな」

「……」


 何も言わないのが怖いんですけど。


「食事も終わったし、家に行こう。入れなかっただろ? これからはいつでも家に入れるようにするから」

「それって、また危ない事をするの?」


「いや、危ない事はごめんだ、でも、最近ポーションを作る為に急に呼び出されたり色々あるだろ? 父上は俺が逃げられないように不意打ちで呼びつけるから。ミステリにはいつでも入れるようにしておきたい」


 茶化すような声がうるさくなった為2人でギルドを出た。

 家に向かって歩く。

 

 無言で家の前まで歩いた。


「バットやモモイロは家に入れるの?」

「これからはミステリがいれば入れるぞ」

「じゃあ、バットとモモイロは入れないの?」


「そうだな、ロックを解除できるのは、俺とミステリだけになる」


 俺は指輪を取り出した。

 指輪に魔力を込めて魔法陣を書きこむ。


「ミステリ、左手を出してくれ」


 俺はミステリの薬指に指輪をはめた。

 

「扉の紋章に指輪を近づけながら指輪に魔力を流してみて欲しい。

「開いたわ」

「成功だな。いつも調味料や食料は収納魔法に入れてあるけど、最低限は置いておこう。それに客室用のベッドはあるけどここに住むなら好みの寝心地に変えるぞ?」


「いいの?」

「何がだ?」

「私だけ、家に入って良くて、住んでいいのよね? それって」

「あ」


 同棲か。


「お、俺はそれでいい、というかそうしたい」

「うん」


 ミステリが小さく頷いた。


「シャワー、使うね」

「……おう」


 その日、俺とミステリは無言のまま別々の部屋で眠った。


 ミステリの表情は穏やかないつもの顔に戻っていた。

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