第22話 停戦の作戦
ああ、やりたくない。
でもやる以外の選択はない。
俺は両軍の間に走った。
あの会議の時から乗り気ではなかった。
「策を聞こう」
「その前に初手で両陣営どう動くかが大事です。お互いがにらみ合って、戦闘が始まれば最初に何をすると思いますか?」
「ん? お互いに矢を放つ。そしてそれが終われば魔法使いが魔法を放ち、戦士が突撃する」
「やはり、私も同じ意見です。では矢を放つその中心に王族が飛び込んだらどうでしょうか?」
「止まる可能性はある、が、100%止まるとは言えない」
「では仮に私が飛び込んで矢を受けた状態で王が魔道具で叫べばどうでしょうか?」
「まさか!」
「そうです、私が飛び込んでワザと矢を受けます。もちろん死ぬ気はありません。血のりで血を演出し防御フィールドを展開した強力な装備を着て飛び込みます。更に左手には守りの腕輪があります。攻撃が止んだらすぐに私を王城に運んでください。そして私が死にかけた噂を」
「認められんな。私が呼びかけるのみだ」
「……分かりました。すぐに広場に行き、魔道具で呼びかけましょう」
そう、王の言葉をこいつらは無視した。
言葉は通用しなかった。
スピーカーで叫びながら矢の間を走る。
「俺はフラグ・ラブエルフだ!」
俺に矢が刺さると同時に仕込んでいた血のりを使い赤い染料が服を染める。
いてえ!
思っていた以上に怖い!
防御フィールドでふせ、ぎきれない!
痛!
刺さって、うおおおおおおお!
数十本の矢が俺に刺さった。
やっば!
死ぬ死ぬ!
バキン!
あ、守りの腕輪が矢を受けて壊れた!
まずい!
血が、とまらな、がは!
「やめろ! 王子に刺さった!」
「攻撃をやめろ!」
両軍の攻撃が弱まった。
「やめろ! フラグを殺す気か!」
「今すぐに攻撃をやめよ! 王命だ! 攻撃をやめよおおおおおおおお!!」
父上と兄さんが叫びながら駆け寄った事で攻撃は完全にやんだ。
「フラグ! 無事か!」
「早く、王城に、だい、じょう、ぶです」
兄さんが俺にポーションを使って背負った。
「道を開けろ!」
兄さんが王城に走りそれを皆が見守る。
「今すぐに屋敷に帰り表に出るな! 王命だ!」
父上の声が聞こえた。
俺は兄さんに運ばれながら気を失った。
◇
目が覚めると兄さんが俺を見ていた。
「目が覚めたか!」
「友好派と排除派の被害は、どうなりました?」
「大丈夫だ。死者は出ていない。重傷者は出たがな。お前が一番の重傷だった」
「うまくいきましたね」
「危なかった。守りの腕輪が壊れて発動しなかった」
「腕に矢を受けて、やっべって思いました」
「全身に矢が刺さり血だらけだった」
「思ったより矢を受けてしまって危なかったです」
「傷は治っている」
ボキボキ!
「兄さん、腕を鳴らして、なんか怖いな」
ゴス!
思いっきり兄さんのゲンコツを受けた。
「心配したんだぞ!」
「……はい」
「ゆっくり休め」
その後父上にも同じように怒られた。
父上も兄さんも揃ってゲンコツか。
俺が寝ている間、俺が死にかけて生死の境をさまよっている噂が流れた。
そして俺は元気になっても面会禁止で部屋に閉じこもった。
父上も兄さんも分かっている。
俺が重傷であればあるほど効果が高い。
父上と兄さんの情報操作でエルフ友好派とエルフ排除派は勢いを失った。
そして俺が倒れてから10日後、俺はエルフ友好派を呼んだ。
貴族全員が席に座ると俺の様子を伺うように見た。
「集まって貰い助かる。早速本題に入りたい。俺が矢を受けた件だが、無かった事にしたい」
「無かった事、とは?」
「矢を受けた事実はなかったし、エルフ友好派も無かった。これからは父上と兄さんに協力して欲しい。はいと言ってくれれば父上は今回の件は無かった事にすると約束してくださった」
これは交換条件だ。
俺への攻撃を無かった事にする代わりに友好派は父上について欲しい、そう言っている。
「もし、断った場合、我々への処罰はどうなるのでしょうか?」
「分からない。父上はうまくいけば無かったことにすると言ってくれた。だがうまくいかなければ父上がどう行動するか分からない」
何をやってくるか分からない、これが一番怖い。
対してはいと言えばいい未来が待っている。
飴と鞭で貴族を誘導する。
更に!
「頼む、俺は父上を助けたい! 皆で父上に協力して欲しい! 今回の件は矢を受けた俺が無かったことにして、皆が父上に協力する事でうやむやに出来る! 俺はそれ以上の裁量を持っていない! 皆が国を思う心が悲劇を招いてしまった。だがこれからは父上に協力し、良い国を作ってきたいんだ!」
適当にそれらしいことを言ったが、ただみんなに『はい』と言わせたいだけだ。
お願い+脅し+配慮のコンボだ。
更に。
「まだエルフ排除派に話を持ち掛けていない。エルフ友好派なら分かってくれると思った。皆が国の事を思ってくれると信じているからこそ最初に皆に話をしたんだ!」
敵対するエルフ排除派よりも話をしに来た事で重要感を持たせる。
「フラグ様のお気持ちは分かりました。我らを助けたいと思うその気持ちも分かりました。私は賛成ですが、出来ればエルフ賛成派で話し合いをさせていただきたいのです」
「分かった。俺は退出しよう。日が沈む頃に戻ってこよう。いい返事を貰えると信じている」
俺は部屋を出た。
多分うまくいく。
そしてエルフ友好派全員が俺の案に乗った。
父上がすかさず街に噂を流した。
『エルフ友好派とフラグが和解した。フラグは次エルフ排除派と話をつけに行く。要求を断った場合に備えてエルフ友好派を引き入れてある』
俺がエルフ排除派を呼んで同じ提案をすると、全員が提案に乗った。
内心納得していない貴族もいる。
だが表面上は父上に協力をする約束する。
その上で父上は強力を約束した貴族から兵士を招集してモンスター狩りや農地開拓、孤児院への寄付を命じた。
こうやって兵士を使い、資金を出させて余力を削る事で派閥の争いは沈静化した。
参勤交代みたいなものだ。
今回は本気を出した。
企むのは得意だけど、これだけ企みで本気を出すとは自分でも思わなかった。
ミステリの事を思いだした。
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