第七話 転生先のブドウ畑を目指してみんなで力を合わせます!

「グォー、グォー」

 ちっ、うるさいな。誰だよこんなにやかましいいびきをこの世に放っているのは……。


 俺は空間が歪むほどのうるさいいびきに起こされた。

「誰?バッハか?」俺は愛馬のバッハを疑ったが彼はスヤスヤと寝ていた。


「だったら誰だ?このいびきの持ち主は……」

 するとグレスもいびきで起こされたのか耳を押さえながらこちらを見ていた。


 グレスは物凄く機嫌の悪い顔でいびきの正体に指を刺していた。


 指を刺していた方向を見るとそこにはソフィアがいた。

「あぁ、こいつ見た目とは裏腹にいびきをかくのか……それもとびっきりうるさいやつ」


 ソフィアは昼間のチワワのような可愛らしいお顔ではなくブルドックが舌を出しながヨダレを流し白目をむいているような顔で寝ていた。


 こ、これは……グロテクスだな。

 さすがにギャップ萌えとかいうレベルではない。


 どうにかしてこいつのいびきを黙らせなければ……。

 俺は考えた。考えたけど何も答えは浮かばなかった。


 グレスは耐えきれないのかムクっと立ち上がり剣でソフィアの首を斬ろうとした。


「ダメ!ダメ!絶対にダメ!」

 あれは必死でグレスを止めた。


「では、スカイ様がどうにかしてください」

 グレスは止められたことを不満にしながら再び耳を押さえながら横になった。


 とりあえず起きてもらうか……。

「ソフィア、起きろ」だが、ソフィアは起きない。


「ソフィア起きろって!」俺はソフィアの肩を揺らした。


 ムクっと起きたソフィアは完全に寝ぼけている顔をしていた。


「よかった、ソフィア。いびきがうるさいから静かにしてくれないか?」俺はソフィアに注意した。


 これで静かに眠れると思ったのが甘かった。

 寝ぼけたソフィアは俺の顔に重たい一撃を入れてきた。


「痛い!」

 こいつ、寝ぼけながら殴ってきやがった!しかも結構強めに!


「おい、うるさいぞ。寝れないだろ」

 寝ぼけながら俺にそう言うソフィア。


 いや、寝れないのはこちらなんですけど……。

 グレスはいつの間にか寝てるし、ソフィアは寝ぼけながら俺に起こってるし……。


 もうどうでもいいや。男の俺が我慢すれば全て解決するんでしょ。男の子はいつだって辛いんだ……。


「ごめん、静かにするから静かにしてくれ」

 俺も悔しくてよくわからないこと言ってるよ。


「鼻毛を抜くと次の日風邪を引きますわよ」

 意味の分からないことを言い出してソフィアは再び深い眠りに入りいびきをかきだした。


「グォー、グォー」それにしても強烈ないびきだな。

 俺は諦めて目を閉じて耳を押さえながら朝が来るのを待った。


 チュンチュン小鳥の囀りで目が覚めた。

 素晴らしい希望の朝がきた!わけではない……。


 結局あの後俺はしばらくいびきで寝れなくていつ寝落ちしたのかもわからないまま朝を迎えた。


「あー、眠い」全然寝た気がしない。

 ふぁーっと大きなあくびが止まらない。


「もう少し寝ちゃダメ?」

 俺はグレスに可愛くお願いした。


「すでに1日遅れてますからね。スカイ様には1日でも1秒でも早くこの国を良くしてもらわないといけないので」


 冷たいなー、少しくらいいいじゃん。


 君たちはしっかり寝れたかもしれないけど俺、他人のいびきで寝れないタイプなのよ。ていうかあのうるさい中でグレスも良く寝れたと思うよ……。


 ソフィアは心配そうに俺を見つめた。

「スカイさんしっかり寝なきゃダメですよ。寝なきゃ疲れが取れません!あと、睡眠不足はお肌にも悪いですよ」


「す、すまない。寝つきが悪くてね……」

 お前のせいだろがい!こいつ男だったらボッコボコにしてやるのに。


「では早速ですが出発しましょう」

 グレスは愛馬に乗るとソフィアに手を差し出した。


「どうぞ、乗ってください」


「私も乗って良いのですか?」

 ソフィアは驚いた顔をした。


「さすがに人の足じゃ馬に敵わない。案内してくれるんだし乗った方が効率が良いと思います」


 ソフィアはその言葉を聞くと嬉しそうにした。

「わ、私お馬さんに乗るの初めてなんです!嬉しいな!」


 お馬さんって言い方するんだ……。俺はちょっとだけ引いた。


「よし、バッハ今日もよろしく頼むな」

 俺はバッハに乗ろうとしたがいつものようにうまく乗れない。というよりもバッハが俺が乗ろうとするとすかさず横へ移動している。


「バッハ、どうしたんだ?調子悪いのか?」

 再度チャレンジしようとすると明らかに嫌がっている。


「お前が乗せてくれないと俺走ることになっちゃうじゃん!」俺はしつこくバッハに乗ろうとした。


 バッハは明らかに俺が乗るのを拒んでいる。

 俺、何か悪いことしたか?ご飯だってちゃんとあげてるし……。


 ふと思い出す昨日の出来事……。

「あ、俺山賊に殺されそうになった時、バッハ見捨てようとしてたわ」


 それでこんなに怒ってるのか……。

 てか、言葉とか聞き取れるのか?とりあえず謝ったら許してくれるのか?


「バッハ、ごめんよ。お願いだから許して」

 俺はバッハにスリスリしながら謝った。


 しかし、バッハはそっぽ向くと俺にお尻を向け強烈な蹴りを入れてきた。


「痛い!」という言葉が出たが普通に身体が吹き飛んだかと思うくらい痛かった。いや、恐らく一瞬頭と体が離れたんじゃないかな?っていうくらい痛かった。


 グレスは呆れた顔をした。

「もう乗れないなら走るかロープで結んで引きずってもらうしかないですね」


 おいおい冗談でしょ。一応俺貴族っていう設定だよね?

 もうちょっと丁寧に扱って欲しいな。特別扱いしろとかいうわけではないよ。ただ、もう少しだけほんの少しだけ優しくというか大切に扱ってほしいな。


 そんなことをお構いなしにグレスとソフィアは俺とバッハをロープで結んだ。


「それでは行きましょう」

 グレスは愛馬を走らせた。


 それでは行きましょうじゃないよ!

 このままだと葡萄畑に着く頃には俺の体は葡萄の皮みたいにすり減って薄くなってるわ!


「待て待て待て!」

 俺の言葉は届かなかった……。


 勢いよく走り出すバッハ。

 なんか、ステップしながら走っちゃっていつもよりも楽しそうじゃん。


 そうしてロープがピンと張った。

「さようならパパ、ママ」


 俺は勢いよく引きずられた。

「あぱらたざなたかばなだらがぷあまはふ」もう言葉になんてならない。だって引きずられているんだもん。


 俺はとりあえず引きずられた。

 それを見て笑うバッハ。お前いつか絶対馬刺しにしてやる。


 これほど人間以外の動物を憎むことは二度とないだろうというくらい怒りと憎しみが込み上げた。


 しばらく引きずらると大きな3つの別れ道が見えてきた。


 グレスは馬を止めた。「ソフィア、どの道に進めば良い?」 


「少々お待ちを」

 ソフィアは目を閉じて鼻に全神経を集中させてクンクンした。


 ソフィアがクンクンしている間に俺はグレスに可愛い顔をしてお願いをした。


「グレス、助けてもう引きずられたくない」

 恐らく俺の顔はボッコボコになっていた。


 グレスは俺の顔を見て若干引いていたのだろう。目がピクピクと動いていた。


 だが、グレスはバッハの元へ行くと撫でながらお願いをしてくれた。


「バッハ、何があったか知らないがもうご主人を許してあげだらどうです?」


 バッハは馬なのにしゃーないなみたいな顔をしたのが俺には分かった。


 だけど、乗せてもらえなければ再び引きずられる。

 込み上げる怒りを抑え込んだ。


「ありがとうございます」

 俺はやっとバッハになることができた。


 するとクンクンしていたソフィアが声を出した。

「左です!こっちの道からブドウの良い匂いがします!」


「では左の道を進みましょう」


 それからブドウ畑まで幾つもの困難が待ち受けていた……。


 森の凶暴な獣の群れが襲いかかってきてはグレスが倒し、道に大きな岩や木が立ち塞がっていればグレスが破壊し、今度は大きく凶暴な獣が襲いかかってきたがグレスが倒し、3人と2頭がお腹が空いたらグレスとソフィアが動物を狩り山菜を採りそれをみんなで食べた。


 どうにか俺たちは三人の力を合わせソフィアの鼻を頼りにブドウ畑を目指し進んでいた。


 すると道の先に光が見えた。


「つ、着きました!ここがブドウ畑です!」

 ソフィアの言う通り辺り一面にブドウの実がなっていた。


「や、やった。森を抜け出せた……」

 俺は嬉しさのあまり脱力感を覚えた。実際、バッハに乗ってただけだけど……。


「それでは村を探しましょう。城まではまだかかるのでこれ以上進むと夜になってしまいます。馬たちの体力も考えるとそれが妥当だと思います」


 グレスの言う通りだ。森を抜け出したのは良いがバッハたちの体力や夜に行動するのもどうかと思う。


「そうだね。村を探して休ませてもらうとしよう」


 俺はそう言うと道案内をしてくれたソフィアにお礼を言った。

「ソフィア、ここまでありがとう。おかげで森を抜け出せたよ。元気でね」


「……」ソフィアは黙っていた。


「ソフィア?」


「私もお供させてください」

 ソフィアの言葉に耳を疑った。


「え?」


「私は根暗で人見知りで両親以外誰とも関わってこなかったです。ですが、この森であなたたちと出会いたくさんお話ししていると少しだけ人と関わるのも良いことだなって思いました」


 確かに、人見知りだの根暗だの言ってたけど結構喋ってたよなこいつ。


「だから、これからも一緒にいたいです。一人で寂しく生きるよりもみなさんといたいです!」

 ソフィアは精一杯勇気を振り絞ったのだろう、手が震えていた。


 グレスは真剣な顔をした。

「ソフィアさん、私たちはこの国を帰るために城に行きます。ですので……」


 俺はグレスを止めた。恐らく一緒に来るのを止めようとしたのだろう。


 俺の心は決まっていた。女の子一人幸せにできないやつがこの国の人々を幸せにできるはずがない。


「ソフィア、ぜひ一緒に来てくれ」


 その言葉にソフィアは涙を流した。

「ありがとうございます!私、みなさんの力になるようにそしてもっと仲良くなれるように頑張ります!」


 グレスは心配そうに俺を見た。「いいのですか?一緒に連れて行ってしまって」


「いいんだ。一人より二人、二人より三人でいた方が楽しいし心強いじゃないか」


「そんなもんなんですかね?とりあえずブドウ畑を進みましょう」


 そうして俺たちはブドウ畑を進んだ。


 すると遠くから何かが聞こえてきた。

「ごらぁ!」誰かが怒鳴りながら物凄い勢いで近づいてくる。


「お前たち!果物泥棒だな!覚悟せい!」

 元気が良い爺さんが俺たちに鍬を構えてきた。


 確かに見知らぬ人が畑にいたら泥棒だと思うのも無理はない。


「すみません。僕たち泥棒じゃなくて……」

 俺は弁明したが爺さんは完全に頭に血が昇っていたのか話を聞いていなかった。


「ええい!うるさいうるさいうるさい!畑にいるんだから泥棒に決まっておろう!」

 爺さんは怒りにまかして鍬を振り下ろしてきた。


「危な!お爺さん落ち着いて!」


 無我夢中で鍬を振り回すお爺さん。

 もう人の話なんて耳に入ってなかった。


 どうにかして止めないと!

「何か、何か策はないのか?このお爺さんを宥める良い策は無いのか!!」

 あーでもないこーでもないと俺が考えているうちにグレスはあっという間にお爺さんの鍬を吹き飛ばした。


「お爺さん、話を聞いてください」

 さすがグレス、どんな状況も冷静に対処している。


 お爺さんは鍬を吹き飛ばされた勢いで尻餅をついた。

「こ、これ以上ワシらから何を奪うのじゃ……」


 ボソッと聞こえたお爺さんの悲しい声に俺は反応した。

「どうかされたのですか?」


 お爺さんは俺を見るとハッと驚いた。

「あ、あなたは王様の側近スカイ様!」すかさず頭を下げる。


 お爺さんは体が震えていた。

「スカイ様、亡くなられたとお聞きしましたが生きておられたのですね」


 やっぱりここでも俺死んだ噂は流れていたんだな。

 正直、毎回毎回説明するのがめんどくさいんだよな。


「そ、そうなんですよ僕も死んだかと思ったんですけどね、無事でした!」

 空気を明るくしようとした俺だが余計にお爺さんを不安にさせたせいで暗くなった。

 

「そ、それよりも頭を上げてくださいお爺さん、先ほどの言葉の意味を教えてください」俺はお爺さんに優しく話しかけた。


 お爺さんは顔を上げた。

「王様の命令で納めなければいけない果物が増え、村の食料と売るための果物が少なくなりました。そのせいで食べ物を満足に食べれず死人も出ています」


 やはりこのお爺さんの村も王様に苦しめられているんだ。


「このブドウ畑を作ったことを王様に黙っていたことは謝ります。しかしこのブドウ畑はようやく実がなったのです。どうか、どうかお見逃しください」


 お爺さんは土下座をして俺にお願いをした。

 可哀想すぎる……。死ぬ思をしながら自分たちで育てた大切なブドウを取られる悔しさは俺には分からない。


 俺が言えることは……。

「お爺さん、今の俺にはあなたたちからこの大切なブドウを奪うつもりはありません。」


 お爺さんは顔を上げるととても驚いた顔をしていた。

「ほ、本当ですか?」


「むしろ、この国の人々を幸せにしたいと思っています」


 俺の真剣な目を見てお爺さんは涙を流した。

「嘘でもありがたいお言葉……」


 俺は良いアイデアが思いついた。

「そうだ、早速ですが村の人たちと話し合いの場を設けさせてください。その場でみなさんが困っていることを言ってください」


 お爺さんは俺を見て信じてくれたのだろうか。

「で、でしたらまずは私たちの村、フルーティ村へ案内いたします。どうぞこちらへ」


 そうしてお爺さんに案内され俺たち三人と二頭はフルーティ村へと入って行った。

 

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