第10話 魔女

 巨大なバライチゴの木で出来た城にエルフの女王がいた。

 バライチゴで出来た玉座の周りには花が咲き乱れ、バライチゴの香りが漂う。



【エルフの女王視点】


 フードを被った深く被った女性が頭を下げる。


「ご苦労でした。ラブエルフ王国の報告をお願いします」

「はい、フラグ・ラブエルフとの接触は順調です。王城の噂を集めた所、フラグがエルフと結ばれる噂は順調に広まっております」

「ふふふ、占いババアの効果はすさまじいですね」


「はい、派手なキャラと分かりやすい予言はラブエルフ王国の噂を広める為打ってつけですから」

「ええ、民は分かりやすいストーリーを好み、そして勝手に噂を広めてくれます」

「占いババアとフラグが怒鳴り合う姿は多くの者に目撃されています。


「いいですか? 私はエルフと第二王子であるフラグが結ばれる事を望んでいます」

「分かっております。エルフと人族の争いは終わりましたがまだ芽は残っています。今もなお、エルフ排除派の勢力は衰えていません」


「そうです。真面目な第一王子がエルフと結ばれたとなればまた王家の暗殺事件が再度起きかねません。ですが一見クレイジーに見えて頭が良く、やらかしを起こしてもまたかで済まされるあの性格、人柄は貴重です。まずは第二王子、フラグ・ラブエルフとエルフが結ばれる必要があります。細かい言っての積み重ねが平和を生むのです」


「分かっております」

「所で、フラグに恋をしてしまった、という事はありませんよね?」

「まさか、ありえません。それ以前に私はエルフと人族の平和を願っているのですから」


「ええ、そうでしょうとも、エルフとフラグが結ばれることはもう決まっているのですから。ましてやエルフでもない人族がフラグと結ばれるなど、あってはなりません」


「心配ありません。私がここに来たことも、フラグに私の意図がバレる事もありません。フラグは今、ポーション作りを命じられてしばらくの間監禁状態ですから」

「それは分かりました、ですがあなたは詰めが甘いというか、うっかりさんな所があるので心配です」


「心配ありません」

「……信じましょう」


 彼女はフードを被ったまま去っていった。



【フラグ視点】


 俺は超巨大窯でポーションを作る。

 父上から「城にポーションのストックが無くなっていている。それと王政も財源が苦しい、ポーションを全部寄付してくれ」と言って全部没収された。

 更にまだ全然足りないから本気を出すようにと言われて俺は城に籠っている。


 台に登って身長より高い窯を魔女のようにかき混ぜる。


「あっつい! でも、もう少しで薬草が無くなる」


 魔法で窯からポーションを抽出し、ビンに入れると蓋を軽く閉める。

 冷却して保存魔法をかけてポーションが完成すると兵士が大釜を運んでいく。


「ふう、ひと休みだ」


 収納魔法からジャムを塗ったパンを出して食べながら水魔法で口を潤し飲みこむ。


「フラグ様、追加の薬草、入りました!」

「いやいいって」

「もっと持ってきます!」

「聞けって!」


「どんどん持ってきます!」

「あれ? 俺いるよな? まさかもう過労死した!」

「元気そうで何よりです! どんどん持ってきます!」


 シュタタタ!


「待て!」


 ……でも、窯を洗うまでは休める。


「「窯入ります!」」

「え? もう洗い終わったのか?」

「いえ、窯を2つ用意してあります!」

「2サイクルでぶん回せとの命令です!」


「なん、だと! 休む言い訳を全部潰しに来てる!」


 薬草が途切れない。

 1つの窯を洗っている内に次の窯が入れ替わるように入って来る。

 工場の合理化のように俺は歯車のように働き続けるのか!


「ずっと座っているようなら王を呼ぶようにと、直々の命令です!」


 いつもならいい。

 ポーションを作るのは好きだ。

 だが今はパーティーの事が気になっている。


 俺は薬草を刻んだ。


 トトトトトトトトトトトトトトン!


 そしてゴリゴリとすり潰す。

 この規模になると、効率はいいけど、作業になって来る。

 しかもワンオペとか狂っている。


 俺何かしたか?

 いや、何かあれば父上が激おこですぐにわかる。

 父上も兄さんも合理的だ。

 

 特に父上はサイクルコンピューターを連想させる。

 俺が何回爆破したか、貴族を何回ブチ切れさせたかなどを正確に記憶してカウントしている。


「……何か、企んでるな?」


 父上は1つの事をするだけで複数の成果を望む。

 多くのメリットとデメリットをいつも天秤にかけて合理的な選択を繰り返す。


 俺は嫌な予感を感じながらポーションを作り続けた。

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