第19話 女王公認

 ママーン・ローズストロベリーがほほ笑む。

 ええ!

 呼びに来る係だと思ったらまさかの女王だと!

 いや待て待て、落ち着け。

 文化の違いがある。

 エルフの国は王が世襲制じゃなかったり狩猟採取の精神を持っていたりと色々違う。


 ましてや異世界でエルフの国だ。

 エルフの村でカルチャーショックを受けたばかりじゃないか。

 こういうものだと受け入れよう。


 元の世界だってこっちの世界から見たら異常だ。

 狩猟採取の時代から農耕の時代、産業革命の時代を超えて今ITと情報の時代に移っている。

 環境の変化は人々の意識を変えるトリガーとなる。

 俺は転生してその事を思い知った。

 


 ママーン・ローズストロベリーを見ると上品すぎて妖艶な感じがする。

 銀髪の長い髪と紫色の目を持ち、バライチゴの甘い香りが充満している。


「さあ、お話をしましょう」

「はい、その前に父上からの手紙です」

「ありがとうございます。今読んでもいいですか?」


「はい」


 女王の動きは優雅で品があった。


「はい、分かりました。確かに受け取りました。それで、何か聞きたいことがあれば答えましょう」

「占いババアについてです。あの正体は何ですか? 僕が知らない何かを隠しているように見えます」


「そうですね……占いババアが見た事、聞いた事を私は知っています。もちろんその事を戻って報告しても構いません」


 スパイか。

 

「うーん、決めました」

「はい?」

「他の3人も呼びましょう」


 隣にいた従者が素早く立ち去った。


「……」

「……」

「そう言えば、あなたが作ったイチゴミルクが美味しいのだとか、良ければ飲みたいです」

「……あの、毒が入っていたら危ないので警戒しましょう」


「まあ、毒殺する気があるのですか?」

「無いですけど」

「じゃあいいじゃないですか」

「……分かりました」


 イチゴミルクを渡すと女王が飲む。


「美味しいですよ、皆さんも飲んでみてください」


 従者も普通に飲んでいく。

 

「バライチゴのパンも美味しいみたいですね」

「はい、出しますね」


 パンを出すと女王も従者も普通に食べる。

 みんなかなりマイペースだな。


  

 モモイロの声が聞こえた。


「結構、走ったね」


 従者と3人が玉座の間に入ってきた。


「待っていましたよ。言っておきますね。この中に私への連絡役がいます」


 鼓動が激しくなる。

 ミステリか。

 問題はこの後だ。

 もしミステリが占いババアだったら俺は、どうすればいい?

 

「前に出ましょう」

「はい」


 モモイロが前に出た。


「ええええ?」

「フラグ、意外そうな顔をしていますね」

「いえ」

「エルフの国がモモイロから情報を得ている事は皆予想出来ていたと思いますよ」


 普通に考えればそうだ。

 モモイロはエルフだ。

 そして友好の為学園に入った。


 そう考えれば不思議ではない。

 じゃあ、ミステリは何だ?


「それと、モモイロ、バットと恋をしていますね?」

「……はい、申し訳ありません」

「いいのです。恋をするのは仕方の無い事、自分の心を騙すことなど出来ないのですから」


 モモイロが泣き出した。


「私の、私のせいで、ママーン様が、せっかくの、友好が、うええええん」


 エルフ排除派からすればバットとモモイロの恋はモモイロがバットを誘惑して騙している、そう取るだろう。

 たとえ2人が真に愛し合っていたとしてもそうは取られない。

 モモイロの行動はエルフの女王の責任になる。


 ママーンがモモイロを抱きしめた。


「いいのですよ、もし駄目になりそうなら2人でここに逃げてくればいいのです。バット、いつでもあなたを受け入れます」

「そうならぬよう努力します!」


 バットが礼をした。


「返事の手紙に2人の事は良きように書いておきます。手紙は後程渡しますね。今日はゆっくり休みましょう」


 モモイロとバットは父上が何とかしてくれるだろう。

 良かった。

 ん?


 占いババアがミステリの可能性!

 そうだ!

 占いババアの正体だ!


「あの! 占いババアについて! 正体を教えては貰えませんか!?」

「気になりますか?」

「はい」


「秘密です、ですが後で明かします」


 女王が笑顔で言った。

 秘密です、か。

 それは、何かがあると言っているのと同じことだ。

 この事はこれ以上聞けない。

 でも、1つだけある。


「占いババアからの占いについて聞きたいです!!」

「大きな声を出さなくても聞こえていますよ。まずは落ち着きましょう」

「すいません、占いババアが僕はエルフの娘と結ばれると言いました。エルフの娘とは誰の事ですか?」


「……質問ですが、誰か好きな女性がいるのですか? 例えば、エルフではない人族の女性のように」


 そう言って女王がミステリを見た。

 そしてさらに続ける。


「フラグ、あなたはずいぶんと必死に見えます。エルフとの恋は嫌ですか?」

「いえ、エルフでなくても、エルフでも好きなった人が好きです」


「何となく、分かりました。そうですね……思うがままに生きるのはどうでしょう? 政治や国の事など気にせずに、好きにするのがいいのではないでしょうか? 占いババアの言う事を気にする必要はありません。気にせず好きにするのがあなたらしいと思いますよ?」


 そうだ、まっとうな言葉だ。

 そして、占いババアからも言葉を変えて同じことを言われた。

 

 俺らしい、か。

 そうだよな、俺はクレイジーだ。

 前世でも好きになったあの子には一番人気だろうが関係なく連絡先を聞き、玉砕覚悟で突っ込んでいた。

 どんなにクレイジーと言われても関係なく行動を変えることは無かった。

 もっと思うがままにやろう。


 予言も占いも関係ない!

 好きにする!


「分かりました。俺の想いを言います!」

「いいですよ、自分の言葉で想いを伝えましょう」


 女王が少しだけ身を乗り出した。


「占いババアとミステリから同じ香りがして2人は同一人物ではないかと思っていた。でも俺はそれでもミステリが気になっている! 異性として! エルフだろうがエルフじゃなかろうが関係なくミステリが気になっていた!! 俺の想いは以上だ! 失礼しました!」


 全員が無言で立ち去る俺を見送った。


 ミステリから振られるかもしれない。


 ミステリは俺の思っているミステリじゃないかもしれない。

 それでもいい、それならそうで仕方がない。

 でも、まずは俺から動く、それが俺らしい。

 やってみてダメならまた1から考える。


 前世で色々言ってくるやつはいた。

『相手に好きと言わせるのがコツだ』とか言っている男子生徒がいたが、その男子生徒は裏で腹黒いと言われていた。


 好きならば嫉妬されてもいい。

 振られても仕方がない。

 でも想いは伝える。

 人間はバカじゃない、最初は付き合えたとしても性格がクズならすぐ別れがちだ。


 自分の責任で想いを伝える。


 俺はそうやって生きてきた。


 最近色々考えすぎた。


 俺らしい行動に戻って心が軽い。

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