第十三話 転生先の俺は王様と約束があったそうです
俺の部屋のドアを誰かがノックした。
「おはようございますスカイ様、朝食の準備ができました」
可愛らしいハスキーボイス……この声はルーヴだ。
「おはようルーヴ、すぐに行くよ」
頭もお腹もスッキリになった俺はドアの前で待っているルーヴの元へ向かった。
ルーヴは俺が来ると嬉しそうに笑顔を見せた。
「改めて本当にスカイ様なんですね……またこうやって朝起こしに来られるのが私は幸せです」
「そ、そうか。よろしく頼むよ」
そんなにこの男が良いのか……。だけど美女から好かれるのはどんな男でも嬉しくないわけがない。
この身体は本当の俺ではないけどここは素直に喜ぶとしよう。
いかにも王様が住む城らしい立派で大きいダイニングルームへと連れられた俺。
席へと案内されるとすぐにジェーン王がやって来た。
「おはよう我のスカイ、ゆっくり眠れたか?」
相変わらず「我の」が気になるけど……気にせず笑顔で挨拶をした。
「おはようございます王様、ゆっくり眠れました」
ジェーン王は満面の笑みを浮かべた。
「そうか、それは良かった。今日は一日我と一緒にいてくれ」
「はい、もちろん」
俺は笑顔を忘れずに答えた。
これはチャンスだ。ここでこの国の政治を変えることを説得できれば国民の生活もガラッと変わるだろう。
そしてこの幼女の王様はスカイが大のお気に入りだから案外簡単に納得してくれるそう思っていた。
食事が運ばれた。二人分だけ……。
「ジェーン王、グレスとソフィアの分は?」
俺の命の恩人であり今は俺の側近の二人は食事の場に姿を現さない。どうせなら一緒に食事をしたいという純粋な気持ちで聞いた。
俺の言葉でジェーン王は不機嫌な顔をした。
「何故、使用人の分際で我と食事ができるのだ?スカイの命の恩人ということで大目に見てやってここに置いているのだぞ?」
確かに王様の言う通りだ。
グレスもソフィアも俺にとっては大切な人だけど王様にとってはただの平民、俺の贔屓だけで王様と同じテーブルで食事なんてあり得ない話だ。
これは失言をしてしまった……。
完全にジェーン王の身分を貶すようなことを口にした。
俺は全力で謝った。テーブルに額がぶつかるくらい勢いよく頭を下げた。
「申し訳ございません。無礼なことを口にしてしまいました」
ジェーン王は俺を睨んだ。その眼差しは幼女とは思えないほどに鋭く俺の身体が竦んだ。
これが幼女の目つきか?あまりにも冷酷な目つき……。
だが、俺には理解できた。9歳にして大切な家族を失い、精神が病んでいるのに国の王として生きていかなければいけない過酷な道を生きている彼女。
その若い人生で味わうことのない悲しみや苦しみ、そして怒りを経験したからこそ彼女はすでに幼女の枠を超えた威圧感をその目で感じさせることが出来るのであろう。
ジェーン王はため息を吐いた。
「記憶がないのだ、許してやる。しかし今後我を貶すよううなことを口にすればスカイとはいえ許しはしないぞ」
助かった……。ここで失敗すれば何もできないまま終わってしまうところだった。
「ありがとうございます。以後発言には気をつけます」
俺は自分の失言のせいで朝食が喉を通らなかった。
ジェーン王は心配そうな顔をして俺を見た。
「どうしたスカイ、食欲がないのか?」
いや、あなたの威圧のせいですよ。まぁ、俺がさせてしまったようなものだけど……。
あんなに睨まれたら緊張して喉を通るもんも通らなくなる。
そんなことは言えるはずもなく俺は笑って誤魔化した。
「すみません、お腹がいっぱいで……大切なジェーン王との食事なのに申し訳ございません」
「体調が悪いのか?」
ジェーン王は席を離れ近づいてくる。そして俺の顔を間近でじっと見つめてくる。
これは……恋愛対象16歳以上の俺でも照れてしまいそうだ。いや、ダメだ相手は9歳ほどの女の子。異世界とはいえ幼女に惚れるわけにはいかない!
「いえ、体調は物凄く良いです。本当にお腹がいっぱいなだけです」
俺は我慢できず目線を外した。
「そうか!」
俺の言葉で笑顔になるジェーン王。もしも妹がいたらこんな感じで心配してくれるのだろうか。
恐らくロリコンには最高のシチュエーション何だろうなと思う俺。
機嫌が直ったジェーン王は席につき、食事を頬張りながら笑って俺を見た。
食べる姿は本当に子供らしく可愛い。
「そうだ我のスカイ。食事が終わったら庭で散歩でもしよう。スカイが死ぬ前はよく一緒に庭で散歩していたんだ」
やはり側近だと一緒にいることが多いんなだな。
「はい、もちろん」
俺は幼女らしく美味しそうに食事を食べる彼女を見ていると自然と笑みが溢れてしまった。
この子が悪名高い王様と呼ばれているなんて、何かの間違いではないか?こんなにも可愛らしいのに……。
ジェーン王が食事を済ませると彼女は俺の手を引き嬉しそうに庭へ案内してくれた。
「なあ我のスカイ、覚えていないか?ここで良くお前は我に優しい言葉をたくさん投げかけてくれたことを」
「すみません……」
謝るしかないよな、申し訳ないけど本当のことは話さないし……。
「そうか……記憶が戻ったらまた……」
そして俺は衝撃的な言葉を聞くことになる。
彼女はとても可愛らしい笑顔で白く綺麗な歯を見せて俺に恐ろしいことを話した。
「お前の記憶が戻ったら我が味わったような苦しみや怒りを国民に味合わせるための法をまた一緒にたくさん考えような」
あぁ、そういうことか……。そういうことだったんだ。何故そういう考えになったか分からないけど彼女は自分だけが不幸になるのが嫌だったんだ。
やはり子供……自己中心的な考えを持ってしまうのか?
だけどよく考えたらこの娘はまだ9歳、そういう考えてしまうのは仕方ないのかもしれない……。
俺は腹を括った。王様から話を振られたのだからここで説得しよう。
「無礼を承知でお願いします」
俺は頭を下げた。もちろん、ジェーン王の顔を見て説得なんてできない。
「もう、国民を苦しめるのは辞めてください。理由がどうであれあなたはこの国の王様です、この国顔です」
「何故?何故だ?」
一瞬で分かった、彼女は俺の言葉に怒り泣いていることを……。
それでも俺は怯まずに話した。
「俺はこの城まで来る道中、多くの国民と出会いました。国民はみな痩せ細っていて毎日飢えを何とか凌ぐ生活をしています」
「だから何だ?」
王様の冷酷な声。冷や汗が出てくる。
だけど、ここで辞めたら二度とチャンスは来ないかもしれない。
「だから、これからは国民のための政治をするべきです。一人一人が幸せになるような国作りを!貴女のお父さんがそうしたように!」
「記憶をなくしたお前がおかしなことを言い出すからちょう良い、全てを話してやる。あの日の約束を……」
王女は俺から顔を背けると暗く低い声で昔の話を始めた。
昔、ジェーン王の両親と祖父母が亡くなった後貴族や国民全てのものが嘆き悲しんだ。
みな自分の家族の死に顔をみて泣いている姿を見ると我は自分の両親は愛されていたのだと実感した。
心の傷が癒えないけれどみんなの悲しんでいる姿を見ると我だけが悲しいのではない、みんな一緒なんだと少しだけ楽にはなった。
だけど、やっぱりダメだ。何もやる気が起きない、心が痛い、苦しい。死にたい、この苦しみから解放されたい。
数日経った……。
「王女様、私ですスカイです」
スカイの声は聞こえていた。
だけど我は返事をしなかった。誰にも会いたくない、話したくない今は一人でいたい。
だけど、スカイは返事のない我を無視して側にいてくれた。ただ、黙って廃人のようになった幼い我の側に。
心は痛んでも身体は正直だった。2週間ほど食事を取らずただ、水だけ喉を通しているとお腹が鳴る。
スカイは悲しい顔をしながら笑ってくれた。
「王女様、何かお食べになりましょう。私も食欲が無かったのですがお腹が空きました」
私とスカイは我の部屋を久しぶりに出た。
病人が食べるような食事をした。味がない、美味しくない。
食事を二人ですると自然と口が開いた。
「ずっと一緒にいてくれたのか?」
スカイは悲しい顔をしていた。
「はい、私も王女様と同じく本当の父のように慕っていたので痛いほど貴女の気持ちが分かります。だから王女様と一緒にいたいと思いました」
「……」
自然と涙が流れた。
「きっと国民のみんなも一緒ですよ。偉大なプレザント王国を発展させたジェームズ王の死はそれほど悲しい出来事です」
「……」
我はスカイに何も言えなかった。
「少しずつ前を向いていきましょう。二人でゆっくりと」
スカイはずっと一緒にいてくれた。常に悲しい顔をしながら優しい声で我に話しかけてくれた。
1ヶ月経たないほどした頃、我はようやく外に出ようと思った。心の傷が癒えたとか苦しみが軽くなったとかではない。
ただ、この苦しみから解放されたい思いで藁にもすがる思いで外に出た。
もちろんスカイも付いて来てくれた。
そして、久々に街へ顔を出した私は衝撃を受けた……。
街では国民が何事もなかったかのように笑っていた。
我はこんなに苦しんでいるのに、お前たちの住んでいる国をここまで大きくさせた偉大な王が亡くなったというのに。
許せなかった、何故我だけが苦しまなければいけないのか何故お前たちは悲しい顔をしていないのか。
お前たちを今まで幸せにしてきた王の死をたった3週間と少しで忘れてしまうのか。
我は絶望した、どんなに人に尽くしても死ねば忘れられてしまうのかと。
我とスカイは城へと戻った。
我はスカイに自分の怒りをぶつけた。
「何故、あいつらは平気で笑っているんだ。我だけだこんなにも哀れで苦しいおもいをしているのは!」
それからスカイはただ、黙って我の怒りを受け止めてくれた。
少し怒りが落ち着いた時にスカイがそっと口を開いた。
「提案があります王女様」
スカイの提案は我にとって最高のものだった。
「国民にも苦しみを味合わせましょう。貴女だけが苦しい世の中ではなくみんなで苦しむのです。そうすれば貴女の気も楽になることでしょう」
さすがに最初は怖気ついた。国民を幸せにしていた父の背中を見ていた我にとって考えてもいなかったこと……。
「そんなこと許されるのか?」-
「許されます貴女は苦しんでいるのですから……そして国民にも王様のありがたみを分かってもらえるでしょう」
やっぱりだ、我を一番の理解者はスカイだけ。
物心つく頃からずっと我の身の回りのことをしてくれた。ずっと一緒にいてくれたから我のことを一番に思ってくれている。
「どうすれば良い?」
スカイは我を見て優しく笑った。
「簡単な話です、税や年貢を多く取るのです。そうすれば国民の生活は苦しくなります」
「一緒に国民を苦しめてやりましょう」
正直政治や法などよく分からない我だったけどスカイの言う通りにすれば我の良い方向へと導いてくれる……そう思った。
スカイは我に色々なことをアドバイスしてくれた。
我のとスカイはたくさん話し合い考え、国民を苦しめる法を作りそれを我が国民に伝えるた。
そうして数年経つと全てが変わった。
国民から笑顔が消えた。飢えに苦しみみな痩せ細った。
殺すつもりはない、ギリギリ飢えが凌げるまで金と農作物を搾り取った。ただ反逆する者や疑いのある者はすぐに処刑した。
そうすると逆らうものは出てこなくなった。
みな、我と同じ苦しみを味わっているそれだけで気が楽になった。
「ジェーン王女……いえ、王様。これからも苦しみをみんなで共有していきましょう……」
「うん!」
これがあの日の約束……。
俺はとんでもない話を聞いてしまった。何という約束だろう。
まさか、この身体の男もこの国の人々を苦しめていた張本人だったなんて……。
この話が真実ならジェーン王はスカイという男が記憶を失っているとはいえ裏切られた気持ちなんだろう。
だけど、この娘は正しい方向へ導かなければならない。
王様とはいえ正しく生き子供らしく楽しく笑ってほしい。
今はただ自分の恨みや悲しみ、そして憎しみという感情を抑えきれなくて人々に八つ当たりしそれを見て笑っているだけだ。
きっと多くの人から恨まれ憎まれる王様となり今以上に可哀想な現実がやってくる。
立派な王様として生き、人々から尊敬されるような人になってほしい。
自分さえ良ければという考えだった俺がこっちに来てから他人のことばかり考えてやがる……。
俺は頭を下げた。
「お願いです、もう十分苦しんでいます。これからはみんなで楽しく生きていきましょう」
ジェーン王は冷たい目で睨み呆れた顔をした。
「もうよい、消えろ。顔も見たくない」
俺の声は届かなかった。終わった……。
ジェーン王は城の中へと消えていった。
アテンプト村やアロン村のみんなの期待に応えれなかった。
日本へ生き返るのもみんなとの約束を果たすのも俺には無理なことだったのかな?
王様にあんな風に冷たく言われたら心が折れそうになった。
俺はサブローの顔を思い出した。
「あいつ、痩せてるのにいい笑顔だったよな……」
そういやあいつ俺のことおっちゃんって言ってバカにしてきたな。だけど、あいつがいなかったら俺はここに来れなかった。
「諦めちゃいけないよな。約束は守らないと……男同士の約束を」俺は拳を握りしめ再び立ち上がった。
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