第6話 バライチゴ

「家まで行こうか」


 兵士から背を向けて4人で家に向かう。

 後ろからざわざわと声が聞こえるが気にしない事にしよう。


 防壁から離れて中心部から離れた森に入った。

 木のトンネルを10メートルほど歩く。


 ミステリが感激したように声を上げる。


「きれいな道ね」

「木のトンネルにはこだわった」

「まるで妖精の家みたい」


「そう、妖精とは俺の事だ」

「爆破の妖精ね」

「爆炎の妖精と呼んでもらってもいい」

「爆炎をやめれば城に戻れると思うわ」

「いや、ここが気に入っている」


 歩くと日光に照らされた家に光が差し込む。

 扉に手をかざして魔力を送るとオートで扉が開いた。


 ギイイイイ!


「皆でくつろいでくれ。酒もジュースもあるぞ」

「フラグはしっかりしてるのね。凄く片付けられてるわ」


 城を爆破して追い出されて、学園の寮を爆破して追い出されたからここに住んでいるだけだ。

 掃除は生産魔法で楽をしているし、家というより工房に近い感覚で使っている。


「私も手伝うよ」

「モモイロはバットと一緒にくつろいでくれ。ワインだ」


 ワインとグラス、そしてジュースも出した。


「でも、フラグだけでいつも作ってるでしょ?」

「こういうのが好きなんだ」


 俺は右手の紋章を見せる。


「いつも世話になってるからな。俺がやらかした時、代わりに謝ってくれたんだろ? みんなは楽しんでくれ」


 そう言ってキッチンに向かうとミステリがついてきた。


「私も料理なら出来るわ」

「ミステリはバライチゴが好きだったよな?」

「ええ、そうよ」


「バライチゴの料理だと何が好き? 俺はジャムにしてパンに塗って食べるのが好きだ」

「私はイチゴミルク」


「そっちかあ、俺もバライチゴは好きだけど、飲み物はイチゴミルクでいいか?」

「イチゴは生で食べるものよ」


 ミステリにも譲れないモノがあるようだ。


「ジャムうまいだろ」

「イチゴは生で食べるもの」

「両方作ろう」


「私も作るわ」

「じゃあ、サラダと、燻製肉を切って炙って欲しい」

「分かったわ。水が出て、排水も、オーブンも、何でもあるのね」

「生産の紋章があるからな」


 ミステリは器用な指先でサラダを作り、あっという間に燻製肉を切り終わった。

 どこに何があるかすぐに見つけているのを見て勘が良いと感じた。


「速い!」

「赤魔法の紋章を持っているから」


 本当に赤魔法の紋章なのか?

 器用貧乏な紋章じゃなくても努力すれば赤魔法だと思わせる事が出来る。

 ミステリは燻製肉を炙りつつパンを温めながらも俺の料理を見ている。

 距離が近い。


「……」

「……」

「生産魔法を使わないのね」

「味が変わらなくてもこうやって作った方が美味しく感じるんだ」

「そうかも」


「イチゴミルクはどうだろうか?」


 ミステリは髪を片手で押さえながらスプーンでイチゴミルクをすくって食べた。

 モモイロとは違った魅力がある。

 

「どうしたの?」

「何でもない。料理を持って行こう」


 2人で戻るとモモイロが俺とミステリを見て言った。


「フラグとミステリは、付き合ってるみたいだね」

「……そんなことは無い」

「乾杯をしよう」


 俺とミステリはワイングラスにイチゴミルクを注ぎ、モモイロとバットはワイングラスに赤ワインを注いだ。

 こんなことをしてもみんなは突っ込まない。

 

「「乾杯!」」


 4人で料理を食べた。



 ◇



 そして酔っぱらった。


「シャワー、借りるね」

「モモイロ、ふらついてるけど大丈夫?」

「大丈夫」

「シャワー、私も行ってくるわ」


「うん、モモイロをよろしく」

「頼んだぞ」

「ええ、行ってくるわ」


 ミステリがモモイロを支えながらシャワーに向かった。

 2人がいなくなるとバットがゆっくりと話を始めた。


「こういうのは久しぶりだね」

「そうだな」

「森に住みたくて何回も爆破事件を起こしたのかな?」


「まさか、作りたい魔道具が思いついたらその場で作らずにはいられなくなって、結果失敗して爆発しただけだ。それに生産の紋章は慣れるまで爆発するのはよくある事」

「無いと思うけど、高エネルギーのモノを最初から作ろうとしすぎるんだよ」


 普通は新しい魔道具を作る場合最初に小さなミニチュア魔道具を作って動作確認をする。

 その後に普通サイズで作ってみて使用感を確認して形を変えて完成させる。


「最初から理想をイメージして作らずにはいられない」

「……フラグ」


「どうした?」

「モモイロと、ミステリ、どっちが好きなの?」


 言葉に詰まった。

 モモイロは前から好きだったと思う。

 でも、モモイロは何を考えているか分かりやすく見えて分からない。


 ミステリは石化を解いた瞬間にバライチゴの甘い香りがして、目を奪われた。

 でも、たまたま偶然会っただけだ。


 そうじゃない、俺はどっちが好きなんだ?


 占いババアの言葉を思い出す。


『フラグ、お前はエルフの娘と結ばれる』


 そして俺の能力『予言フラグ』のメッセージはまだ更新されていない。


『モモイロはパーティーの誰かに恋をしています』


『バットは裏切ります』


『フラグはエルフと結ばれます』


『目の前の石像はフラグに嘘をつきます』


 モモイロは誰が好きなんだ?


 バットは裏切らないと信じたい。


 俺はエルフと結ばれる?

 なら俺はモモイロか? モモイロと結ばれるのか?

 ミステリは人族だ。

 でも、俺はミステリに惹かれ始めていた。


 でも、ミステリは俺に嘘をつく、いや、もう嘘をついたのか?

 何の嘘だ?

 俺は、ミステリに騙されているのか?

 それとも今から嘘をつかれるのか?


 そもそも、予言を信じてしまえば俺は皆を信頼していない事になる。


「あー、気持ちよかった」

「フラグ、シャワーありがとうね」


 モモイロとミステリが火照った顔、無防備な姿で戻ってきた。

 2人の姿に目を奪われる。


 酔いと2人の魅力、


 占いババアの言葉、


 予言の力、

 

 考えがまとまらない。


 でも、1つだけ気が付いた。

 ミステリと占いババアからは、同じ匂いがした。

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