第五話 転生先のヒロイン候補は不思議な力があるようです

――その頃天界では……。


「ゴグッゴグッ、ぷはぁー。つまみが美味いと酒も美味い!閻魔の人選は当たりだったな!」満足そうにニコニコする神様。

 

「こいつ18にもなってうんこ漏らしたのは傑作だったぞ!」腹を抱え大笑いする性格の悪い神様。


「や、やめえてやれ!さすがに笑うと可哀想になる!」と言いながら笑う閻魔大王。


「子供にいじめられるわ、殺されかけるわ、うんこ漏らすわとなかなか見どころ満載の転生だ!」見守ってると言っていたのにめちゃくちゃ酒のつまみにされている空。


「とりあえず、しばらくはこいつが良い酒のつまみになりそうだ。感謝してるぞ閻魔」嬉しそうに感謝する神様。


「なぁ神よ。空は本当に世の中の人々を幸せにできると思うか?」グラスを回しながら質問する閻魔。


 神様は笑うのをやめ、しゃっくりをしながら返した。

「さぁな。正直、どっちに転んでも関係はない。この人間は生き返るための転生先の奴らは苦しみから解放されるチャンスを掴んだ。私たちは奴らを見て楽しむwin-winの関係だろう」


「全く、お前は昔から恐ろしい奴だ……」


――――


 そして次の日……。

 昨晩、俺は寝る前に大きい方を漏らしたことに気付き、きちんとお尻を水で洗ってベットに入った。


 もちろん、誰にも気付かれないように慎重に証拠隠滅してやりました。


 俺がこの村を出ることを知ったサブローは兄弟を連れて俺の宿にやって来て一緒に寝ることになった。


 どうやらサブローは俺に懐いたらしい。

 あんなに生意気だったのに今では実の弟のように可愛く見える。


 何より驚いたのがサブローは村長の孫で5人兄弟らしく上からタロー、ジロー、サブロー、シロー、ゴローと何とも昭和チックな名前をつけられたらしい。


 つまり昨日のサブローたちが見たと言うアブノーマルなプレイをしていたのは村長だったのだ。もう、村長の目を見て喋れない……。


 ベットではサブローが何度も話しかけて来た。


「おっちゃん、俺いつかグレス姉ちゃんみたいに強くなるんだ!」


「そうか、サブローならできるよ」

 きっとグレスみたいに強くなってこの村の力になりたいんだろう。良い目標だ。

 

「そして、大きな街で女にモテたいんだ!」

ガキのくせに下心満載だな。子供らしく強くなって世界を救いたいとか言えよ。


 すると他の兄弟も順に将来の目標を語り出した。


「俺は村長を引き継いでこの村を大きくする!」

「僕は他の国へ行ってそこの文化を村に持って帰る!」

「僕は……僕はよく分かんないけど楽しく生きたい!」

「へーしになりたい」


 この子供達の将来のためにも俺が何とかしないといけないな。もちろん生き返ることも大事だけどここで出会ったこいつらを見捨てるわけにはいかない。


 俺は俺を馬鹿にする神様なんかよりもこの子供達に強く誓った。「俺がみんなを幸せにするから」


「おっさん、もう寝ろ。明日は早いんだろ」

 物凄く感動的なシーンなのに空気の読めないサブロー。


 何で18の俺がクソガキに心配されてるんだ。遅くまで起きて怒られるのはお前らガキだっての!


 だけど、こいつに命を救われたんだ本当に憎めないガキだな。


「おやすみ子供達」

 そうして俺は深い眠りについて朝を迎えた。


 酢の匂いがして目が覚めた。

 目の前には子供の足。匂いの原因は5兄弟の誰かの足だった。


「臭!」俺は足を払い吐き気を催した。

 昔親に連れて行ってもらった中華料理屋の酢の匂いがした。


「おはよう、おっさん」サブローが眠たそうにあくびをしている。俺がえずいているせいで起こしてしまったようだ。


「おはようサブロー」

 本当に寝起きの姿は子供らしくて可愛い。


 タイミングよくグレスがやって来た。

「起きられていましたか、朝食はどうなさいますか?」


「もう少ししたら頂こうかな」

 俺は外に出て陽の光を浴び背伸びをした。


 俺の異世界ライフ2日目が始まった。


 宿では再び一人では食べきれない量の食事が運ばれて来た。


「僕にはこの様な対応をやめて欲しいのですが……」


 グレスは唖然としている俺を見て笑った。

「違いますよ。子供達がどうしてもスカイ様とお食事したいとうるさくて」


 そうだったんだ。本当に可愛いクソガキ達め。

 そうして食事を囲む俺と子供達。


 サブローが少し寂しそうに口を開いた。

 「おっちゃん、すぐ出て行くのか?」

 

 「そうだな、朝食を済ましたらすぐに城に向かおうと思っているよ」

 

「そうか……」

 すると子供達みんなの手が止まった。

 俺は何とか空気を明るくしようとした。


「暗くなるな!またすぐに遊びにくるから!」

 とにかく明るく全力で白い歯を見せ子供達に笑顔を向けた。


「その顔はキモい」

 サブローはどんな空気でも平気で貶してくる……。

 だけど、今の顔を自分で見ても気持ち悪いと思ってしまうかもしれない。


「おっちゃん、約束だよ。またすぐに遊びにこいよ、相手にしてやるからさ」

 どの口が言っているんだ。遊んでやるのは俺のほうだけどな。


「あぁ、約束だ」

 俺はサブローに拳を出した。


 サブローは不思議そうにしていた。

「おっちゃん何してんの?」


「拳と拳を合わせるんだ。男同士の約束の時にこれやると格好いいだろ?」


「なるほどな!」

 サブローは拳を作り俺の拳に合わせた。

 

「俺も!」「私も!」「僕も!」

 子供達が自分たちも拳を合わせたいと俺に押し寄せて来た。


「順番!順番!きちんと全員やってやるから!」

 この子供達との約束をそして笑顔を守らなければ……。


 そうして朝食を食べ終えた俺はついにサブローたちと別れの時が来た。


「村長、グレス、サブローそしてみなさんありがとうございます。みなさんが幸せに暮らせるように必ずこの国を変えます」


 村長は俺の前に来ると静かに口を開いた。

「スカイ様、ワシらは貴方を信じてはいません。なのでいくつか条件を決めてよろしいでしょうか」


 俺はすぐに村長の言ったことを理解できた。

 それはそうだよな。信用していない男をそのまま城に返したらもしかしたらやられたら腹いせで村を襲いにくるかもしれないし、俺が約束を守る保証は一切ないのだから。


 あ、そういえばこの真剣な顔をして条件を提示してこようとしている人、変な性癖があるんだった。

 だけど性癖を悪く言うことは俺はしないよ!

 俺だって、どっちかっていうとM寄りだし……。


 俺はちょっとだけ笑いを堪えて少し目を逸らした。

「分かりました。条件を言ってください」


「では……」

 村長が出した条件は単純だった。

 グレスを約束を果たすまで俺の側に置いておくこと。

 もし俺がここの村人を裏切る行為をした時はグレスがすぐには俺を殺すとのこと。


 もちろん、俺は断ることしなかった。何度も感じた人々を救いたいと言う気持ち。もしこの人たちを裏切ればそれは俺自身も裏切ることになる。

 

 そんなことは俺の性格上ありえない。

「分かりました。それで私を生かしてくれるのであればその条件喜んでお受けします」

 

 村長は優しい顔を俺に向けた。

「条件を呑んでくださったお礼にグレスをスカイ様の護衛として扱ってください」


 まさか、きつね顔の美少女が俺の側で監視役兼護衛をしてくれるなんて……異世界最高!


「では、グレス頼んだよ」

「はい、村長。行ってきます」


 俺はバッハに跨りグレスに手を差し伸べた。

「よし行こう。1秒でも早く約束を果たすために!」


「あ、私自分の馬いるんで大丈夫です」

 俺は澄ました顔で差し伸べたてを静かに戻した。


 あ、そーなんだ。そういうことは早く言ってくれよ物凄く恥ずかしい思いをしたんですけど。


 そして追い打ちをかけるように村人の失笑が響く。


 心の中では泣いているよ。

 みなさん、僕澄ましているけど平気な顔を一生懸命作ってるけど物凄く泣いてるよ。


 グレスは芦毛の馬を連れて来た。

「では今度こそ本当に行きましょうか」グレスの言葉と共に村を去った。

 

 そういえばサブローたちの姿が見えなかったな……。

 そりゃすぐに遊びに戻ってくる約束したけど何だかおじさん寂しくなるよ……。


 そう思いながらグレスの後をついて行くと流れが緩い綺麗な川が見えて来た。


 この村の近くにこんな綺麗な川があったんだな。次来た時はサブローたちとこの川で一緒に遊ぼう。


 すると川岸に子供の姿が見えた。

 その子供はサブローたちだった。「おーい」とこちらに手を振る子供達。


 どこかで見た青春ドラマのワンシーンのような光景。

 お前たち……1日の付き合いだったけど最後まで泣かせてくれるじゃねぇか。


「おっちゃん!また遊びにこいよ!いつでも待ってるから!」サブローは背伸びをしながら一生懸命手を振っていた。


 俺もみんなに伝わるように大きく手を振った。

「みんな元気でな!また会おう!」


 グレスは少し優しい笑顔でこちらを見た。

「本当に子供たちから好かれているんですね」


「ありがたいことにね。サブローのおかげでこうやって生きているわけだし。本当に感謝しかないよ」


 本当にありがとうクソガキども。お前たちがいなければ俺の異世界での物語はすぐに終わっていた……。


 子供達と別れた後、俺とグレスは大きく不気味な森に入った。

「また森か……。でも今回はこっちの世界に住んでるグレスもいる迷子になることはないだろう」


 グレスは迷うことなく愛馬を走らせ森を駆け抜ける。

「さすがグレス、馬を扱う背中が頼もしい」


 周囲を見渡す姿と左右に曲がる時に俺に指示する彼女を見ていると俺の見張り役とはいえ、ついて来てくれて本当に良かったと心から思う。


 しかしすごいなこの森、木の根っこがうにゃうにゃと地面から飛び出し周りを見渡しても木しか見えない。


 俺一人だったらきっと野垂れ死んでいただろう。


 村を出発して馬を休ませながら走りかれこれ3時間以上経ったのだろうか。


 グレスは再び馬を休ませるために止まった。

「ここで休憩しよう」


 俺とグレスは馬から降り水を与えた。


「グレス、今森のどの辺なんだ?」

 森の地理が全く分からない俺は安心するためにも現在地がどこか聞いた。


「……」グレスは口を開かずに座り込んだ。

 さすがに16歳の女の子だ。休憩があったとはいえ馬に乗り続けるのは体力的にきつかったのかもしれない。


「大丈夫かい?グレス、無理はしないで」俺は優しく声をかけた。


 女の子に無理をさせる男はクズだ!

 女の子は生卵のように優しくそして丁寧にしてあげるのが紳士たる者!


 すると下を向いていたグレスは衝撃の一言を放った。

「すみませんスカイ様、道に迷いました……」


「ま、まじ?」俺は震えていた。

「まじです」俺の期待していた答えは返ってこなかった。


 うーん、またもやピンチ。

 下を向いていたのは疲れていたのではなく、落ち込んでいたのか。

 

 今回の迷子はまずい。

 この小学生が何時間もかけてノートに書いてる迷路よりも複雑な森をガイド付きなのに迷子になってしまった。


 終わった……今度こそ。

 

「とりあえず野宿できそうな場所を探しましょう」

 グレスはこんな状況でも冷静だった。


 そうだ、真っ直ぐ走っていればいつかこの森を抜けれるはず。陽が落ちる前に火をつけたり食料を探したりすればとりあえずすぐには死なない。


 俺とグレスは再び馬を走らせ野宿できそうな場所を探した。


 空が赤く染まりそうになった頃。

「ここが良さそうです」開けた場所を見つけたグレス。

 まだ16歳の女の子なのに本当にしっかりしている。


「とりあえず火を起こそう。俺がやる!」

 ここまで見せ場のない俺は意気込んで火をつけようとした。


 こっちに来て最初に迷子になっと時に火を起こしている俺にとってグレスに男らしいところを見せる絶好のチャンスだ。


 俺は適当な木と枯れ葉、そして木の枝を集めた、

「グラス見ていろよ!」俺は気合を入れて穴を開けた木に木の棒を擦り付けた。


 グレスは呆れた顔をしていた。

「効率が悪いですね」


 グレスは「ふぅ」っと俺が持ってきた木に息をかけると口から火が出てそのまま木を燃やした。


「く、口から火!」

 俺は驚いたがマジシャンがよくやるやつだ、口に仕掛けでもしていたんだろうと思った。


「グレス、口に何を隠してたんだ?」俺は問い詰めた。


「何も隠してませんよ。私は昔からこのような不思議な力が使えるんです」平然と答えるグレス。嘘をつくような顔をしていない。


「え?」何を言っているのか分からなかった。


「なので、幼い頃から不思議な力を使えたのです。村長にはこの力を隠しなさいと言われたんですけどスカイ様ならいつでも殺せるので見せてもいいかと思いまして」


 ちょっと聞き捨てならない言葉もあったけどやっぱり異世界ってそういうのあるんだな。


 でも、16歳の女の子がこんなに強くて逞しいのか少し分かった気がする。


 そして、もしこの娘が奥さんになったら旦那さんは必ず尻に轢かれるのであろう。絶対怒らしたら丸焦げにさせられる。


 けど、グレスはどんな人と結ばれるのか気にはなる。

 だって俺がこっちの世界で一番お世話にっている人だから、絶対に良い人と結ばれてほしい。


 なぜか親心になる俺。自分でも気持ち悪いと思った。


 グレスは火を吹いた後、ヨダレが垂れておりそれを拭きながら俺を睨んだ。


 あ、なんかエッチいな。

 ……きもいな俺、日本なら確実に変態扱いでドン引きされる。


「この事は誰にも言わないでください。もし誰かに話をしたらあなたの首を切りますから」


「はい」

 返事したけどそんなに言って欲しくないなら最初からやるなよ……。俺だってうっかり口を滑らせてしまうかもしれないんだよ。


 火をつけ終わったグレスは俺に背を向けた。

「では、食料を探しに行って来ます。スカイ様はここでお待ちください。何かあれば大声で叫んでください」


 そう言ってグレスは森へ消えた。

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