第十九話 転生先の秘密の部屋


 グレスの引き止めに成功した俺は部屋のトイレで大きいのをしていた。


「グレスは残ってくれたことだし本当に良かった」


 そう思いながら俺はウォシュレットのボタンを押そうとした時、死角になっている場所にボタンがあるのに気づいた。


「なんだこれ?」


 もちろん、小さい頃に「勝手に分からないボタンを押しては行けません!」って親にエレベーターとかで怒られたことあるけれど男の子というものはそう言われると押したくなるもの。


 このいかにも押してはいけなさそうなボタンも今の俺には押したくてたまらなくなっていた。


「別にこの部屋は一応俺の部屋だし……いいよな?」


 誰もいないことが分かっているのに下ろしたズボンを引きずりながらドアを開け部屋に誰もいないのを確認する。


 小さい声で「おーい誰かいるか?」と声をかけて誰も返してこないことを確認して俺はドアを閉めて再び便座に座った。


 出すものを出し、お尻を拭いていよいよボタンを押す。


 ワクワクとドキドキ、そして男の子特有の好奇心で指先が震えた。


 ポチッ。

 押した……やってしまったぞ俺。


 ブー、ブー、ブー。

 警告音が鳴り響き赤いランプが点滅するトイレ。


 驚いた俺は目がかっ開き全身が硬直して汗がドバッと出てきてボタンを押したことにめちゃくちゃ後悔した。


「止まれ止まれ止まれ!」


 軽くパニックになりどうすれば良いか分からなくなって頭が真っ白なった。


 ゴゴゴゴと便座の後ろの壁が上がっていく。


「あわわわわ」

 壊してしまった、トイレを壊してしまった。


 しかし、そこには扉があった。

「何だ?この部屋は?」


 勝手に入っては行けないだろうと思いながらも「ここまでやってしまったんだ。急に現れたドアの一つや二つ開けたところで関係ない」と恐る恐るドアノブを回して秘密の部屋を開けた。


「な、なんだこりゃ!」

 目の前の光景に俺は腰を抜かした。


「こ、これはスカイが隠していたお金じゃないか!!」

 秘密の部屋には大量のお金が積んであった。


「これは……直ぐにみんなに知らせないと!」

 俺はみんなを呼びぶために部屋を出た。


 俺の部屋の前に集まったジェーン王と三人。


 グレスが面倒くさそうな顔をして俺に尋ねてきた。


「で、何の用ですか?みんな貴方と違って忙しいんですけど」


 そこまで忙しくないだろ……俺が呼び出した時、ベッドで枕に顔うずめてゴロゴロ転がってたじゃないか。


「そうだぞスカイ。慌てた様子で急に早く来てくださいってみんなが驚くことでもあったのか?」


 ジェーン王も急に呼び出したからか迷惑そうな顔をしていた。


 相変わらずのルーヴとソフィアはキョトンとした顔をして流れに身を任せている感じだった。


「とりあえず部屋の中へどうぞ」

 四人を案内して今度はトイレの前に立たせる。


 みんな唖然としていた。


 軽蔑した目で俺を見るグレス。

「まさか、トイレ掃除をしろっていうんですか?」


「違うよ!いいから静かにしてくれ!」


 俺はグレスにいつものように冷たくされながらトレイのドアを開けた。


 俺の予想通りみんな驚いた顔をしており口が開いていた。


 それもそのはず、便器の奥に広い部屋があり、多量のお金が置いてあれば誰だって驚くはず。


「こ、これは……」

 ソフィアが腰を抜かしながら俺に尋ねてきた。


 俺はスカイが生前、搾り取ったお金をどこかに隠していると予想していた。

 恐らくこのお金がそうだろうと思っている。

 

「恐らく国民から搾り取ったお金だ、ここにあったとは……」



初めて見た大金に驚きで開いた口が塞がらなかったグレスは我に帰り俺に呆れた顔で尋ねてきた。

 

「で、何でわざわざトレイの壁を切り抜いて奥に部屋を作ってまでここに隠そうとしたんですか?」


 そんなこと急に言われても実際隠したの俺じゃないし……。


「俺が知るわけないじゃん!」


「俺が!?」

 グレスは俺の失言を聞き逃さなかった。

 目を細め怪訝な面持ちで聞き返してきた。


「あ……」

 そうだ、ここはスカイの部屋つまりこの体に転生した俺の部屋ということ。


「いや、記憶喪失になる前に作ったんだから記憶をなくした俺が知るわけないってこと!」


 あたふたしながらもとりあえず説明をした俺にみんな納得してくれたようだ。


「とりあえず緊急会議です!」


 俺の一言で再び会議が行われることになった。


「では、再び会議を始めます」

 内容は決まっている、俺の部屋にある秘密の部屋にあった大金をどうするか。


「とりあえず、俺的には一部をこの城で働く者の給料にしたい、そして残りをこの王国の人々のためになることに使おうと思っている」


 さすがに王国に住む全員に返そうにも誰がいくら払ったとか履歴がわからないため難しい。


 そのため税をしばらく取らない代わりに王国発展のために投資をしようというわけだ。


「何か意見がある人いますか?」

 俺の問いかけに直ぐ様反応した者が一人いた。

 

 それは秘密兵器ソフィアで前の会議とは違い真剣な顔をしながら手を挙げていた。


「全額かけて大きな兵器を作り上げるのです!どの国にも負けなることのないミサイルや火炎放射器、防御システムを搭載した最強の兵器を!」


「……」

 会議室はもちろん静まり返った。

 一人だけ相変わらず王国に勝利をもたらしたい奴がいるようだ。


 そんなソフィアは完全に無視して会議は進行した。


 グレスは今回の会議は参加していて気になるところを質問してきた。

「具体的に何に使うのですか?」


「例えば情報を各村へ届ける人や家を建てる人、村から村へ物を送り届ける人など仕事を増やして王国が人を雇いそれらに使おうと思っている」


「家を建てたり物を運ぶのは私たち平民は自分でやっていますけど……確かに負担が大きいですね」


「そう、本業以外に送り届けたり家を建てたりしていたら村の負担が大きくなる。だからそれらの専門の仕事を増やすことで少しでも負担を減らして本業に集中してもらいたい」


 やはり今まで取られた側のグレスは少し不服そうな顔をしたけれども理解してくれたのか「そうですね……」と理解をしてくれた。


「本当にそれで良いのかグレス?」

 ジェーン王はグレスの様子を心配した。


 少し無理に作った笑顔をジェーン王に向けながら凛とした声で答えた。

 

「はい、もちろん早く村のみんなが楽になってほしいとは思います。だけど今はこれからのことが大事だと思います。だからスカイ様よろしくお願いします」

 

「ありがとうグレス。だけど、みんなで作っていこう幸せな王国を」

 

 俺は強く綺麗な瞳で透き通った眼差しをグレスに向けた。

 

 そう、俺だけが作り方あげるんじゃない。

 ここにいるみんな一人一人が自分たちの役割を全うして作り上げるんだ。


「……」

 俺の視線をグレスは華麗に目を逸らした。


「とりあえずスカイの言う正確な情報を素早く伝達できるようにビースト村へ行って交渉を頼む」


 ジェーン王はそう言うと真剣な顔をして俺にもう一つ気になっていたことを尋ねてきた。


「王国の人々にしばらく税を取らないということと将来的に税を下げることを伝えなくてよいのか?」


「それは情報が王国中に回るようになったら宣言をしましょう現状だと本当か嘘か惑わせるまま噂が広まるだけです」


「では、情報の伝達の方をしっかり頼む」


 さっきから『情報の伝達』と言いにくい。

 俺はこれからこの作戦に名前をつけることにした。


「ちょっと言いにくいので情報の伝達を『新聞社』ということにしましょう」


「新聞社?」

 その場にいた全員が不思議がっていたけれど無理はない。だって日本の言葉だしこの王国には似たようなものはないのだから。


「そう、新聞社。これからみんなで立派な新聞社を設立しよう!」


「お、おう……」

 みな顔を合わせ首を傾げながら拳を上げた。

 

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