第14話 王の意図

 ジャムパンを出すとエルフの女性が食べだした。

 隠れていたエルフも出てくる。

 エルフはスレンダーだ、でも、それでも痩せすぎている。

 パンを出して並べた。


「とりあえず1人1つ取って食べて欲しい」


 エルフがパンを取って食べながら話し始めた。


 ひょいぱく!


「ラブエルフ王国の、もぐもぐ、第二王子ですね? 話は、もぐもぐ、聞いています」


 ひょいぱく!


「ありがとうございます。もぐもぐ、クレイジーだと聞いていましたが、もぐもぐ、安心しました」


 ひょいぱく!


「もぐもぐ、来た瞬間に爆発させなくて、もぐもぐ、安心しました」


「……一旦食べてから話をしよう」


 こいつら、結構失礼だな。

 初手でパンを口に入れてから話しだす。

 でも、裏表が無い方がやりやすいか。

 俺の噂は他国まで及んでいるとはな。

 

 もっと言うと警戒心が無い。

 多種族がぞろぞろと歩いてきたのに毒の心配もせずパンを食べだしているぞ?

 みんな食事に夢中だ。

 そっとしておこう。


 食事が終わると食料が不足しているとの事だったので食料を寄付した。


「わあ、こんなに! ありがとうございます!」

「困った事があれば何でも言ってください」

「第二王子を見直しました!」


 微妙に失礼なんだよな。


「もう困ったことは無いよな?」

「いえ、石化したみんなを助けて欲しいです」

「石化解除のポーションがあればいいんだよな?」

「はい」


 石化解除のポーションを出すと、村入り口のサイドに置かれていた石像にかけていく。


「ええええ! あれ石像じゃなくて石化したエルフだったのか!」


 おかしくね?

 色々おかしくね?

 いや、待て待て、理由があるはずだ。


「なんで石化解除をしなかったんだ?」

「石化を解除すると食料が無くなるので、回復ポーションを優先して作っていました」


 なるほど、ここを調査するように言われた理由が分かった。

 この村の食料問題に対しての調査だ。


「王にここを調査するように言われてるんだけど、誰か案内して欲しい」

「私が案内します!」


 みんなには休んでもらい、俺はエルフ案内の元村を回った。

 

「農地はこれだけか?」

「はい、私達は農業よりも森の恵みから糧を得ています」

「そっか、村の人口は分かるか?」

「ちゃんとはわかりませんが、調べておきましょうか?」


「頼む、出来れば昔と比べてどのくらい人口が変わったかも調べて欲しい比較は、20年前で頼む」

「分かりました」

「村はこれで全部か?」

「はい、全部回りました」

「村の外を探索してきていいか?」

「いいですよ、帰ってくるまでに調べておきますね」


 俺は森を探索した。



 村に帰ると宴会が行われていた。

 エルフが集まってくる。


「フラグさん、一緒に食べましょう」

「ええ! 食料をそんなに食べて大丈夫か?」

「皆お腹が空いていたんですから、食べましょう」


 待て待て、おかしいおかしい。

 俺は座りながら考えた。


 ああ、そうか。

 狩猟採取民族はこんなだ。

 食料を貯めて置く習慣がないわけではないが、たくさん貯める意識はない。


 よくマンモスを狩ったら火を囲んで食べ尽くすまで踊るみたいなのがあるだろ?

 必要以上に取らない、取り過ぎると森の恵みが無くなるから取り尽くすのは悪だ。

 狩猟採取だけならそれが正解になる。


 人の国からエルフの国に農業が伝わったのは最近だ。

 農耕や畜産中心の文化だと穀物をどの程度貯めておくかの計算が大事になって来る。

 俺の前世や今いる国の常識は通用しない、それが普通か。



「エルフの人数について分かったか?」

「分かりましたよ。今400人くらいで、20年くらい前は200人くらいいました。早く調べたのではっきりした数ではないですけど」

「十分だ」


 人口が倍に増えたか、答えが見えてきた。

 耳に痛い話になる。

 だが今言おう。


「皆聞いて欲しい! この村の食料問題、その根本が見えたから伝えておきたい!」


 全員が俺を見た。


「結論から言おう、食料問題の原因は農地や森の恵みに対してエルフの人口が増えすぎた事だ!」


 エルフが手を挙げる。


「ちょっと待ってください! 農地はかなり増やしていますよ」

「そうかもしれない、だが、普通に考えれば農地の開墾よりもエルフの増えるスピードの方が早い!」


 前世の歴史では封建主義のヨーロッパでも江戸時代でもそうだったが、伝統が重視されてきた。

 長男が家督を継いで家を引き継いでいく、これはあの時代においては理に適っていた。

 好き勝手に子供を増やして木を切っていったらあっという間に資源が無くなり、食料危機に陥るからだ。


「そんな、どうすればいいんですか?」

「対策は、超大規模な農地開拓、人の国との交易、もしくは移民でここに住む人口を減らす事だ」


「う~ん、難しいですね」

「でも、俺達今は食べ物があるからなあ」

「後で考えましょう、料理した食事がもったいないわ」


 こうなるよな。

 前世のように学校教育が一般的ではなく、狩猟採取の考え方が根強いエルフだ。

 食料を寄付した今が俺の話を聞いてくれるベストタイミングだった。

 話は聞いてもらえたが、心は簡単には変わらない。


 そうか、父上の意図が見えてきた。

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