第12話 信頼ゼロの旅

 4人で旅に出る。

 父上がいない、つまり、道中は好きにやっていいわけだ。

 旅の道中にはモンスターが出るかもしれない、橋が壊れているかもしれない。

 川が増水している可能性もあるし、困った民が助けを求めてくるかもしれない。


 のんびり向かっても問題はないし、どうとでも言い訳が出来る。

 当然、他の3人に悟られると父上にバレる可能性はある、だがしかし、バレなければいい。

 そう、バレなければいいのだ。


 城を出て門をくぐった瞬間に、自由時間が始まる!


 ギイイイイイ!

 門が開かれて光が差し込んだ。


 目の前には8人の兵士が敬礼していた。


「「お待ちしておりました! フラグ王子!」」

「……俺は今王命を受けている。時間が無い」


「王子の速やかなる移動を手助けするため馬車を用意しております!」

「俺は父上から4人のパーティーでエルフの村に向かうよう言われている」

「はい、その行動を補助するため我らがいます!」


「「ビシ!」」


 8人が声に出して敬礼をする。


「すぐに父上と話をしてくる」

「いえ、我らも王命を受けております! フラグを遊ばせぬよう見張れとの事です」

「なん、だ、と。天使のような我が子に見張りをつけるとは信じられないな」


 その瞬間に女性兵士が笑い出した。


「そこ! 笑うな!」

「ぷふ、失礼しました!」

「なお、クレイジーな行いがあればすべて報告させていただきます!」

「馬車を用意しております、最速で効率重視の旅をご約束します!」


 く、父上め、やってくれたな!

 旅に監視まで付けるとは!


「なお、速やかに馬車に乗らない場合、すぐに王を呼ぶようにと、命令を追加する用意があるとの事です。さあ、馬車に乗りましょう!」


 軍用馬車2台か。

 乗り心地よりも軽さと修理のしやすさを重視されていて、荷車にホロをつけた物資運搬によく使われるタイプだ。

 椅子は無く、床に座るタイプの馬車にパーティー4人と女性兵士1人が乗り込み出発する、さっき笑っていた兵士か。


 俺とバットが右側、女性3人が左側に座って話をする。

 見えそうで見えないスカートの中に視線がいってしまう。

 女性兵士が笑顔で話しかけてきた。


「いい天気ですね」

「まったくだ」

「不満ですか?」

「ポーション作りで閉じ込められて出られたと思ったら休む暇もなく旅が始まった。休みたい」


「王はフラグ様がごゆっくりとお休み頂けるよう馬車を用意いたしました」

「軍用の運搬馬車だけどな」

「フラグ様はどこでもお休みする事が出来ると王はおっしゃっていました。眠ってもいいんですよ」


「なるほどな、寝ている時以外働かせたいのか」

「天使のような我が子に試練を与えて、ぷふ、期待しているんですよ。ぷふふふ」

「言うなら笑わずに言い切ってくれ! 最後まで笑わずに言い切ってくれ!」


「失礼しました。膝枕をしてあげてもいいですよ?」

「いやあ、して貰うならミステリかモモイロだな」

「なんで私以外なんですか!」


「お前意外とは言っていないだろ?」

「同じことです。寝てしまわれる前に、私はジャムパンが好きです」

「王子にパンを要求してくるか」


「いえ、ジャムパンが好きだと言っただけですが、もし下さるなら喜んでいただきます。フラグ様のバライチゴジャムパンは評判なんですよ」

「味まで、指定してくる、だと!」

「バライチゴはジャムにして塗って食べるのが一番です」


「うむ、分かっているようだな。みんなに配ろう」


 俺は全員にジャムパンを配る。

 当然他の馬車に飛び移り乗った兵士にも配った。


 パーティーメンバーだけでなく、兵士もお礼を言ってくれた。


「さすがジャムパン王子です。じゅるり」

「ありがとうございます」

「クレイ、王子、ありがとうございます」


 今こいつ、クレイジー王子って言おうとしたな?


「おお、あの評判のジャムパンですか! ありがとうございます」

「バライチゴジャムパン、縁起がいいですね、いただきます」


 縁起がいいのか?


 馬車に戻ると女性兵士が黙った。

 もぐもぐもぐもぐ、ごくん。

 お菓子をあげたら黙る子供か!


「とても素敵な味でした」

「もう食ったのか!」

「喉が渇きました。イチゴミルクがいいです」


 俺はイチゴミルクを差し出すと遠慮なく受け取って飲み干した。


「ふう、絶妙な甘さと酸味のハーモニーです」

 

 その後女性兵士はどうでもいい話をひたすら続けた。

 そう言えば、あまり寝ていなかった。

 どうでもいい話で、まぶたが、重くなってくる。

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