第八話 転生先で酔い潰れたヒロインたちを介抱します!
村に入ると、やっぱりというか当たり前のようにみんな驚いていた。
「あれ、殺されたスカイ様じゃないのか?」
「生きていたのか?噂は嘘だったのか?」
「何だろう、また納税の話かな?」
「もうこれ以上果物を納めるのは耐えられないよ……」
それにしてもこの村もやっぱりみんな痩せ細っているな……。自分たちで大切に作った果物が自分たちで満足に食べることも出来ないなんて。
お爺さんは張り切って声を上げた。
「みなの者!スカイ様がワシらの話を聞いてくださるそうだ。意見のあるやつは出てこい!」
みな警戒しているのだろうか誰一人として俺の元へはこなかった。
当たり前だ。転生したこの身体は王様の側近、平民農民のこの人たちにとって雲の上の存在のようなもの。下手に機嫌を損ねて怒らせたら処刑されるのではないかと勘繰ってしまうのは自然のことだ。
俺は村の中央のにある広場で地べたに座った。
「俺はあなたたちに危害を与えない!俺も男だ、男に二言はない!」
村人たちは俺に注目をし始めた。
今しかないと俺は思いさらに追い込みをかけた。
「だからみんなが王様に不満があれば俺に言ってくれ!絶対に悪いようにはしない!いや、むしろこの国を良い方向へと変えてみせる!」
俺は声高々と叫んだ。そして村人たちがやってくるのをじっと待った。
しばらく俺は全った。村人は疑心暗鬼になっていた。
すると、村長は俺の前に座った。
「ワシらの育てた果物を納める量を減らして欲しい」
村長は自ら進んで俺に不満を言ってきた。
普通なら疑ってやまないのに俺を信じてくれている。
村長は村人に聞こえるように大きな声を出した。
「現状でさえワシらはどうにか飢えをしのぐ生活をしている。この生活を抜け出せる希望があるならばワシはそれに縋りたい!」
お爺さんは俺の顔を見た。
「ワシはスカイ様のあの真剣な眼差しを信用する」
するとお爺さんの言葉と共に村人が俺の前に集まって来た。
「俺も言いたいことが!」
「私も本当は……」
「俺が先だ!」
村人は自分たちの不満を俺にぶつけた。
だけど、こうもまあみんな寄ってたかって不満を言ってくると何を言っているのか分からない。聖徳太子もビックリだろう。
「わ、分かりました。とりあえず列になってください」
俺は暑くなった村人を一列に並ばせて一人ずつ話を聞くようにした。
俺は数時間かけて話を聞いた。
そしてそれは陽が暮れそうになるまで続いた。
「と、とりあえず全員の話を聞いたぞ……」
さすがに何十人と話を聞くと疲れる。しかもみんなやはり不満が溜まっていたのか愚痴も入っているので一人一人の話が長い。
俺が広場で横になっているとお爺さんがやって来た。
「お疲れ様です。グレス様、今日はもう遅いので村へ泊まってください」
「ありがとうございます。助かります」
俺はお爺さんの言葉をありがたく受け取りこの村で泊まることにした。
案内された宿はまたしても綺麗な木でできた家だった。
「これはもしかして貴族専用の宿ですか?」俺はお爺さんにそう質問した。
「はい、王様からの命令で建てました」
村人はボロボロの家に住んでいるのに来るか来ないか分からない貴族や王様のためにこんなに綺麗な宿を建てなければいけないなんて……。
他のオンボロ宿はないかと聞いたが、宿はこれしかないらしく俺とグレス、そしてソフィアは申し訳ないがありがたく泊まらせてもらった。
「とりあえず今日の村人から聞いた不満をまとめよう」
俺は村人の話を整理した。
大体みんな同じ意見だった。
まず、果物を納める量が多すぎる。
時期によって様々な果物が採れるがその8割は王様に納めろというとんでもない話らしい。
そして1割を他所の村や国に売り付けているらしいがそこで得たお金も半分は税金として納めなければいけないという。
残りの1割を自分たちの食べる分としているが飢えをしのぐ量しかなく満足に食べれないらしい。
具体的な量などは分からないけどさすがに俺でも王様がどれほどここの村人から摂取しているのかは分かる。
「うーん」俺は考えた。この村人が裕福な生活を送るためにより良い策を。
「何を考えているのですか?」ソフィアが不思議そうな顔をして俺に話しかけてきた。
「この村が救われる方法だよ」
そういえばソフィアには色々と話していなかったな。
俺はこれから一緒に城へ行くソフィアに説明をした。
「ソフィア、俺たちについてくる上で聞いてほしいことがある」
「この国の人々は王様に苦しめられているんだ。だから俺は王様のところへ行き説得してこの国を変えようと思っている。そしてこの国の人々を幸せにするんだ」
ソフィアは目を輝かせた。
「では、私もこの国を変えることで英雄の一人になるというわけですね!」
「まぁ、そんなところかな……」
「スカイ様が英雄とはまた面白いですね」
俺たちの会話を聞いていたグレスはクスッと笑った。
そんな話をしていると村人が俺たちの食事を運んできた。食事と言っても少量の果物だった。
「すみません。王様の命令通りたくさんのお食事を提供するつもりでしたが村にはあまり食料がなくて……」
「いえいえ、宿で寝泊まりできるだけありがたいです!それよりもみなさんの食べる量はあるのですか?」
「貴族様が私たちのことを気にするなんて……」
村人たちは感動していたようだ。
何か本当に申し訳ない……。
しかし、やはりここの子供たちも痩せ細っている。俺は果物の中からバナナを数本取り出して残りの果物を村人へ返した。
「これは子供達に分け与えてください」
そんなに大層なことをしたわけではないけど村人は涙を流した。
「あ、ありがとうございます」
まるで魔王を倒した勇者のように感謝される俺。
嬉しいけどこの人たちがどれほど苦しめられているかが分かった。
「よ、よし!あれを持って来てくれ!」
お爺さんは張り切って何かを持って来させようとした。
村人Aは驚いた顔でお爺さんに聞く。
「あ、あれは神様にお供えする物では……」
「どうせ供えた後みんなで飲むんじゃ!今年は少しくらい減っていてもバチは当たらん!」
神様に供えるって本当に飲んでいいのかよ……。
「ダメに決まってる!ていうか私はそのお供えものなど知らんぞ!」
何か上から聞こえてくるような気がする。
「私が話しかけているんだ!おい!そのお供物は私の物だからな!」多分、神様なんだろうな。無視しよう。
「お待たせしました!」
村人は大切そうに大きな樽を持って来た。
「スカイ様。これはワシらが毎年神様にお供えしているワインでございます」
ワインか、俺未成年だから飲めないんだよな。
まてよ?黙っていればバレないか、しかもこの身体は二十歳を超えているだろうし……。
「今日はスカイ様がこの国を良くしてくれることを信じてみんなも飲め飲め!」お爺さんはもう中学生か!っていうくらいのハイテンションで村人にグラスを渡した。
ほ、本当に良いのかな?ただでさえ食料が必要な村なのに……。
俺は少し複雑そうな顔をした。
それを勘付いたのかお爺さんは俺に笑顔で話しかけてきた。
「スカイ様、これから先あなたが私たちを救ってくれると信じているのです。これは私たちからほんの小さなお礼だと受け取ってください」
「そ、そうですか……そうですよね!よっしゃ!ありがたく飲みまくるぞ!」
再び上から声が聞こえた。
「おい!聞こえてるだろ?私も飲みたい!飲ませてくれ!頼む!いや、頼みます!お願いですから!」
どうやらこの飲み助のありがたくない神様の声は一度死んだ俺にしか聞こえないらしい。
俺は初めてワインを一口飲んだ。
飲んだ瞬間口に広がるブドウの香り……よりも強いアルコール臭。どうやら俺はお酒がそこまで好きではないかもしれない。
「ワインって初めて飲んだけど俺には美味しさが良く分からないな」
ソムリエが風味が〜とかコクが〜とか若い〜だの言っているけど全く俺には分からない。
だけど、俺はとりあえず飲んだ。
「ワインの美味しさも分からんのに飲むな!この下戸が!私に供えなさい!」
あ、また神様らしからぬ一言をこの疫病神は……。
とりあえず美味しいとは思わないけど飲んでやろう。
「こ、こいつ!私に見せびらかすようにワインを飲みやがって!必ず天罰を与えてやるんだから!」
本当に下品な神様だよな。
お祈りしている人に本性を見せてあげたいくらいだ。
「ほぉ、これは美味しいですね……」
「本当ですね!こんなに美味しいワインがあったとは!」
グレスとソフィアもワインを飲んでいた……。
そう、16歳のグレスも。
「グレス、お前酒飲んでも良いのか?」
日本では二十歳を超えないといけないはず……。
「まぁ、いいんじゃないんですか?」
曖昧な返答に戸惑う俺。
いやいやダメでしょ。周りも止めないしどうなってんのこれ。しかも16の小娘のくせに『美味しいですね』だってさ年上の俺よりもワインを味わいやがって……。悔しい!
「グレス、体に悪いぞ」
するとグレスは俺に済ました顔を向けた。
「だって何歳までは飲んではダメっていう規則はないじゃないですか。だから大体みんな15歳過ぎてから飲んでますよ」
曖昧な返答はそういうことか……。
この世界の法律とか良く分からないけどあまり規則とかそういうのはないんだろうか。
城に着いたら色々やることは多そうだ……。
グレスはほろ酔いになったのか俺に挑発をしてきた。
「スカイ様は飲まないのですか?グラスが空いていないようですけど……もしかして大人なのに大人の味が分からないのですか?」
「あ、味わってるんだ!決してアルコール臭が苦手なわけではない!」俺は必死に言い訳をした。まぁ、完全にバレていたんだけど。
「そうですか!ではではどんどん飲みましょう!」グレスは空いていない俺のグラスにワインを注ぎ足した。
「あ、お前!やめろ!」俺の抵抗虚しくグラスには赤いワインが注がれた。
グレスは悪い顔をして俺にグラスを近づけた。
「さぁスカイ様、この可愛いグレスから注がれたワインを飲んでください!さぁ!」
た、確かに可愛いけど……こいつ、酔うと馴れ馴れしくなるな。
「自分のペースで飲むよ、ありがとう」
とりあえず誤魔化して笑顔を作る俺。
その笑顔が癪に触ったのか、もしくは一言が気に食わなかったのか分からないが完全に酔っているグレスは真っ赤な顔で俺にキレ出した。
「おいおいおいおい!可愛い女の子からの酒を断るのか?飲めないって言うのか?お前ノリ悪いのか?××コ付いてんのか?」
16歳女子から胸ぐらを掴まれ持ち上げられる推定20〜22歳の男。
これってアルハラ?お兄さんハラスメントの経験ないから泣いちゃうよ……メンタルやられそう、しかも年下の女の子に……。
「うんとかすんとか言ったらどうだ?」
こいつ酒臭い、結構飲んでやがるな。けど、可愛いからこれはこれでありなのかも。
あぁ、まさか年下の女の子に力で負けるとは思わなかったな。いや、こいつが力強いだけなのかも。絶対そうだ、だってあんなに大きい獣を簡単に倒しちゃうんだもん。
だったら俺抵抗しても意味なくないか?
「……」俺はもう何も言わないことにした。
こんなことが起こっているのに村人は村人で勝手に騒いでいるし、ソフィアはソフィアで隅っこで隠れて飲んでいるし……。
どうせ誰も助けてくれないなら流れに身を任せよう。
きっと時間が解決してくれるさ。
しばらく俺は胸ぐらを掴まれたままグレスに怒鳴られ続けた。それはもう、可愛い女の子が決して言ってはいけない言葉ばかりだった。
勇気も◯玉も小さいとかボコボコにしてカエルみたいに鳴かすぞとか口から飲めないなら尻からワイン入れてやろうか?とかもうめちゃくちゃ。
もう、泣いていいかな?俺よく耐えてるよ。年下の女の子にここまで貶されると惨めになってくる、誰も助けてくれないし……。
すると突然、グレスは俺を離した。
「痛!」俺は急に離されたせいで尻餅をついた。
「急に離すなよ」俺はグレスに注意したがふと顔を上げるとグレスが俺の胸に倒れてきた。
「ムニャムニャ」グレスは完全に酔い潰れて寝ていた。
「こいつ……飲み過ぎだバカ……」
顔をワインで赤くして俺の胸で眠りにつく16歳のきつね顔の女の子。
「やっぱ、黙ってたら可愛いな……」
改めて思うその可愛さに少しだけ魅了された。
「スピー、スピー」寝息も可愛い過ぎだろ。そういえばまだ16だもんな、余計に可愛く見えちゃう。
何だろう、グレスの顔と寝息のせいで胸がドキドキしてきた。
「キスしてもバレないかな……」俺は自分の顔をグレスの顔に近づけた。
顔を近づけるとグレスが呼吸をするたびにアルコール臭のする寝息が俺の顔にかかる。
……おえ!やっぱ可愛くてもさすがにこれはきついわ!
アルコールの臭いする他人の息は気持ち悪くて俺にはダメだ、耐えられない!
何とか耐えれるかなって思ったけどさすがに無理だわ。
酒飲むよりもこっちの方が酔っちゃいそう!いや、吐いちゃいそう!
とりあえずこの酔っ払いをベットへ運んだ。
「みんな……私頑張るからね……」寝言か、きっとアテンプト村のみんなのことを夢見てるのだろう。
俺はグレスをベットに置くと可愛い寝顔に誓った。
「お前を裏切るようなことはしないからな」
グレスを運び終わるとお爺さんはグレスが寝たことに気付いていたのか「そろそろお開きにしましょうか」と気を遣ってくれた。
「ワイン、美味しかったです。ごちそうさまでした。」
あんまり飲んでいないけど……。
「そう言ってもらえると幸いです。私たちは丹精込めて我が子のように果物を育てています」
お爺さんは嬉しそうな顔をして頭を下げた。
うわ、すごい申し訳なくなってきた。けど本当は飲んでないんです!何で言えないし……。まぁ黙っていればいいか。
「だからこそスカイ様、私たちの果物を守ってください」
「はい、もちろん」
俺はお爺さんに拳を突き出した。
「これは?」
不思議そうにするお爺さん。
「男同士の約束です、俺の拳にお爺さんの拳を当ててください」
「こうですか?」お爺さんは拳を握り俺の拳にそっと当てた。
「そうです。ではもう一度やり直しましょう、男同士の約束を……」
俺とお爺さんは拳をと拳を合わせた。
「さて、あとはこの根暗の酔っ払いをベットに寝かせるか……」
「あはは……おいちいおいちい」
相変わらず隅で一人寂しくワインを飲んでいる……。
こりゃ完全に酔い潰れているな……面倒くさいなもう。
「おいソフィア!ベットへ行くぞ!」
俺はソフィアの肩を担ぎベットへ運んだ。
「おい!ソフィア少しは歩いてくれ」
「なんだスカイか、ほれしっかり歩いているぞ」
そう言いながら俺にもたれかかってくる。
「しょうがないな……」
俺はソフィアを一旦下ろして今度は背負った。
「お、こいつ意外と胸あるんだな」
だけどやはり女の子だな軽い……。
グレスの時も思ったけどこんなに軽い体でよく獣や山賊と戦えるよな。
俺はソフィアをベットに下ろした。
下ろした衝撃でソフィアは目を開けて俺を見た。
「スカイ……私を一緒に連れてきてくれてありがとう」
それだけを言うとすぐに目を閉じ眠りについた。
さすがに寝言だろうな……ただ、連れてきただけだし。
こいつ、相当な量のワインを飲んだのだろう、顔が赤くなって体が熱い。
「さて、こいつらも寝たことだし俺も寝よう」
今日はゆっくり寝れるだろう。
俺はベットに入り深い眠りにつくはずだった……。
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