第十五話 当たって砕けて固まって当たって砕けてまた固まって

 とりあえず思い立ったらすぐ行動!ということで早速王様の部屋に到着した。


 何故かソフィアもいるけど……。


「スカイ様!ファイト!」

 いや、邪魔だなー。絶対余計なことしかしないじゃん。

 めっちゃ楽しそうな顔してるし……。こっちは緊張して汗が止まらないっていうのによ。


 俺はそんなことを思いながらドアをノックした。

ドンドンドン「ジェーン王、私ですスカイです。お願いします、お話を聞いてください」


 もちろん応答はなかった。だけど、ここで諦めてはいけない。


 ドドドドドンドンドンドンドンドン

「王様!少しだけでもお話を!」


 するとドアがゆっくりと空いた。

 そこには王様に仕える女メイドがいた。


「王様はお話ししたくないそうです。今すぐ部屋の前から去れとのことです」


 またしてもダメか……。だけど改めて王様はスカイを城から追放する気はないと認識できた。


 ソフィアは真剣な俺とは裏腹に物凄く楽しんでいる。

「突撃作戦がダメなら次は待ち伏せ作戦です!」


「待ち伏せ作戦?」


「はい!王様が部屋から出るのを待ち伏せするんです!」


 なるほど、そうすれば否が応でも王様は俺の顔を見なければいけなくなる。


 何だかんだで一番役に立っているソフィア。


 俺とソフィアは王様の部屋の近くの柱に隠れた。


「スカイ様、そういば何で王様の側近なのにこの国を変えようとしているのですか?王様に逆らうっていうことですよね?」


 こいつバカなのに鋭い質問を……。


「いろいろ事情があるんだよ」


 ソフィアは真剣な顔で再び質問をしてきた。

「その事情って何ですか?」


 そういや、こいつに真実を言ったらどうなるんだろう。俺はそんなことを考えながら面白い半分で言ってみた。


「ソフィア、落ち着いて聞いてくれ」


 ソフィアは相変わらず真剣な顔をで俺を見ている。


「これは誰にも話してはいけないことだ。約束できるか?」


 唾を飲み込みながら頷くソフィア。


「俺は異世界人なんだ。違う世界で俺は殺され神様の手によってここに連れてこられた。そして俺の使命はこの国の人々を幸せにすることなんだ。」


 結構俺も真剣な顔で話した。

 話しているうちにふと思ったことがある。いくらソフィアといえども異世界人とか神様とか信じるわけないよな。


「異世界?神様?使命?」


 やっぱりキョトンとした顔をしている。

 絶対信じないだろうな、普通にそんなこと言われれば何言ってんのこいつってなる話だし。

 

 なんだか俺は真実を話しているのに恥ずかしくなってきた。


 ソフィアは急に俺の肩を掴んで目を輝かせた。

「す、すごいです!格好良いです!スカイ様は異世界人だったのですね!感激します!」


「ええ?そう?」

 俺は照れ笑いをしてしまった。

 何だか悪くない気分だ。というか信じてくれたことが少し嬉しかった。


「この世界と違う世界から来たってことですよね?まさにスーパーヒーローみたいじゃないですか!いいなー、私も異世界ヒーローになりたいなー」


 ヒーローではないと思うけどまぁ、純粋な心を持ったソフィアのためにそういうことにしておこう。

 決してヒーローという言葉に18の俺が嬉しいと思ったわけではない!


「さっきも言ったけど誰にも言わないように約束守れるかな?」


「もちろん!私口は堅い方なんで!」

 物凄く真面目な顔で俺を見ているけど自分で口が堅いって言う奴大体言いふらすよな。


 王様なんかに言われたら身体を乗っ取ってるみたいに捉われて処刑されるかもしれないし。


 それからしばらく王様が出てくるのを待った。

 なかなか出てこない王様……。


 痺れを切らしたソフィアは全く関係のない話を振ってくる。


 「好きな食べ物は?」とか「今日の朝食美味しかったですか?」とか「ごぼうはお通じに良いですよ」とかどうでもいい話ばかり。


 俺はさすがに我慢ができなくなった。

「ちょっとだけ静かにしてくれないか?集中できない」


「あ!」ソフィアがまた喋ろうとした。


 イラっとしました。もう頭に来たのでめちゃくちゃ叱ってやろうと思った。

「いい加減に!」そこまで口に出した俺はソフィアを見ると彼女は指をどこかに向けていた。


「お、王様が部屋から出ましたよ!チャンスです!」


「まじ?」俺は急いで振り向いた。


 そこには……誰もいなかった。


 後ろでは腹を抱えて笑うソフィア。

「ま、まさかこんなに完璧に騙せれるとは思わなかったです!やばい、お腹が痛い!」


 あ、カチンときた。ダメだ、お父さんから女の子には手を出したらダメって言われたけど限界がある。


 俺はバカが俺をバカにするのが許せない。

「いい加減にしろよ、ソフィア。あまり調子に乗っていると俺も手が出るぞ……」


 俺は握り拳を作り口でハーハーした。

 とりあえず一発痛いの入れておこう、俺はソフィアの頭頂部を目掛けてゲンコツをおみまいしようとした。


「スカイ様!王様が出てきましたよ!」

 真剣な顔でジェーン王の部屋を見るソフィア。


「本当!?」

 俺は再び振り返った。が、そこにはジェーン王の姿はなかった。


「かっかっかーまた騙されましたね!案外スカイ様ってチョロいですね」

 誇らしげにしているソフィアを見ると絶対に許せれなくなった。


「うぉーー!」俺は思い切り握り拳をソフィアの頭頂部目掛けて振り下ろした。


「うぅ……痛い」こいつの頭物凄く石頭だ。


「痛たた。酷いですよスカイ様、女の子に暴力だなんて」


 痛たたじゃないよまじで……手の骨折れたんじゃないか?痛み耐えるの必死で言葉が出てこない。

 硬すぎだろ……。


 俺はひたすら痛いの痛いの飛んでいけとおまじないをかけた。


 赤く腫れた手を優しくすりすりしているとソフィアがまた話しかけてきた。


「スカイ様、今度こそ王様が出てきましたよ!」


「嘘だ!いい加減にしろ!もう騙されないぞ!」

 

「本当の本当です!何しているんですか?早く話しかけないと!」


 俺はもう騙されない、振り向いたら負けだ。さすがに3回も騙されたら恥ずかしすぎる。


「覚悟しろよソフィア!俺を何回騙したら気が済むんだ!」

 俺は怒りが込み上げてきた。


 ソフィアは俺の後ろを見ている……。

「あ、あの本当に王様出てきてます……」

 震えながら指を向けるソフィアの顔は口を開けて驚いている。


「え?」俺は思わず振り向いた。


「だっはっはっは!3回も騙されましたね!スカイ様は意外と間抜けなんですね!」


 こいつ……もう怒った。女だけどボッコボコにしてやる。

「もう許さないからな……覚悟しろ」


 俺は怒りに体が震えた。

 さぁどうやって痛みつけてやろうかそう考えていた。


「さぁ覚悟しろソフィア、もうごめんなさいしても遅いからな……」


 だけどやっぱり女の子を殴るのは気が引けてしまった。 

 やっぱり男として生まれたからには女の子は守らなきゃいけないよな……。


「おっ」ソフィアはまたまたまた俺の後ろを見て指を向けた。


「ん?」情けない、俺は反射的にまたまたまた後ろを向いてしまった。


 しまった……また騙された。と思ったけど本当にジェーン王がいた。


「あわわわ」急に目の前に現れると緊張してしまう。


 何で声かければいいんだろう、どうすれば話を聞いてくるのかそんなことを考えていると頭が真っ白になってきた。


 そうこうしているうちにジェーン王がどこかに行ってしまいそうになった。


「もう、焦ったいですね……」

 ソフィアは俺の背中を強く押した。


 押された俺は勢い余ってジェーン王の前を塞ぐような形でこけた。


「きゃ!」目の前でいきなり現れこけた俺を見てジェーン王は驚いて声を上げた。


 そして目が合う俺と王様……。

「や、やあ、今日は天気が良いですね。お散歩日和だ、わっはっはっは」喋りかけるの下手すぎた。


 下手くそなナンパ師みたいになっている俺。

 どうしよう……気まずい雰囲気になってしまった。


 無言のままジェーン王はどこかへ向かおうとしていた。

 ルーヴはそんなに怒ってないって言ってたけど何だかんだ結構怒ってるよな王様……。


「ジェーン王、お話を……」

 俺は王様の元へ向かおうとした。


「近寄るな!」物凄い形相で睨んでくる王様。

 冷たく肌を指すような目を見ると体が硬直した。


 物凄く怖い……やっぱり幼女とは思えないほどの圧がある。何を喋って良いのか分からなくなった。


 そうして待ち伏せ作戦を失敗した俺とソフィアは新しい作戦を練るために作戦会議へと入った。


「……どうしよう、目の前にすると緊張してしまう」


「情けないですよスカイ様、そんなことしてたらいつまで経っても王様とお話しできないですよ」


 ムカつくけどソフィアの言っていることは正しい。

 せっかくジェーン王を目の前にしたっていうのに睨まれて言葉が出なくなるなんて……。


「仕方ないですね、とりあえず次の作戦を教えます」


「頼む……」

 だけど王様と喋れなければ意味がない。


「作戦を言う前にもう一度言いますね。当たって砕けろです!睨まれて砕けずに終わるなんて異世界ヒーロー失格です!」


 何も言い返せません。ソフィアの言う通り俺はヒーロー失格だ。ヒーローになったつもりはないけど……。


 ただ、このままだと本当にこの国を変えることができないままににってしまう。


 そうなると恐らく俺は日本に生き返れずにそのまま天国だ。どうにかしなくては……。


 ソフィアは相変わらず明るい笑顔でいた。

「では次は朝まで待ってました作戦です!」


「朝まで待ってました作戦?」


「はい!よく弟子入り希望する人とか門前払いされると朝まで家の前で座って待ってるじゃないですかあれです」


「あぁ、あれね」

 何でこいつそういうの知っているんだ?


「とりあえず王様が部屋に戻ってくるのを待ちましよう」


「待つのか?どうせ断られるぞ」


「この朝まで待ってました作戦は実行する前に一度断られるとより効果があるのですよ」


 なるほど、どこで知ったのか知らないけど俺よりも詳しい。確かに朝まで部屋の前で待てばどれだけ俺が話したいか王様に伝わる。


「よ、よしそれに望みをかけよう」


 俺とソフィアはとりあえず食事やお風呂を済ませジェーン王の帰りを待ち、打ち合わせ通り再び睨まれ話してもらえずそのまま部屋の前に座った。


 沈黙が続く廊下。

 ソフィアは時々あくびをしながら眠たそうにしていた。

「何だか眠くなってきました。寝てもいいですか?」


「お前が考えた作戦だろ。朝まで起きるぞ」と注意はしたものの俺も眠い。


「もう限界です。少しだけ寝ます」


「おい、頼む起きてくれ」

 俺はソフィアをめちゃくちゃ揺らしたが効果はなかった。


「本当に寝やがった」

 呆れてものが言えないとはこのことだ。


 とりあえず一人寂しく頑張って起き続けるしかない。

 必死に重くなった瞼を閉じないように頑張った。


「グォー、グォー、グォー」

 隣でソフィアが空間を歪まずいびきを世に放った。


 そうだった。こいつのいびきうるさいんだった……。

 やばい止めないと怒られる。


 俺はいろんな方法を試した。頬をつねったり、頭を叩いたり、体を揺らしたり、ビンタしたりしたけどどれもダメだった。


 そして背後からドアの開く音がした。

「終わった……」


 もちろんそこにはジェーン王が禍々しいオーラを放って俺を睨みつけていた。


「我の睡眠を妨げるのか?」


 これに関しては本当に申し訳ない。俺が連れてきたんだし俺が全面的に悪い。あと、この幸せそうにいびきをかいている根暗女も悪い。


 だけどこれはチャンスじゃないか?またこうやって目の前に姿を見せたのだから。

「申し訳ございません、ですが王様お話を聞いてください。今のやり方では間違いなく反乱が起こります!」


「ええい!まずはその女のいびきを止めろ!」

 

「では、私の話を聞いてください!お願いします!」


「グォー、グォー、グォー」


「スカイよ、我に取引を持ちかけるとは……」


 しまった、さすがにやり過ぎたか?

 熱くなって言い返していたけどよくよく考えたら王様に楯突いているんだよな。なんて恐ろしいことをしてしまったんだ。


「も、申し訳ございません……」

 もう、謝るしかない。そして俺がこの国にいる目的も終わった。


 まぁ、ここまで楯突いたらどんなにスカイという男がお気に入りでも処刑されるだろう。


 俺は腹を括った。処刑されること、日本に生き返れずに成仏することを……。


 ジェーン王はため息を一つついた。

「では、明日改めて話を聞いてやろう。だからその女を連れて去れ」


 衝撃的な言葉だった。

 まさか、再びチャンスが来るなんて思わなかった。


「あ、ありがとうございます……ありがとうございます!」何故だか2回も感謝の言葉を言ってしまった。

 それほど俺にとって嬉しい言葉だったのだ。


 いびきをかくソフィアを見るジェーン王。

「それから明日の朝はその女ともう一人の金髪の女も連れて来い」それ以降何も言わず部屋へ入って行った。


 ツーっと涙が頬を流れた。

「あれ、おかしいな。意味が分からない」


 あぁ、俺は死を免れた安堵と再び生き返れるチャンスを得たことの喜びで感情がおかしくなっているんだ。


 それから俺はソフィアを背負った。

「とりあえずこの根暗女を部屋に戻してやらないとな」


 何だかんだ思うところはあるけど今回の件で力になってくれたことは本当に感謝している。


「ありがとうなソフィア」

 どうせ寝ているんだ、声に出しても聞かれていない。

 もし聞かれてたら恥ずかしいけど……。


 俺はソフィアの呼吸を背中で感じながら静かな廊下を駆け巡るように喜んで走った。

 

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