第十二話 転生先で不思議な夢を見ました

「スカイ様!お部屋へご案内します!」

 先ほど王様に怒られていた美女が話しかけてきた。


 こいつ、オオカミ人間なんだよな……。

 オオカミ人間のくせにどちらかというとたぬき顔ってウケ狙ってんのかな?どういう遺伝子をしているのだろう。

 

 それにしても綺麗だな。狼に変身しなければ絶対モテるのに……。


「なぁ、お前ルーヴなのか?」

 俺は確信を持ちたくて聞いた。


 美女は恥ずかしくなったのか顔を赤くした。

「はい、恥ずかしながらそうです。記憶を忘れたスカイ様は変身した私はどう思われますか?」


どう思うかと言われてもな……。

 見た目は怖いだけだしそもそもオオカミ人間なんて映画くらいでしか見たことないし。


 まぁ、普通に考えれば恐ろしいとか凶暴そうとかそういうことが浮かんでくる。


 だけど一応女の子なんだし普通の人が思うオオカミ人間の印象をそのまま言えば間違いなく傷つくだろう。


 俺は何を言えばいいか分からず自然と言葉が出た。

「強そうで逞しいな」


 ルーヴなんだか少し嬉しそうな顔をしていた。

「強そうで……逞しい……そうですか。やはり私はスカイ様に必要な人材ということですね!」


 否定はしないが……。自分でそこまで言ってしまうのはどうかと思うぞ。

 

 もう一つ彼女について気になったことを聞いた。

「ところでオオカミ人間に変身するためにはやっぱり満月を見なきゃいけないのか?」


 ルーヴは首に飾ったネックレスを俺に見せながら話してくれた。


 どうやらこの世界のオオカミ人間は満月だけではなく月の明かりを浴びれば自分の意思で変身できるそうだ。


 また、昼間でもネックレス『ムーンライト』を見れば変身できるらしい。その場合は月明かりよりも力が劣るらしいけど。


 そんなこんなで立派な廊下を歩いていると俺たちの部屋に着いた。


 まず、ルーヴはグレスとソフィアを部屋に案内した。

「一応、スカイ様の側近だからな、私の次にスカイ様の近くの部屋で住んでもらうことにする」


 彼女たちは俺の側近だが、城の中では新米ということで 二人で一部屋与えられた。しかも、あまり大きな部屋ではなくホテルの1室のような感じだった。


 グレスは不満な顔をしていた。

「まさか、このいびき女と同室になるなんて……」


 そういえばソフィアのいびきは空間を歪ますほどうるさいのを忘れていた。


 可哀想なグレス……。けど自分の選んだ道だから仕方ない。


 俺はグレスに申し訳ない気持ちもあったが、一人部屋でゆっくり寝るれることにとても嬉しくなった。

 

「では二人とも明日の朝、クローゼットにある服に着替えて私の部屋に来なさい」

 ルーヴはそれだけ言い残して二人の部屋を後にした。


 そして、この体が生前使っていた部屋、つまりこらから俺が住む部屋に着いた。


「スカイ様、改めてお帰りなさい。部屋はあの時のままで毎日掃除を欠かせずしていたので綺麗な状態です」


 すごいな……死んだ人間の部屋を毎日掃除をしていたなんて……。


 余程このスカイという男は人柄が良かったのだろうか、それとも魅力のある人間だったのか、どちらにせよ王様から好かれ部下からも慕われているところ相当優秀だったのだろう。


 部屋に着いた俺は気になっていた幼女の王様について質問をした。

 

「ところで何故王様はあんなに幼い女の子なんだ?」


「記憶をなくしたスカイ様にはお話ししなければいけませんね、あれは忘れもしません。約3年前……」

 ルーヴは少し悲しい表情をして俺に訳を話した。


 約三年前、前プレザント王つまり現プレザント王のジェーン・ホワイトの父にあたるジェームズ・ホワイトの支配下にあったこの国は物凄く豊かで他の国が手を出せないほどの戦力だった。


 恨まれるような王ではなくむしろ国民にとって誇りであり口の象徴であり何より神のような存在であった。

 

 そんなある日、悲劇が起こった。

 いつものようにジェームズ王と王妃が起きる時間帯になっても起きてこなかった。


 不思議に思った使用人が部屋に入るとそこにはベットで冷たくなっていた王様と王妃がいた。


 しかも、ジェーン王の目の前で……。

 王位継承は基本、王が亡くなるか退位するかのどちらかだが当時6歳だったジェーン王はあまりにも若過ぎるため祖父にあたるジョセフ・ホワイト先王が再び王位に就くことを決意した矢先、亡くなられた。


 そのため、まだ心の傷が癒えていないジェーン王が半ば強制的に王位に就く形となった。

 

「それってあまりにも悲惨な出来事じゃないか……」

 あの幼い女の子にそんな悲惨な過去があったとは……平和な日本とは違い恐ろしいな。


 ルーヴは物悲しげに微笑みながら俺を見た。

「しかし、王様はあなたに救われたのですよ」


「え?どういうことだ?」


「スカイ様は幼い時から王の側近として活躍しており、絶対的な信頼を得ていました。そしてジェーン王が誕生してからはお世話役として仕えていらしたのです」


「そして、ジェームズ先王が亡くなられてからあなたはずっとジェーン王の側にいらしていました」


「あなただけでした。あそこまで身を粉にして王様に尽くす者は……」


 そうだったのか……やはりこのスカイという男は相当に人柄と性格が良い男だったのだろう。


 それと同時に何故あそこまで王様がこの男を気に入っているのかが分かった。


 病んだ心にこのルックスと優しい性格でずっと側にいてくれたらどんな女でも恋に落ちてしまうだろうな。


 「そうか、色々教えてくれてありがとう」


 ルーヴはとても嬉しそうな顔をした。

「礼には及びません!スカイ様の力になり喜んでもらえるのが何より私の幸せです」


 俺は無意識のうちに笑っていた。嬉しそうにするルーヴはとても綺麗だった。


「今日はもう疲れたから寝るよ。おやすみ」


 また嬉しそうに笑うルーヴは頭を下げながら俺に挨拶をした。

「おやすみなさい。スカイ様」


 ルーヴが部屋を出ていくと俺はベットに横になった。

 疲れた、風呂に入りたいけどもうそんな気力もない。


 それにしてもプレザント王……可哀想な娘だな。

 6歳で目の前で親を亡くたのに即位しなければいけないなんて、子供なのに相当無理をしたのだろう。


 そんなことを考えていると俺はいつのまにか眠りについていた。


 暗い、狭い……そして何も見えない世界。

 なのに優しく温もりに包まれている感じがする。


 体を動かすと柔らかい何かに当たる。

 そしてここは水の中?呼吸をしていないのに不思議と苦しくない。


 温かいお風呂のような……少しだけぬるいような……。

 それにしてもここは心地よい。


 だけど何かに押されている、強く強く押されている。


 身を任せよう、居心地の良いここから抜け出すために。


 しばらくしてやっと抜け出せた。

 肺に入った水を出さなければと思い切り叫んだ。


 何も見えない、だけど光を感じる。

 そして誰かの喜びの声と誰かの嬉し泣きの声。

 それだけじゃない、他にも喜びの声が所々で聞こえる。


 はじめに抱かれたのは強く太く逞しい腕に抱えられる感覚……。

 安心できる腕だ、喜んでいるのはこの人だろう。


 次に抱かれたのは細くか弱いけど心地の良い腕。

 安らかに眠れそうだ、泣いているのはこの人かな?


 何故だか分からないけど目が開けれないのに何て優しく温かい世界……。


 ずっとずっと私はこの幸せな時間が続くんだ…………。


「ピーピー、ピーピー」

 俺は目覚まし時計に起こされた。この世界にもこういうのがあるんだな、壁掛け時計だけど……。


 それにしても変な夢を見たな……。

 懐かしような、他人の記憶の夢のような。


 それよりも大きい方がしたくなってきた。

 なんと、この部屋トイレ付きなのだ。


 俺は大きい方をするためにトイレのドアを開けた。


「お、大きい……」

 これが用を足すための部屋か?ドアを開けた世界は俺が日本に生きていた時に与えられた自分の部屋よりも無駄に大きい部屋がそこにはあった。


 洋式トイレの前に立った。

 ウィーンという音と共に便座が自動で上がった。


 異世界なのに文明が発展してやがる……。

 トイレで文明の発展を感じるなんて恐ろしい世の中である。


 さらに俺は驚くことになる。

 この便座、温水洗浄便座だ……。 


 自動開閉で温水洗浄便座、異世界のくせに何故ここまで機能性の高いトイレなのだ。


 そして俺は淡い期待を抱く。

「もしかしたらもしかするよな?」


 ズボンとパンツを脱ぎ恐る恐る便座にお尻を近づける。

 俺のお尻と便座が触れた瞬間、俺は感動して涙を流した。


「まさしくこれは暖房便座……」

 完璧だ。むしろこの世界でここまで完璧なトイレがあるなら用を足すのも楽しみの一つになるに違いない。


 すると、壁に音符のマークをしたボタンがあるのに気付いた。

「こ、これは俺の勘違いじゃなければきっと!」


 緊張で震える指を抑えながら音符のホダンを押した。

 聞こえてくる小鳥の囀りと小川の流水音……まるで温かい陽の光を浴びる森の中のようだ。


「まさしくこれは音姫」

 だけど……いる?公共のトイレならまだしも一人部屋のトイレに音姫いるかな。


 そこまで大きい音を出しながら大きいのをしていたのかスカイという男は……。


 ただ、大きいやつをして分かったことがある。

 俺が知っている異世界転生とは違いこの国、もしかしたら想像以上に文明が発展しているということを。


 俺はこの国の文明の発展を実感するために早速、温水洗浄を利用した。


 ポチっ。

 水鉄砲のように出てきた温かいお湯は俺のお尻の梅干しの汚れを優しく流した。


「あはっ」

 おっと、思わず気持ちよくて声が出てしまった。


「うん、期待以上だ」

 さて、そろそろお尻を拭いてトイレを出よう。


 俺はトイレットペーパーに手を出した。

「なに!!」俺は驚愕した。シングルではなくダブルである。


 分かっているな……。

 誰が用意してくれたのか分からないが俺はダブル派だ。


 シングルはザラザラしてて敏感なお尻の梅干しを痛めてしまうし破れやすい。あくまで個人の意見ですけど……。


 俺は梅干しを綺麗に拭いてトイレを後にした。

 

――――その頃天界では……


「神よ、こいつの夢はお前の悪戯か?」

 閻魔大王は笑いながら神様に問いただした。


 神様はおちょこを回しながら閻魔大王に答えた。

「違うな。残念だが私ではない」


 神様は考えた。

 自分の能力であれば人間に吉夢や悪夢、正夢や逆夢など見させれるのは最も簡単なことだが今回は違う。


 神様が興味を持ったのは今回の空が見た夢は自分ではなく誰かの現実を夢で見たこと。


 自分自身の現実で起きたことを夢で見たり夢で見たことが現実で起きるのは良くあることだが、他人の現実を夢で見るというのは稀である。


「久々に退屈しない日々だ」

 何かを考えながら酒を飲み不気味に笑う神様。


 閻魔大王は神様の不気味な笑いの意図を問いた。

「どうした神よ、なにが面白いのだ?」


 神様はお猪口に酒を注ぎ一気に飲んだ。

「全く不思議だ、人間とは時に神の想像を超えるものとはよく言ったものだ。本当に良い酒のつまみだ」


 閻魔大王は真剣な顔になる。

「なぁ神よ、お前にとって人間とは何だ?」


 思いがけない質問に一瞬驚いた顔をしたがすぐに腹を抱えて笑い出した。

「閻魔よ、面白い質問をするようになったな」


「そうだなぁ」神はお猪口を置くと再び不気味な顔になった。


「私にとって人間は最高の退屈しのぎだ。彼らの幸と不幸全てにおいて」


「神は人間を創造し、人間は神を想像する。つまりこの世で私が一番偉いのだ。その私を楽しませるのが人間の役割であるこれは絶対だ」


 閻魔大王は低い声で高々と笑った。

「やはりイカれているな」


 その言葉を聞き神様は少し不貞腐れた態度になった。

「何を言う、イカれているのは人間の方だ」


「不思議ではないか?神を信じ祈るのに災いや不幸が起こると神の怒りなどと騒ぐんだ。人間にとって私は偉大にして希望の存在、そして恐怖と脅威でもあるらしい」


「しかし奴らが一番面白いのはみな同じ立場でありながらお互いを殺し合うところだ。私を崇め恐れているが自分たちでは憎しみや怒りで殺し合うのだぞ。そんな身勝手で愚かな人間だからこそ見ていて面白い」


 ゲラゲラと笑う神様の話を閻魔大王は黙って聞いていた。


 身勝手な人間……この言葉は死んだ者を裁く閻魔大王だからこそ理解できた。

「確かに……神の言う通りかもしれんな。人間ほど醜くて汚い生き物はいない。人間は全ての感情から憎しみは生まれやすいが憎しみからは憎しみしか生まれない哀れな生き物だ」


「閻魔よ、私は私が創造した人間たちがどのように生きていくのかが楽しくて仕方がない。知恵を与えるとこうも惨めに憎しみ合う姿を見ると腹が捩れてしまう」


 閻魔大王は神様を見て笑う。

「改めて恐ろしい奴だ」


 神様も閻魔大王を見て笑った。

「何を言う。お前も安らかに眠れたはずの魂を私に紹介しただろう。お前も充分恐ろしい奴だ」


 神様と閻魔大王の笑い声が天界に響いた。


――――――


 

 

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