第十六話 究極の選択、これが本当の自己犠牲だぁぁぁ


 ぐっすり寝れた俺は朝気分良く起き上がった。

 勢いよく窓を開けて風を感じる。


 さぁ、素晴らしい朝が来ましたよ。小鳥の囀り、温かい木漏れ日、俺が目覚めたことをこの世界が喜んでくれている気がする。


 昨日の王様の態度からすると恐らく俺の話を前向きに聞いてくれるに違いない。


 とりあえず緊張しないようにしないとな。

 手のひらに人という字を3回書いて飲み込んだ。


 それから俺は朝食を済ませてグレスとソフィアを呼び出した。


 昨日の出来事と王様に二人も一緒に連れて来いと命令されたことを伝えた。


「なるほど、もちろんスカイ様がこの国を変える話であれば全力で協力しますよ」

 グレスは本当に他人思いの良い子だ。俺以外……。


 ソフィアは急に根暗が発動したのかオドオドとしていた。

「わ、私が王様と面を向かって何かできるわけないじゃないですか……絶対に嫌われちゃいますよ」


「しょうがないだろう、ジェーン王はお前たち二人を連れて来いと命令したのだから」


「で、でも……」

 昨日は俺に情けないとか言ってたくせにいざ自分が王様と対面すると分かったら急に怖気づいている。


 でも仕方ないよな、そもそも他人と関わることが少なかったソフィアにとってはハードルが高すぎたかもしれない。


 だけど、ここは俺も引き下がれない。

「ソフィア、もし一緒に来てくれないなら俺たちの関係はここまでだ」


 残酷な言葉だけどこの国の人々のことを思って言ったこと、すまない本当はこんなこと言いたくなかったけど……。


「そ、それは嫌です」


 しばらくソフィアは下を向き考えていた。

 結構考えていた。

「うーん、うーん」悩み続けるソフィア。


 もう1時間経ちそうだ……そろそろ俺も待てないぞ。

 「どうするソフィア?一緒に来るか?来ないか?そろそろ決めてくれ……」


 彼女は決心をした良い顔をしていた。

「覚悟を決めました!私ついて行きます!」


「ありがとうソフィア、よし王様のところへ行こう」


 俺たち三人組はテクテクと王様が待っている王座の間へと歩いて向かった。


 王座の間の扉につくと騎士団らしい二人組が立っていた。


「お疲れ様です。王様がお待ちしております」


 そうして二人組は扉を開けると奥に赤と金色の王座に偉そうに座っているジェーン王がいた。


「入れ」冷たい声が聞こえてきた。


 中に入り横一列に並んだがそのあとはどうしたら良いか分からない俺たち。


 オドオドしているのを見かねたジェーン王は呆れた顔をした。


「礼儀作法はしなくて良い、簡潔にスカイが言いたいことを言え」


 何だかんだ優しい王様。

 俺は簡潔に説明を始めた。


 「今の政治で国民が苦しんでおりまともな食事が取れず痩せ細っています」


 俺の言葉に全く反応しないジェーン王。だけどここで怖気づいてはだめだ。


 「王様の苦しみを味合わせるために税を多く取っていますが国民はもうジェームズ先王のありがたみを感じています」


「これ以上、国民を苦しめるのはあまりにも残酷なことです。ですからこれからは国民のための王様であるべきです」


 ジェーン王はつまらなそうな顔をしている。

「だからなんだスカイ、国民が苦しむのは当然の報いではないか?」


 ここで負けたら全てが台無しだ。

「これが、この国の姿がジェームズ先王が望んだ国ですか?精一杯に国を発展させ、国民に幸福を与え、どの国にも負けない大国を作り上げた先王が見て喜ぶと思いますか?」


「な、何を言う!父上の気持ちでも分かったつもりか!」


「私が分かる分からないではありません!現状のプレザント国を見て貴女のお父上がどう思うか考えてください!」


 俺の熱くなった気持ちはもう抑えれなかった。

 目の前にいるのが国で一番偉い王様だろうが関係なかった。

 ただ、この国の子供達の笑顔を国民の願いを叶えてあげたいという必死の思いで頭いっぱいになった。


「貴様、生意気だぞ」

 相当に怒りが込み上げているであろうジェーン王。


 もうここまできたらお構いなしだ。

「今の自分が誇らしいですか?自慢できますか?私は今の貴女はどこからどう見ても恥じるべき人間だと思います、それは記憶を失う前の私も一緒です」

 

「いい加減にしろ、我を恥と言うのか?」

  

「無礼を承知で言っています。ですが、今日から変わりましょう。私と一緒に国民から何より偉大なジェームズ先王から誇りに思ってもらえる王様になるために」


「ハァ」ため息をつくジェーン王。


「では貴様の覚悟を見せてみろ。我を裏切ってまで国民のために生きるというその覚悟を」


 確かにジェーン王の言う通りだ。王様からしたら今の俺は裏切り者、説得するならそれなりの覚悟を見せなければいけないのは納得できる。


 だけどどうすればいいんだ?ヤクザ映画みたいに指を切り落とさなければいけないのか?


 正直覚悟を見せろとかよく分からない俺はとりあえず聞いてみた。

「どうすればよろしいでしょうか?」


 王様は俺たち三人を見回し奇妙な笑みを浮かべた。

「では、そこの女二人のどちらかを殺せ」


「な、なんて?」

 俺は唖然とした。言っている意味が分からなかった。


 ジェーン王は俺の目の前まで近づいた。

「覚悟を見せろ、お前に仕えるそこの女二人のどちらかを殺せ」


 なぜ俺の大切な仲間を殺さなければいけないんだ?

 覚悟を見せるということは命よりも重いことなのか?そんなこと俺にはできない、できるわけがない。


「それは……できません」


「そうか、お前の覚悟とはそんなものか。誠に残念だ」

 軽蔑した目で俺を見るジェーン王。


「なぜですか?なぜ俺の大事な仲間の命を捨てなければいけないのですか?そこまでしなければいけないのですか?」


「貴様は我を裏切ろうとしているだ、そして我は貴様の願いを叶えてやると言っている。それ相応の覚悟を見してもらわないとな」


「でしたら二人の命は勘弁してください。他に何かあるでしょうか?」


 震える手を抑えながら必死に聞き返したが期待した返事は返ってこなかった。


「ならん、貴様がどちらかを殺すまで我は認めない」


 どうすれば……どうしたらこの問題が解決できるのか、必死に考えたが答えは見つからなかった。


「スカイ様、私が犠牲になります」


「グレス……?」


 グレスは俺の前に立ちいつもは決して見せない真剣な眼差しで俺を見つめた。


 ダメだ。こんなことで命を無駄にしてはいけない。

 ましてや16歳の女の子だぞ、これから楽しいことや嬉しいこと、辛いことや悲しいことをたくさん経験して成長していく国の宝なんだ。


 グレスは俺をじっと見つめてくる。

 よく見ると彼女の目は覚悟を決意したように見えていたが心なしか死ぬことの恐怖を感じているように見えた。


「私は大丈夫です。私の命で村の人たちが幸せになるなら十分です。私をここまで育ててくれた恩を今返せるのならばこれほど幸せなことはありません」


 嘘をつけ、細いその体が震えている。本当は死ぬのが怖くて怖くて仕方がないのだろう。

 

「あぁ、そうか。そうだよな、最初からこうすれば良かったんだ」

 彼女のセリフで俺はこのしょうもない問題の正しい答えを導き出した。


「グレス……ありがとう。これでようやく覚悟ができたよ」


 俺は決断した。誰を犠牲にするのかを……もう迷わない。


 俺はジェーン王の前に片膝をつき頭を下げた。


「俺が犠牲になります。この二人はこの国のプレザント王国の希望の光です。彼女達はとても優しい心の持ち主です。きっと、俺がいなくてもこの王国を正しい方向へ導いてくれます」


 生き返りたいなんて甘い考えを持っているのがいけなかった。俺は一度死んだ身、人生は一度きりってよく人生をエンジョイしていた爺ちゃんが言っていた。


 人生は一度きりなんだ。だからこそ、俺の大切な二人には簡単に死んでほしくない、俺の人生は終わっているのだから……。


 ジェーン王は予想通りの返答をした。

「ならぬ、貴様が犠牲になるのは選択肢にはない」


「いいえ王様、私の選択肢は一択しかありません。私の覚悟は私が犠牲になり生き残った人たちに私の願いを叶えてもらうことです」


 俺はグレスのナイフを奪った。


 刃先を喉仏に近づける。

 あぁ、自分の喉に刃物を向けるのってこんなにも恐ろしいものなんだ。


 手が震え狙いがなかなか定まらない。

 呼吸が荒れ汗が大量に出る。俺の覚悟はそんなものか、ふと目を開けるとグレスとソフィアが見えた。


 二人とも俺を止めようと必死に腕を伸ばそうとしていた。


 それだけで十分だった。久々に感じた他人への感謝の気持ち……。

 俺は無理やり笑った。


「ありがとうグレス、ソフィア……絶対に幸せになれよ!」


「くっ!」

 目を強く閉じ、呼吸を止め腹に力を入れる。

 勢いよく腕を伸ばし一気に自分の喉仏に目掛けてナイフを刺す……。


「痛!」

 ナイフは俺の手から離れカランカランと床に落ちた。


 何が起こったのか分からない。

 グレスとソフィアも驚いて固まっている。


 首に痛みはない、血も出ていないなぜか手が痺れた。

 ふと床を見るとナイフと黄金色の扇が落ちていた。


「何故だ、またお前は死んで我の前からいなくなるのか?」

 ジェーン王は俺を睨みつけ悲しみで声が震えていた。


「……申し訳ありません。ですがこれが私の今できる最大の覚悟です」


 俺を睨んでいたジェーン王は悲しげな目つきを見せた。

「すまん、我が謝るべきだ。別にお前達を殺そうと思ったわけではない」


「ただ、嘘が本当かを見抜きたかっただけだ。やり方を間違えてしまったな……」


 ジェーン王はそういうと俺たちに本音を話してくれた。

 そこには王様の姿ではなくただ、幼くか弱い女の子が涙を流しながら必死に話す姿があった。


 国民を苦しめたスカイとの日々で気が楽になっていたのは間違いなかった。

 国民が我と同じでみんな平等に苦しんでいるのを見ると心が落ち着いた。


 何より我の苦しみを味合わせるのは快感でもあった。

 そして、一番の理解者であるスカイといれば何もいらないと思っていた。


 ずっとそういう日々が続くと思っていた。

 だけど、日が経つにつれ幼いながらも少しずつ気づいていた、これは自分が本当に望んだ国の姿ではないと。


 しかし愛した家族が亡くなり落ちるとこまで落ちていたためか善と悪の心のバランスがおかしくなっていた。

 国民を苦しめれば苦しめるほど自分が惨めだという感情は紛れ悪の心が大きくなりそれを求めるようになっていた。


 隅にある善の心はいつか止めなければと訴えてはいた。

 だけど……その善の心をて見ぬ振りをしていた。


 もし、ここで辞めてしまえばこれまで国民を苦しめた自分を全否定している気がした。

 何よりスカイを裏切ることで我の前からスカイがいなくなるような気がした。


 自分の考えは正しかったと無理矢理に思うしかなった。

 自己防衛のために……。


 だからもう後戻りはできなかった。全てスカイに捧げるつもりだった。


 スカイが殺されてからは何が正しくて間違いかもう分からなくなった。

 できるならば自分も殺して欲しいと何度思ったことか……。


 しかしスカイが生きていると知ったときは再び共に生きていける、また二人で政治ができる喜びで溢れかえっていた。


 もう自分には善の心がなくなりかけていた。

 そんな時にスカイから今までのやり方は間違っていると言われた時は心の底から怒りが込み上げだ。


 裏切られたと思った。しかし同時にこのまま正しい道へと連れていってほしいと心の片隅で思っていた。


「我は昔も今も全てをスカイに託すつもりだ。だからどれほどの覚悟がスカイにあるのか見せてもらいたかった」


「だからこそスカイが連れて来た二人のどちらかの命を賭けるほどの覚悟が欲しかったのだ、我を裏切らないでほしいという思いだけに……」


 これが悪名高いと言われる王様の心の中。

 そうだ、国民も苦しんでいるけど王様も苦しかったんだ。今までのやり方を正しいとは思わない、許されることでもない。


 しかし俺は彼女も報われるべき人間だと思ってしまった。

 

 もう一つ俺がこの世界でやらなければいけないことができた。


「ジェーン王、この王国を復活させましょう。誰もが羨む素晴らしい王国へと」


 俺は自然と彼女の手を握っていた。

「そして、貴女も心の底から幸せになるべきです。国民と共に!」


「我も良いのか?父上や母上が亡くなったのに国民をここまで陥れたのに……幸せになっても……」

 ジェーン王はその年齢に相応しいほどに泣いていた。

 無邪気にただ、感情のままに……。


 涙が出なくなるほど俺の胸で泣き続けたジェーン王。

 目が赤くなっていたが、太陽のように明るい笑顔になると俺に元気よく指示を出した。


「では、早速話し合いをしよう。これから楽しい王国にするために!!」


 俺も自然と出た最高の笑顔を見せた。今までの人生で一番良い笑顔を。


 そして俺はグレスの方を振り向き笑顔で親指を立てた。


これでアテンプト村の人たちとの約束を守るための第一歩を踏み込んだ喜びを分かち合うために。


 俺の笑顔にグレスは笑顔で答えてくれた。

 しかし、グレスの笑顔はどこか悲しげな表情をしていた……。

 

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