第4話 パーティー

「モモイロが来たようだ。後は頼むぞ」


 兄さんが俺の背中を叩いて去っていく。

 すれ違うようにやってきたモモイロが笑顔で手を振った。

 柔らかい笑顔とモモイロの髪と瞳。

 セミロングの髪とスカートが風で揺れ、右の内太ももから攻魔の紋章がちらちらと顔を覗かせる。

 スレンダーな体つきとその笑顔は多くの者が心を奪われる。



「フラグ、おはよう」

「おはよう」

「……元気ないね」

「そんなことは無い。ただ父上に説教をされただけだ」

 

 モモイロが背伸びをして俺の頭を撫でる。

 モモイロはこういう所がある。

 俺だけじゃなく、バットにも同じことをする。


「フラグが石化を解除した子がいるって聞いたけど、いないね」

「今装備を変えている」

「どんな子なんだろ?」


「俺もそこまで話していないんだ。でも、モモイロがいないと世話をする時に困るから頼むぞ」

「任せて」


 予言が気になる。

 でも、モモイロは勘が鋭い。

 感情が表に出て分かりやすく見えるがでも実際は分かりずらい。


 隠して聞いても駄目だ。

 気になる事をストレートに聞こう。


「……なにか企んでる?」

「企んでねーよ! 聞くかどうか迷っていただけだ」

「え? なになに?」

「……モモイロってさ、パーティーに好きな人がいたりする? てか俺とバットどっちが好み?」


 モモイロの顔が赤くなった。

 これだ、赤くはなる、俺とバット、どっちかが好きな事は分かる。

 でも、どっちなのかが分からない。

 本当に俺とバットで態度が変わらないからだ。

 モモイロが俺の腕を押した。


「もお、良くない、そう言うの良くないよ!」

「な? 企んでないだろ? 気になった事を言うか迷ってただけだ。で?」

「ダメダメ、答えないから!」


「結局答えないのか」

「よくない」

「俺は気になった事があると良くないかなーと思いつつ、聞いてしまう」


「フラグはそういう人だもんね」

「で?」

「もういいから!」

「そっか、残念だ。この話はやめておこう」

「やめておこうよ」


 モモイロは落ち着きが無くなり髪をしきりにいじる。

 やっぱり分からない。

 顔が赤くはなってもどっちの顔を思い浮かべているのか分からない。

 引っ掛け問題みたいなのも勘が良いから一瞬で察して赤くなる。


 質問を制限して聞いても質問の意図をすぐに見抜く為意味がない。

 仮に『バットの事が好きか?』と聞いても一瞬で俺の質問の本質を見抜くため結局聞き方を変えても意味がない。

 分かりやすそうで分かりにくい、それがモモイロだ。


「そう言えば、ミステリの世話をするよう言われてるんだけど」

「私もサポートするように言われたよ」

「ミステリが、なんていうか分からないけど、良ければバットも一緒に歓迎会をやろうか」


「いいね、飲む?」

「いいぞ、ジュースもワインもストックしてある。でも、ミステリに聞いてからな」

「そうだね」


「……」

「……酔っても質問には答えないよ?」

「だろうな」


 モモイロに聞いても分からない。

 でも分かった事もある。

 俺かバット、どっちかに恋をしているのは確定だ。

 でも、普通に考えればバットだろうな。


 バットはとにかくモテる。

 イメージとしてはホワイトナイト。

 この王都の中で、兄さんの次、そう、王都ランキング2位にいる(俺調べ)のだ。


 対して俺は『やっべえ奴』だ。

 俺が王子な為、一応リーダーをやってはいる。

 でもパーティーでの役割ではこう思われている。


 俺=クレイジーでやばい奴


 バット=ヤバイ俺を抑えてくれる白馬の騎士。


 モモイロ=美人過ぎるエルフ魔法使い。


「また変な事考えてる?」


 勘が良すぎる!


「楽しそうだね」

「バットも来たか」


 バット・ナイトロード。

 金色の髪を輝かせ笑う歯までもが輝く。

 バットは貴族で剣士の紋章を持つイケメンだ。



「うん、フラグだけでミステリの世話をするのは大変だから、パーティーでサポートするようにって」


「それ誰経由? 父上から?」

「王様からだよ」


 4人でパーティーを組むお膳立てが出来てるじゃないか。

 これはやりやすい。


「どうやら父上も兄さんも忙しいようだ。2人に手伝って欲しい」


 俺はまた予言のメッセージが頭をよぎる。


『バットは裏切ります』


 バットは俺の親友だ。

 でも、確認せずにはいられない。

 でも、裏切るよな? とか聞くことは出来ない。

 親友にそんな事は言いたくない。


「バット、何か俺に隠している事とか無いか?」

「……誰しも、人に言えない事くらいはあるよ」

「もう、フラグ、今日は一段と変だよ?」


「一段と変とか言うなよ!」

「……秘密はあるよ。でも、僕がフラグを裏切るとか、そういうことは無いから安心して欲しい」


「そうだよな、俺とバットは親友だ。お互いに裏切ることは無いだろう」

「うん、僕とフラグは親友だ。もしもフラグを裏切るような事になったとしたら、その前に僕は自分の命を自ら絶つだろうね」


「そういう話はやめよ? ね?」

「僕は本気だよ、親友であるフラグを裏切る事になるくらいなら僕は自ら命を絶つ、要はそのくらい、僕はフラグを裏切ったりしないって事だよ。絶対に裏切らないから僕が死ぬ事もない、僕はフラグを裏切らない自信があるから言えるんだ」


 友人を、バットを疑うなんて最低だな。

 バットの祖父がいくらエルフ排除派の筆頭だからと言って疑うのは最低だ。

 この話はやめよう。

 俺は自分がクレイジーである事を自覚している。

 でも、親友にまでクレイジーでいることは無いか。

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