第九話 転生先で歳下に恋なんてありえません!

――――そして天界では……


「私のワインが……お供物のワインが……」

 肩を落とす神様。


 閻魔大王は指を咥えていた。

「俺も飲みたかった……美味しそうだったな」


「絶対に……絶対に許さん。天罰を与えなければ!」

 神様は気が狂ったように何かを唱え出した。


 慌てて神様を止める閻魔大王。

「落ち着け神!ほら今日は良い日本酒が入った!これで我慢しろ!」


「今はワインの口だ!ワインを持って来い!」

 暴れる神様、それを全力で止めようとする閻魔大王。

 まさに地獄絵図……。


「分かった分かった!すぐに持ってくる!だから落ち着け!」慌ててワインを取りに行く閻魔大王、もうその威厳とかそういうのは全く感じられなかった……。


 やはりこの世で一番偉いのは神様なのだ!続く……。


――――


 さすがに寝不足だ。今日は寝ないとまずい。

 俺はベットに入り目を閉じると気絶するように眠りに入った。


 そして夢を見た……。


 見たことがある場所、知らないスーツ姿のおっさんとおばさんたち……。


「総理、少子高齢化について対策はあるのでしょうか?」

 誰だお前?急に睨みつけてくるなよ。

 

「総理大臣関口空くん」

 白髪の偉そうなおじさんがマイク越しに俺を呼んだ。


「全日本男児の声を代表し、来年の夏から16〜30歳までの女性の服装をミニスカに強制させていただきます」

 なんでこんなこと言っているんだ俺?けど、そんな法案あったらいいな。


「膝上何センチだ?詳細を言え!詳細を!」

「パンティーが見えたらどうするんだ!」

「ストッキングを履いたら元も子もないだろう!」

 俺の前に座っている大勢のおっさんおばさんたちがあーだこーだと野次を飛ばしてきた。


 俺は再び席を立ちマイク越しに話した。

「えー、ミニスカの長さについてですが、現在検討しているのは膝上10センチ以上を目安に話を進めてまいります」


「そして、『ストッキングはどうするか』とのことですがストッキング好きの男の子もいます。現段階ではストッキングは履いても良いという考えでございます」


「えー、さらにこの法案はパンティーが見えるか見えないかのギリギリのラインが一番男子が興奮するというのを前提に考えられています」


 俺は声を上げた。

「なのでパンティーが見えても良いのです!男ども!みんなで女性のパンティーを覗こうではないか!」


「うぉーーーー!」

 盛り上がる日本中の男たち。


 俺は念願の総理大臣になったのだ……。


「グォーーー」俺に押し寄せる獣化とした男たち。

「お前ら違う!俺は男だ!やめろ!」


 目の前には獣が唸り声を上げ俺を殺そうとしてきた。

 しかし、その獣たちは急に歪み出した。「あれ、なんか景色がぼやけてきた」


「グォー!グォー!」

 俺は目が覚めた。原因はこの女のいびきだ。

 それにしても酒を飲んだから今回は強烈だ。


 ソフィアがいびきをかくたび家が揺れている。

 おいおい、崩れるんじゃないか?


 俺は知っている、寝ているソフィアを起こすと寝ぼけて暴力を振るってくることを。


「俺は関係ないもん!別にうるさいと思わないし!」

 震えながら縮こまる俺。別に情けなくなんてない。


 すると村中に響く鐘の音。


 カーン!カーン!「怪物が出だ!村の男は武器を持て!女と子供は避難しろ!」


 怪物?こうしていられない!俺たちも逃げないと!

「おい!グレス!ソフィア!起きろ!怪物が出たぞ!」


 俺は必死に二人を揺らし起こそうとしたが完全に寝ている二人。


「スピースピー」

「グォー!グォー!」


 どうしよう……けどこいつら強いし放っておいても大丈夫か!


 俺は勢いよく宿を出た……光の速さで!

 宿のドアを開けるとそこには村の男が大勢いた。


「スカイ様!だ、大丈夫ですか?」

 男たちは慌てた様子で俺を見た。


 ところで何でみんなここにいるんだ?

「あれ!?なんでここにいるんですか?怪物のところへ行ったのでは?」

 

 村人は警戒しながら俺に話した。

「落ち着いて聞いてください、この宿からその怪物の唸り声が聞こえたんです」


 嘘でしょ?てか、その怪物ってもしかしたらもしかしたらだけど。


 恐る恐る宿へ入る男たち。

「気をつけろ、いきなり襲ってくるかもしれないぞ」


 本当に申し訳ない。恐らくその怪物の正体はソフィアかも……。


 そしてくらい部屋を唸り声を頼りに歩く村人。

「ここだ!このベットから聞こえてくる!」


 ダメだ、謝ろう。俺は全力で土下座した。

「すみません!怪物の正体はきっとソフィアのいびきです!」


「何だって?」村人の一人は唸り声のするベットに顔を近づけた。


「グォー、グォー」

「ほ、本当だ。女の子のいびきだ……。なんだこのうるさいいびきわ」村人はドン引きしていた。


「スカイ様、さすがにうるさいですよ。どうにかしてください」


 どうにかしろって言ったって無理だよ。殴られて終わりだよ、俺が痛い思いするだけだもん。

「すみません、本当にすみません。けどどうにもできないんです」俺は泣いた。非力な自分が情けなくて村人に申し訳なくて泣いた。


 見かねた村人の一人があるアイデアを出した。

「では、使っていないワイン倉庫に入れておくのはどうでしょか?あそこなら多少マシになるのでは?」


「おお!いいアイデアだ!」

「早速この娘を倉庫に閉じ込めよう!」


 何か悪魔を封印するみたいな言い方……。


 けどこれしか方法はない。

「ぜひお願いします!彼女を閉じ込めてください!よろしくお願いします!」俺は必死にお願いをした。


「よしベットごと運ぼう。みんなベットを持ってくれ」

 村人たちはソフィアのベットを持った。


「僕も手伝います!」

 俺もすかさず村人に加わりベットを掴んだ。


「よし運ぶぞ!」

 その言葉を合図にベットを持ち上げて倉庫へと運んだ。


 少しい古く厚い壁の倉庫。

 中は真っ暗で外の光が入ってこないようになっていた。


 俺たちは無事気付かれずに倉庫の中へソフィアを入れた。


「これで寝れる。みなさんありがとうございます」

 俺は村のみんなにお礼を言った。


「困っていたらお互い様ですよ。それじゃあおやすみなさい」なんて優しい人たちだろう。世界中がこういう人たちなら平和に暮らせるのに。


「ふぁあ」俺は安心したのか急に眠気が襲ってきた。

 今日こそしっかり寝よう。俺はベットで横になり心安らかに眠りに入った……。


 チュンチュン……小鳥の囀り、そして眩しい陽の光。

 素晴らしい希望の朝が来た!胸は喜びを抱いている!


 それにしてもよく眠れた。ていうか、もう眠りが深すぎて夢なんて見てない。


「今日でやっと城に辿り着ける予定。今の俺なら怖いものなんてない!」俺は陽の光を浴びながら太陽にまで届く声を出した。


「うるさいですね……朝から何でそんなにテンション高いのですか?声がキモすぎて頭に響くんですけど」


「イタタタ……」

 グレスは頭を押さえながら起きた。

 恐らく二日酔いというやつだろう、機嫌が悪そうだ。


 けど関係ない!

 俺は清々しい気分だったのでダル絡みした。

「すまないねグレスくん。では、朝食を済ませたら早速出発しようではないか!我々の栄光のために!」


 迷惑そうな顔をしてこっちを見てくるグレス。

「はぁ、顔洗ってきますね」

 

 ようやく国が変わるための第一歩を踏めるかもしれないというのに相変わらず冷静なのか冷たいのかよく分からない奴だな。


 俺は昨日貰ったバナナを頬張りながら考えた。

「そういえば、王様ってどんな人なんだろうか……」


 悪名高いというから相当恐ろしいのではないか?

 もしかしたらだけど説得とかして癪に触っちゃったら殺されちゃうんじゃないの?


 グレスやアテンプト村の人たちにあれだけ威勢の良いことを言っておきながら少し怖気付いてきた。


 けど、神様にも誓ってしまったし……。

 生き返るにはどうにかしないといけないし……。


 結局、選択肢は一つだけか……。

 どう足掻いても城へ行き王様をどうにかして説得しないといけないよな。


 俺は顔を洗いに行っていたグレスが戻ってくると透かさず質問をした。


「そ、そういやさ……王様ってどういう人なのか知ってる?」


「記憶がないと近くにいた王様のことも忘れてしまうんですね」グレスはバナナの皮を剥きながら話してくれた。

 

 王様の容姿は明かされていないらしい。


 実際に存在していると城で働いている人たちは言うらしいが詳細を外に漏らすと処刑対象とされるためそれ以上は語られていない。


 国民からはもしかしたら王様などいないのではないかという疑問を抱いていた。


 その謎を解明しようと試みた人たちは次々と公開処刑されてしまい謎は解明されないままだと思われた。


 だがある日、同じく王様の謎を解明しようとした者が城の人間に捕まり公開処刑の当日に放った一言が話題を呼んだ。


『王様は実在する。そしてあの王様は善悪を理解していない危険な存在だ!そして一番厄介なのは……』そこまで言うと彼はそのまま首を斬られたらしい。


 何それ……国の王様が善悪を理解していないってやばいじゃん……。俺下手したらガチ殺される。


「へ、へぇーそうなんだ。恐ろしいなー」

 ガタガタ震えてだす俺。生き返るどころか二度目の死を味わうかも……。


 グレスは震える俺を見てクスッと笑った。

「大丈夫ですよ。スカイ様は側近の中でも特に王様のお気に入りだと国中の噂だったのですから」


「や、やったー」

 素直に受け入れられない。普通に考えて怖いし、絶対気分屋じゃん王様。よく生前のこの身体の持ち主はお気に入りになれたな……。


 グレスはもぐもぐとバナナを食べている。

「とりあえず、これを食べたらすぐにこの村を出るんですよね?」


「あぁ、俺……ちょっとトイレ。大きい方だから待ってて」


 俺はトイレにこもった。

「逃げちゃダメ、逃げちゃダメ、逃げちゃダメ」


 しばらくトイレでそんなことを考えているとグレスがドアを叩いた。


「いい加減出てきてください。出発が遅れますよ」


「まだ出てるんだ。すまない……」


「もしかして、怖気付いたんですか?」

 グレスは勘付いたようだ。完全にバレている。


「サブローたちはどうするんですか?裏切るんですか?みんなあなたがやり遂げてくれると思っていますよ。そうしたらまたサブローたちと遊ぶのではないのですか?」

 グレスは少し悲しそうな声で俺に説得をした。


 そうだ……。俺はあの時誓ったんだ、この国の人たちを幸せにするって。


 俺はここに転生した使命をもう忘れるのか?

 俺を救ってくれたグレスやサブローたちを裏切るのか?


 男が女や子供を裏切るなんてこの俺のチ◯チ◯が許さない。生前も今も立派にこうやって付いているんだ。


 そう、俺は約束は果たすチ◯チ◯だ!


 俺は勢いよくトイレを出た。

「ななな何を言っているだグレスくん。大きいのが長引いただけだ。さぁ出発しようか!」


 グレスは持っていたナイフを俺に気付かれないように隠した。


 安心したように笑うグレス。

「良かったです。大きいのが長引いただけのようで」


 笑うグレスに対して汗が止まらない俺。

「何!疑っていたのか?俺は約束は果たす男だ!おおお覚えておいてくれたまえ!」


「あははは!」そんな俺を見て腹を抱えて笑い出すグレス。


「何が面白いんだ?笑うな!」

 俺はそう言ったが、彼女が笑ってくれると不思議と嬉しくなっていた。


 いや勘違いかな、胸が苦しくなるような気が……。

 まぁ、歳下の女の子に恋なんて俺にはありえない、勘違いだなこりゃ。


 だけど、いつも冷静で大人しい彼女が笑う姿はまるで俺をここに転生した神様ではなく、よく童話などに出てくる女神のように優しく温かく俺には感じた。


「どうされました?スカイ様?」

 俺がぼーっとしたのを心配そうに見つめるグレス。


「いやいや!何もない!では村の人に挨拶をして早速出発しよう!」


 危ない、危ない。またキモがられるところだった。

 さすがに16歳は恋愛対象外にしないとな、二十歳を超えているこの見た目だと犯罪になってしまう。


 俺とグレスは村人たちに挨拶をした。

「みなさん、本当にありがとうございます。1日でも早くみなさんが幸せになるように努めます。では……」


「頼みます。スカイ様」

 お爺さんは拳を俺に突き出した。


 俺は笑みを浮かべお爺さんと再び拳と拳を合わせた。


 さあ、再び歩み始めよう悪名高い王様がいる城へ……。

 俺たち二人と二頭は再び力強く歩き始めるのであった。


「あの、私のこと忘れていませんか?」

 どこかで聞いたことのある声……。


 俺は声のする方を向いた。

 そう、俺は忘れていたのだソフィアの存在を……。


 ソフィアはガチ泣きした。

「いくら私が根暗で影が薄くたって忘れるなんて酷い!この悪魔!」


「すまん、次は忘れないようにするからさ」


「次はないですよ!」

 頬を膨らませ怒るソフィア。許してくれたが機嫌は悪いまま。仕方ないけど、閉じ込めるしかなかったんだよ!


 グレスは関わらないように空気になっていた。

 こういう時は助けてくれないのか……。


 お爺さんは俺たちを見て疑問を抱いたようだ。

「お三方に対して馬が二頭とは何故でしょうか?」


 ソフィアは俺の後ろへと隠れた。

 こいうい姿は可愛く見えちゃうんだよな。

 

 根暗で人見知りなソフィアは自分の口から説明できないため俺が説明をした。ソフィアが一人で生活していたこととこの馬は俺とグレスの馬だと言うことを……。


「でしたらこの村の馬を一頭差し上げます」


「え?良いのですか?」

 俺は驚いた。まさか、馬を貰えるなんて……。


「正直、数頭の馬がいますが食費がバカにならなくて困っていまして……」


 確かに、ただでさえ人が飢えているのに馬にも食費がかかっていたら困るのは当然だ。


「では、ありがたく頂きます」


 連れてこられたのは光沢のある美しい黒毛の馬だった。

 その馬はもちろんソフィアが乗ることになった。


 ソフィアは初めての愛馬に嬉しそうにして機嫌を直したようだ。「これからよろしくお願いしますね、お馬さん」


 よし、今度こそ再び歩み始めよう悪名高い王様がいる城へ……。


 俺たち三人と三頭は再び力強く歩き始めるのであった。

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