第13話 ターンポイントの村

 前世の俺は、高校2年生で、みんなからは変わっていると思われていた。

 多分、平均と考え方が違ったんだと思う。

 みんなのように横並び意識はなく、気になった事があればすぐにやってみたくなる、そういう人間で今でもそうだ。


 気になればすぐに動く。

 考える前にやった方が早い。

 気になったままでいる方が気持ちが悪い。


 そういう俺は、クラスでも浮いていた。

 そんな俺にも高校2年で好きな人が出来た。

 ミステリアスな雰囲気のクラスメート、得府野(エルフノ)、好きになった俺はすぐに連絡先を交換した。


 得府野はクラスで1番人気があった。

 そしてクラスの男子からは案の定馬鹿にされた。


「1番人気の得府野さんに告白するとか、お前のランクを弁えろよ」


「カースト外のお前が調子に乗るなって」


「うわ、無理ゲーじゃん、はははははは!」


「お前本当に何も考えてないよな」


 それでも得府野と毎日話をするようになって、そして屋上で告白した。

 その瞬間に、黒い空間に2人は吸い込まれた。


「うーん、得府野」


 目を覚ますとミステリが俺を膝枕していた。

 温かくて柔らかい。


「えるふの?」

「いや、何でもない」


 この状況、エルフと、モモイロとミステリを見間違えたと思われるか……

 仕方がない。

 起き上がって呼吸を整える。


「おはよう」

「うん、おはよう」

「膝が、痛くないか?」

「大丈夫、頑張ったんだよね」


「え?」

「たくさん、ポーションを作ったんでしょ? バライチゴと、薬の匂いがする」

「そう、だな、ひたすら薬草を切って煮て、抽出して、ビンに詰めて、冷却して保存魔法をかけて、その繰り返しだった」


「王子、王子はエルフが好きですか?」

「さっきのうわごとか、まあ好きだけど、美人で性格が良ければ人族も好きだ」

「私のような美人過ぎる女兵士もいますよ」


 女兵士はふぁさっと髪をかき上げた。

 こいつの言葉は8割がネタだ。

 適当に流そう。


「この中だとミステリかモモイロがいいかな」

「また私以外ですか!」

「はっはっは、お前は駄目とは言ってないからな」

「くう、2人は確かに美人ですけど、私もそこそこモテますよ」


「馬車が止まったか。そろそろ野営の用意をしよう」

「えー! 無視ですか」


 その後女兵士は「お前も働け」と注意を受けていた。

 馬が水分補給を終えると草を取り出して与えつつ食事の用意をする。


「焼き鳥ですか、美味しそうですね」


 俺は焚火でスープを煮つつ、木に刺した焼き鳥と焼き魚を焚火の横に刺していった。


「いいですね、収納魔法、じゅるり」


 女性兵士はさっきから焼き鳥を見ている。


「みんなで食べていてくれ」

「どこに行くの?」


 ミステリが立ち上がった。


「薬草の匂いがするから、取って来る」


 人里離れた場所には薬草が多く生えている。

 その分モンスターも多い。

 光の魔法で夜を照らしつつ薬草の匂いを探ると薬草の群生地があった。

 操作魔法で薬草を引っこ抜き、浮かんだ薬草を収納魔法で回収する。


「器用なのね」


 ミステリがその光景を見学する。


「生産職はこんなもんだろ?」

「フラグのようにできる生産職は知らないわ」

「小さいころから、紋章の訓練が出来た。貴族や王族の特権だな、あ、金持ちも出来るか」


 薬草を8割ほど収穫すると次はサーチの魔法を使った。

 木の実もあるか。

 操作魔法と収納魔法で木の実も回収する。


「ただ食べ物や薬草を回収するだけだから、見ていてもつまらないだろ?」

「そんな事無いわ。あたりを照らしながら操作魔法と収納魔法を使って、食べ物や薬草を探すのは凄いと思うの」


「そうか?」

「そうよ、生産の紋章を持っている人はたくさんいるわ。人族にもエルフにもね。でも1人でも森を探索して収穫まで出来る人はあまりいないと思うの、それに旅に連れて行くとモンスターに殺されちゃう」


「突出した能力があって羨ましいわ。私は器用貧乏だから」

「器用貧乏、いいじゃないか、何でもそつなくこなせるだろ? 性格でも能力でも、突出していると目立つ。俺は悪目立ちしている方だけどな」


「私は、目立つ勇気が無いわ。でも、そう考えると器用貧乏は合っているのかも?」


 女性としての魅力は突出しているんだけどな。


「明日はエルフの村か」

「そうね、怖くない?」

「何が?」

「エルフの村が、怖くない?」


 エルフの国と人の国は昔戦争をしていた。

 父上の国では戦争を知る老人世代はエルフに否定的な人が多い。

 人族はエルフに批判的かどうか見た目で分かりやすいのだ。


 でもエルフは長寿で見た目で年が分からない。

 誰が何才かなんて見ても分からないのだ。


「分からない。村のエルフと会った事が無いからな。行ってみないと分からない」

「そ、そうよね」

「行ってみて会って決めるさ」

「強いのね」


「俺はクレイジーだからな、普通の人がやらない事でも踏み込むぞ」

「そうじゃないわ、みんなからどう思われるか分かっているのに踏み出せるのは凄いと思う」


 顔が熱くなる。

 ここで褒められると思っていなかった。


「夜が遅い、今日は帰ろう。俺は夜行性になってしまったようだ」

「うん、お休み」

「ああ、お休み」


 俺は夜風で熱を冷ますように素材を集め続けた。



 ◇



「……ください」


「起きてください! ターンポイントの村につきましたよ!」

「ん、着いたか」


 村に着くと入り口にエルフの石像が並んでいた。

 サイドに並ぶ石像を抜けるとエルフが近づいてくる。


「すんすん、いい匂いがします。お腹が空いたので食事を分けてください」

「エルフって、こいつに似てね?」


 俺が女性兵士を指差すとみんなが頷いた。


「ど、そういう意味ですか!」

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