第十一話 転生先の王様は女王様で王女ではなく幼女でした
あれから数時間……しばらく暗い草原をひたすらに走った。走ったと言ってもオオカミ人間のルーヴと馬たちだけど。
「スカイ様、もうすぐお城が見えます」
息を切らさずに走り続けるルーヴ、さすが獣人だ。
「いよいよ王様に会えるのか……」
不安というか恐怖というか得体の知れない王様というものを相手にするのは正直しなくない。
実際に悪名高いと噂されているし現に俺が見てきたこの国の人たちはみんな痩せ細っていてひもじい生活を送っていた。
もし失態をしたならば殺されるかもしれない。
俺は自分の中でルールを一つだけ決めていた。
もし、話が通じず俺やグレス、ソフィアの命に関わるようなことをされそうになった場合は必ず逃げること。
これだけは絶対に守らなければいけない。
いや、彼女たちは必ず俺が守らなければいけないと何故だかそう勝手に考えてしまう。
「スカイ様、プレザント城が見えました」
ルーヴの言葉通り遠くに堂々とした城が見えてきた。
近づくたびに胸の鼓動が激しくなってくる。
ドクンドクンと脈を打っているのが血管で伝わってくるのが気持ち悪く感じた。
俺は深く深く呼吸をした。
「落ち着け俺ならできる」
人付き合いは得意な方だった、きっと王様も上手く伝えれば話を聞いてくれるはず……。
「もしかして緊張してます?」
俺の表情が気になったのかソフィアが話しかけてきた。
「うん、少しだけね」
「大丈夫です。私たちが付いています、一人よりも二人、二人よりも三人いれば心強いですから!」
ソフィアの笑顔は暗くてよく見れなかったけど勇気づけられた。
「そうだな、みんなでこの国を良くしよう」
そんな俺たちのやりとりを不満気に見ていたルーヴ。
「……スカイ様、街へ入りました。お城へは間も無く到着します……」
なぜかルーヴに睨まれる俺。何か気に触ることしたか?
街に入ると寂れた商店街が広がりいかにも治安が悪そうな雰囲気を出していた。
しかし、城へだんだん近づくと雰囲気は一変して明るく人混みができるにぎやかな酒場が増えた。
よく見ると騎士団の格好をしている客が多い。
「ここら辺は騎士団御用達の酒場なのかな?」
俺は疑問を抱きつつ後にした。
そうして大きなお城の門に着いた。
「スカイ様、着きました」
それにしても立派な城だ。物語に出てくるようなお城よりも遥かにでかい。
「お帰りなさいませ。ルーヴ様」
門番がそう言うと門を開けた。
「ご苦労様です」ルーヴがそう言うと俺たちは門を通ろうとした。
すると門番が俺の顔を見て青ざめた。
「ス、スカイ様!気付かなくて申し訳ございません」
頭を下げ震えている。相当スカイという男は怖かったのだろう。
「どうかご無礼をお許しください」
門番は泣きながら俺に謝ってきた。
「大丈夫ですよ。僕は怒っていません、顔を上げてください」
俺の言葉に驚く門番。逆効果だったかもしれない、優しく話しかけたつもりがそれが疑心暗鬼となり逆に不安と恐怖を与えてしまった。
門番はガタガタ震え「お許しください」と何度も謝ってきた。
「だから大丈夫ですよ、怒ってないです」
「お許しください」
「怒ってないって……」
「お許しを!!」
さすがにカチンときた。優しい俺でも……。
「だから、怒ってないって言ってるじゃないですか!しつこいと本当に怒りますよ!」
「すみませんでした!」
門番はようやく俺が怒っていないことを理解した。
そうして城へ入るとルーヴは俺に王様に生きていることを報告するべきと勧めてくれた。
「王様はスカイ様が暗殺されてからずっと城に閉じこもっていたのです。生きていると知ったらお喜びになると思いますよ」
「へ、へぇ。そうなんだ、できれば今日は休みたかったけど……」
だけどそんなことは許されないだろう。だって相手は悪名高い王様なのだから……。
物凄くタイミングよくグレスが目覚めた。
「ここは……?」
「城に着いたんだ。これから王様に報告しに行くところ、グレスもソフィアも着いてきてくれ」
記憶のない俺をここまで連れて来てくれた二人を王様に報告しないといけないのもあるけど一番の理由は……。
だって王様怖いし、一人で王様と話すの嫌だし……みんなで話せば恐怖は三等分じゃん。
「それでは王様の元へ案内します」
ルーヴの言葉にさすがのグレスも緊張しているそうだ。
モジモジとしていて俺の服をガシッと掴んだ。
あ、可愛いかも……俺はキュンとした。
ソフィアも人見知りが発動して俺の後ろをピッタリとくっついる。
一応美女二人だから幸せだなと思うけどさすがにこのまま王様に会うわけにはいかない。
「グレス、ソフィアそろそろ離れてくれ……」
二人とも緊張で俺の声が届かないようだ。
俺はルーヴに気になることを聞いた。
「なぁ、王様ってどんな人なんだ?」
「そうですね……記憶が無くなってる今、驚かれると思いますよ」
どういう意味だろう?相当強面なのか?そう言えば善悪を理解してないっていう噂があるとか……。
この部屋に王様がいらっしゃいます。
王様の部屋の大きなドアには護衛の騎士が立っていた。
「スカイ様、ご無事で何よりです。王様もさぞ喜ばれることと思います」
騎士はそう言うとドアをコンコンコンとノックした。
「王様、スカイ宰相がお見えになられました」
「入れ」
気のせいか……女の子のような声が聞こえたような。
護衛の騎士はドアを開けた。
「どうぞ、中へ」
俺たち三人は部屋の中へ入った。
そういや俺、貴族とかの礼儀作法とか知らないぞ?
どうしよう……グレスたちも恐らく知らないし……。
グレスとソフィアは予想通りオドオドしていた。
やっぱりな……まじでルーヴに聞いておくべきだった。
それでにして王様はどこだ?目の前には可愛らしい小さな女の子がいるだけ。
きっと王様の娘、王女だろう……。それにしても童話のプリンセスらしく綺麗に化粧をしてお人形のように可愛いな。
そう思っていると可愛らしい女の子は俺に向かって走って来た。
「スカイ!生きていたのか!」
女の子は俺の腰に抱きつくと俺の顔を覗き込んできた。
そして、改めて俺だと認識すると泣いて喜んだ。
「死んだと思っていたのに……本当に良かった。我のスカイ……」
「王女?様?」俺は何が何だか分からなかった。
女の子は俺の顔を再度見て眉を顰め俺の顔をまじまじと見た。
やばい、何かダメなことでも言ってしまったか?
「我を忘れたのか?」
可愛らしい目が涙を浮かべこちらを見ている。
この場合どっちが正解だ、記憶喪失という体の話をするのか黙ったままやり過ごすのか……。
どちらにしてもどうせバレる。
俺は覚悟を決めて女の子に記憶喪失だと話そうとした。
すると、ハスキーボイスの黒髪美女が俺を庇ってくれた。
「失礼します。スカイ宰相は記憶をなくしています、ですので……」
「黙れ、我とスカイの会話に入ってくるのか?」
美女の話を遮り鬼のような形相で美女を睨む女の子。
美女は瞬時に片膝をつき頭を下げた。
「も、申し訳ございません。ご無礼をお許しください」
おお、小さな女の子に美女が震えている。
この子は王様の娘というところか……。権力というのは恐ろしいものである。
「もうよい、下がれオオカミ」
女の子の言葉に美女はすぐに部屋を出た。
ていうか、あの美女もしかして俺を城まで案内してくれたオオカミ人間?
もしそうなら人間の姿はめちゃくちゃ美人じゃないか。
なるほど、獣人というのも悪くないな……。と考えている暇ではない。
「スカイ、あのオオカミ女が言っていたことは本当か?記憶がないのか?我との思い出も何もかも忘れてしまったのか?」
今にも泣きそうな女の子。目から涙が溢れそうなのを我慢している。
「すみません、本当に記憶がないのです……」
いや、本当は転生したんだけど……。
まぁ、本当のこと言っても信じてもらえないだろうし。
もし信じてもらえたとしてもいわゆる体を乗っ取ったと思われて殺されるかもしれない。
「なぜ我の大切な者は簡単にいなくなる。なぁスカイ、あの時の我との約束をも忘れたのか?」
女の子は涙を流しながら俺に聞いて来た。
そんな、急に泣かれても困るんだけどな。
「すみません、全て忘れてしまいました。ですが、少しずつ思い出していきたいと思っています」
女の子は涙を拭くと無理に作った笑顔を向けてきた。
「少しずつでいい、我を思い出してくれ。そして必ず約束を思い出してほしい。頼んだぞ我の大切なスカイよ」
す、すごいプレッシャーだな。
申し訳ないけど転生者なので思い出すことなんてないんだけど……。
「ところでそこの女二人は誰だ?」
睨むようにグレスたちを見る女の子。
「あぁ、この二人は俺をここまで安全に連れて来てくれた仲間です」
「そうか、ご苦労であった。ではもうスカイに用はないな、この城から出ていけ」
まずい、予想外だった。
このままだとグレスとソフィアが城から追い出されてしまう。どうにかしないと……。
「えっと、一応この二人は記憶を無くしてからの友人なので側に置いてもらいたいなと……」
女の子はしばらく考えた。
「すまんな、いくら我のスカイの頼みとはいえそれは難しい。我の信用できぬ者をここに置いて置くわけにはいかない」
言っていることは理解できる。俺が殺されたのもあって国民が反逆してくる可能性を考えてしまうのは不思議なことではない。
とはいえ、命の恩人たちに城に着いたら用済みという仕打ちはない。できれば側にいて今後も色々と助けて欲しい、そしてこの国が変わるところを一緒に見ていきたいのに。
どうすればいい、考えなければグレスたちが本当に追い出される。
俺は地面に頭をつけた。いわゆる土下座だ。
「お願いします。この二人は命の恩人です。何度も獣に襲われたところを助けられ、腹が空けば食料を調達してくれました。この二人がいなければここに戻ることもできませんでした。どうか、この二人を俺の側近として置いてください」
だが、土下座が通用するのは日本だけ。
俺の姿を見て女の子は腹を抱えて笑った。
「スカイ!なんだそのおかしな姿は!まるで猫がが身を丸くしているようだぞ」
笑ってくれているけど効果はなかったか……。
俺は次の手を考えていた。
女の子は笑いが収まるとグレスとソフィアの前へ立った。
自然とグレスとソフィアは頭を下げる。
そんなグレスたちに笑顔で話しかける女の子。
「そうか、お前たちは『我の』スカイの命の恩人か。『我の』スカイが世話になったな。一応、感謝する」
『我の』を強調しているのが気にかかるがとにかくこの女の子はスカイという男がよっぽどお気に入りだったのだろう。
女の子は今度は強く睨みつけた。
「そうか、お前たちには何ができるのだ?」
幼女とはいえやはり王族の血筋なのか威圧感が物凄い。
「えっと、あの……」
グレスたちは言葉に詰まっていた。
ダメだ、二人ともプレッシャーに潰されている……。
今まで幾度となく助けてもらったんだ。ここで俺が彼女たちを助けなければ!
「その人たちは俺に必要です」
俺は城までに起こった出来事を詳しく説明した。
恐ろしい山賊や獣に襲われた時に何度も助けてけてくれたこと。
森で迷った時に彼女たちの長所を生かして無事に抜け出したこと。
そして、あることないこと言いまくった。
恐らく、女の子の中ではグレスとソフィアは相当好感度が上がっただろうというくらい俺はいろんな嘘のエピソードも交えた。
生徒会長の選挙時の演説がここで生きるとは……。
「だがら、彼女たちは俺を命懸けで守ってくれます。そし
て護衛としては充分の能力を持っています」
女の子は嬉しそうな顔をした。
「ほぉ!そんなにもスカイの役に立っていたとは、お前たちなかなかだな」
女の子は立派な椅子に腰を深くかけ足を組んだ。
「では、お前たち二人に使命を与える」
そして俺たちは衝撃的な言葉を耳にする。
女の子は机に置いてある銀白の王冠を冠った。
「我、プレザント王ことジェーン・ホワイトの名において命ずる。お前たち二人は本日からスカイ宰相の側近として
仕えろ」
グレスとソフィアは驚きながらも頭を下げ返事をした。
「ありがたくその命を受けさせていただきます」
この女の子が王様?俺がずっと話していた幼女は王女ではなく王様だったなんて。いや、女王様じゃないのかな?
ということはこの幼女が悪名高い王様ってこと?
訳が分からなくなってきた。こんなに可愛らしい女の子なのに人々を苦しめているなんて……。
「ま、まぁ女の子の成長は早いっていうし……もしかしたら気まぐれで色々やってたのかもしれないしな……」
幼女の王様は俺に優しい笑顔を向けた。
「今日はもう遅い、部屋でゆっくり体を休めると良い」
俺には本当に優しいんだよな……。
プレザント王はパンパンと手を叩いた。
「誰か、スカイたちの部屋を案内してくれ」
「あぁ、それと……」
プレザント王はグレスたちを警戒するように睨んだ。
「お前たち我のスカイに色気を使ったらどうなるか分かっているか?」
どうやらお気に入りの俺を誰かに取られたくないんだろうな。
俺の異世界ライフはハーレム状態だが面倒臭いことになりそうな気がした。
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