第29話



 …なんだ、この霊力…



 表皮が剥がれるような鋭い“圧”。


 地面が逆立つような冷たい悪寒。


 感じたこともない霊子の濃度。


 ——その“奔流”が、前方から吹き荒んでいた。


 何が起こったのかわからなかった。


 敵は確かに宙に“止まっていた”。


 クルルへの攻撃の真っ只中だったんだ。


 俺は急いで展開した。


 急いで、札に霊力を込めた。




 ザッ




 病院の方角、——その正面だ。


 見慣れた人影が、草むらの上へと降り立つ。




 …先…生…?




 目を擦った。


 あり得ないと思った。


 目の前には、感じたこともないほどの巨大な霊力が揺らめいていた。


 青い焔のように燃え盛る“霊燐”が見えるのは、特級呪霊でもない限りあり得ない。


 濃度の濃い瘴気。


 のしかかるような重い“呪気”。


 それらの一切はおよそ数百体の呪霊が積み重なったように禍々しい。


 …いや、下手をするとそれ以上の——




 バッ




 敵は折れたカマを拾うこともなく、姿を暗ます。


 呪霊は自らの体を即座に回復することができる。


 「霊体」とはそういうものだ。


 ある一定の濃度の霊子が地上に満ちていれば、それを利用して肉体を再構築できる。


 背後からの攻撃に驚いたのか、距離を取っていた。


 病院の屋上。


 その屋根の先端に飛び移り。

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