第四話 転生先のヒロインに殺されかけました
宿で休んでる俺にしばらくしてグレスが食事を運んできた。
「スカイ様、食事の用意ができました」
美味しそうな肉料理が目の前に置かれる。
だけど、この量は一人前じゃない。いくらなんでも量が多すぎる。宴でもするのか?
「あの、この量はいくら何でも多いのでは?」
グレスは不思議そうな顔をして「王様の命令で王様やその側近の方々をもてなす時はありったけの食事を用意するようにと……」
とんでもない王様だ……。
「みんなで食べましょうよ」俺はグレスに提案した。
「それはできません。貴族のお食事を頂くなど平民の私共にとって神様を貶すような行い……」
大丈夫、神様以外とアホだから。お酒飲んじゃうし人の人生をつまみにするくらい最低な人だし。むしろ貶していいと思う俺が許す。
だけど宿の周りには村の子供達がヨダレを垂らしながら俺を見ていた。
「きっと、羨ましいんだろうな。なかなか肉とかにもあまりありつけないのだろう」
俺は子供達においでと宿の中に入るように呼んだ。
子供達は嬉しそうにやってきて肉料理を間近で見つめた。
「みんな食べなさい。遠慮はいらないよ」俺は優しくそう子供達に言った。
グレスは直ぐに「すみません!このようなご無礼を!もし毒味をしろというなら私が!」と申し訳なさそうにしていた。
「いや、どう考えてもこの量は1人では食べれないよ。それに1人よりもみんなで食べた方が美味しいからね!」
子供達は無我夢中で肉にかぶりついていた。
さっきまで俺をイジメていたことを無かったかのようにひたすらと……。
相当お腹を空かせていたのだろう。目の前に沢山あった肉はあっという間に子供達のお腹の中へと消えていった。
あ、俺の分……。まぁ、子供の幸せそうな顔を見れただけで充分だ。
人のために何かをするのってこんなにも気持ちが良いものなんだな。この世界に転生されなければ気付かなかったかもしれない……。
グゥーと俺の腹がまた鳴り出した。その音を聞いたグレスは「すみません、直ぐに代わりになる食材を探してきます!」と頭を下げた。
するとサブローが「おっさん、これやるよ」と隠していた肉を渡してきた。
俺は感動したが大人の対応で「サブローくんが食べていいよ」と格好つけた。
サブローは「無理すんなおっさん、お腹空いてるだろう」と肉を俺の前に置いた。
相変わらず口が悪いクソガキめ、おっさんじゃなくてお兄さんな!だけど……分け合う心、何て素晴らしいのだろう。そうだ、この肉をさらに分けよう。
「グレスも食べるかい?」と肉をナイフで2つにして片方を渡した。
「いや、私は……」と拒んでいたが「女の子なんだから男に甘えていいんだよ。男は女性を守るために存在するのだから」
「で、ではありがたく頂戴いたします」明かりのせいか少し顔が赤くなったような気がした。
みんなで分け合った肉は小さくなったが俺にとって物凄く美味しく感じた。
「それではごゆっくりとお休みください」食事を終えグレスは宿を去っていった。
何だろう、充実したようなしてないような1日……。
初めて山に生えてる草を食べて獣に襲われ女の子に助けられ子供にイジメられ……。
俺がもし、死ななかったら絶対に起こることがなかったんだよな。それにしてもグレス可愛いすぎんだろ。
あの明かりに灯された顔は最高だったな。
ダメダメ、俺の使命は人々を王様から救うこと!そして絶対に生き返ってやる!
そんなことを考えていると眠くなってきた。
俺はベットで横になり目を閉じたらいつの間にか眠りについていた。
……ギュルギュルギュル。
あれ、大きいのがしたい。というか物凄く腹が痛い。
これは……お腹を壊してしまった。
きっと今朝の草のせいだろう。俺は勢いよくベットから起きた。
するとゴツン!と額に何かが当たり一瞬意識が飛びかけた。「痛い!な、なんだ?」俺は暗闇に目を凝らした。
「いたた……」目の前にはグレスがいた。もしかして俺に抱かれにきたのか?そんな期待を胸に部屋の明かりをつける俺……。
やはり、現実は甘くなかった。
グレスは大きなナイフを持っており恐らく……いや確実に俺を殺しにやってきていた。
俺だって男だもんベットの上に女の子がいたらそういうことだと一瞬思っちゃうじゃん。
一応、18歳よ?そういう時期じゃん?絶対他の男が同じ状況でもそうだと思う勘違いするって。
俺はすぐにグレスから離れた。
「な、何してるんですか?グレス?」
少しキツく俺を睨むグレス。
やめて、その顔も可愛く見えちゃう。
「貴方を殺しにきました」
うん、でしょうね。ナイフ持って俺を睨んでるんだもん。
とりあえず予想はできるけど理由を聞いておこう……。
「何故ですか?」
「私たちは王様に苦しめられています。そして貴族が裕福になればなるほど私たちは貧しくなってきました。だからその恨みを晴らすため貴方を殺します」
相当苦しい思いをしたのだろう。
グレスの顔を見れば分かる。先ほどとは違い可愛い女の子の顔が台無しになるほどキツく睨んでいる。
とりあえず俺の意見を聞いてもらわないと。
「グレス聞いてほしい。俺はこの世の中を変えたいんだ」
そんなことグレスには届かなかった。
「信用できません。今まで散々私たちを苦しめてきたのにここまできて嘘をつくとは男らしくないですよ」
やっぱり悪名高い王様の側近とだけあって信用なんてされないか……。
「それでは死んで罪を償ってください」
グレスは俺にナイフを向け突っ込んできた。
「あぶな!」俺はかろうじて避け外に逃げた。
そこには大勢の村の大人達が俺が逃げないように待ち構えていた。
あ、終わった。神様どうやら俺の転生した人生終わったようです。すみません、酒のつまみになるような物語じゃなくて。
俺は大の字で木の棒に縛られ地面に仰向けの状態で置かれた。
最後の抵抗を……。
「グレス、村の皆さん聞いてください。俺は生まれ変わったんです。このプレザント国を変えたいんだ!」
一瞬ザワつく村人たち。
だが、すぐにみんな我に帰り
「嘘つくな!貴族ども!」
「お前は死んで当然だ!」
「二度とその口開かないようにしてやれ!」
やはり話は通じないか……。
少しずつ近づいてくるグレス。
もうダメだ。どうせ一度死んだ身、ここで死んでも変わらない。
どうせ転生しましたって言ってもそんな非現実的なこと嘘としか思われないし村人を刺激するだけだろうし。
あぁ、生き返るという希望は1日とちょっとで無くなってしまった。「情けないな……」俺はチャンスを無駄にしたことを悔やんだ。
総理大臣になってチヤホヤされたかったな……。
死を受け入れ緊張が解けると急に腹を壊していたのを身体が思い出した。
ギャルギュル……。「あ、なんか漏れそう」やばい我慢できない。さすがに死ぬけど漏らしたら格好悪いよな。
いや、だけど我慢できない、縛られて身動きできないしどうしよう。とりあえずお腹が痛いからガスを抜こう。
俺はお尻の穴に絶妙な力を入れ村人に聞こえないようにプスゥーっと透かしっ屁をした。
だが、透かしっ屁をしてる最中にグレスがナイフを首元に近づけてくると体に力が入ってしまいお尻の穴の力加減を間違えブリっと少し身が出てしまった。
殺される前に漏らすなんて情けない……。
日本で生きていた俺なんか絶対にやらない失態。恥ずかしいを通り越してもうプライドなんてありません。
俺は覚悟を決めて目を閉じた……。
「私たちの恨み!」とグレスが叫んだ。
だか、そこに俺の救世主が現れた!
その救世手は……。
俺をいじめていたクソ生意気なクソガキのサブローだった。
「みんな……何してるの?」サブローは目を擦り眠そうに起きてきたらしい。
村長は慌てて「サブローお家へ入りなさい」と言ったがサブローはそれを拒んだ。
「みんな夜遅くまで遊んでるのになんで僕はダメなの?」
いや、お前子供だし。それにこれ遊んでるんじゃなくて俺の公開処刑だよ、今から俺死ぬの……。
「遊びじゃないんだ。いいから家へ戻りなさい!」と村長が怒ったがサブローは俺とグレスを見て理解したようだ。
「そのナイフは獣を殺すときのナイフでしょ?グレス姉ちゃんはおっさんを殺すつもりなの?」
「サブロー、これは……その……」グレスは返答に戸惑っていた。
これはチャンスだ。俺は大きい声で村中に聞こえるように叫んだ。
「みんな聞いてくれ!俺は今までの記憶がないんだ!起きたらこの身体で話を聞いたら王様が人々を苦しめてるって知って……」
村人は俺の話をきちんと聞いていた。
このまま説得できれば!
「だから俺は王様の元へ戻りこの腐った国を正しい方向へ導いてこの国に生きる人々を幸せにしたい!すぐにはできないけど少しづつみんなの笑顔を取り戻したい!」
だけど、村人は俺の言葉なんて信じてくれなかった。
「嘘つけ!まだ下手な命乞いの方が見ていてましだ!」
「今まで苦しめてきてまだ平気で嘘をつくのか!」
「お前らのことなんて信用できるか!」
くそ!失敗か、さすがにもう打つ手は残っていない。
「俺は信じるよ」その一言が村人を黙らせた。
その声はサブローだった。
「俺はおっちゃんを信じる。だってこいつ悪い奴に見えないんだもん!」
「サブロー……」ありがとう、昼間は生意気なクソガキとか思ってごめん。本当はとってもいい子だったんだね。
グレスは俺の首からナイフを離して叫んだ。
「サブロー黙ってろ!子供にはまだ分からないことがたくさんあるんだ!」
「黙らないよ!おっちゃんとまた遊びたいもん!おっちゃんは俺たちが何をしても怒らなかったし遊んでくれたもん!」
「おっちゃんは俺たちを幸せにしてくれる!」
サブローは子供なのに堂々と叫んだ。
「ありがとう本当にありがとうサブロー」
自然と涙が溢れてきた。まさか、子供に泣かされるなんて……。いや、これは男泣きというもの。恥ずかしくなんてない!
グレスは再び俺を睨みつけナイフを向けた。
俺は命乞いではなく最後の賭けにでた。
「俺を信用したくない気持ちは分かる。だけど、俺を生かしてこの国が変わったらみんなの暮らしは良くなる」
俺は真剣な眼差しでグレスを見つめた。
「みんなにとっては可能性の低い話かもしれないけどここで俺を殺しても今の生活は変わらない。だから俺に賭けてほしい」
「信用できない」グレスは震えた口調で俺にそう言った。
やはりダメか……。ここまでよく持ち堪えた。
サブローから貰ったチャンス、生かすことはできなかったけどやることはやった。
しかしグレスは俺の耳を疑う言葉を言った。
「信用はできない。だけどお前に賭けてやる」
そう言うとグレスは俺を解放し始めた。
村人は唖然としていたがすぐにグレスを問い詰めた。
「何してるんだ?こいつの言葉を信用するのか?」
「頭おかしくなったのか?何で俺たちを苦しめている奴らの言葉を信じるんだよ!」
グレスは立ち上がり村人に誓った。
「私はこの男を信用はしていない!だけど、もし……もし僅かな希望でも今の生活から解放されるであれば乗ってみたいと思っただけです」
村長がグレスに近づく
「もしその男が嘘つきだったとき、お前は覚悟しといるのか?」
村長の冷たい声にグレスは臆することなく
「この男と私の命を賭けます」
それでも村人は黙っていなかった。
「そ、そんなこと言ってグレス!お前は貴族の味方になっていざとなったら自分だけ裕福な生活を送るつもりだろう!」
「黙れ!」村長の叫び声が響く。
「ワシらが食糧難を何とか生き延びているのはグレスが森で獣を狩ってくれるからであろう。森で野菜を採ってきてくれるからであろう。こんな小さな女の身体で王様に納める食料とワシらが口にする食料を取って来てくれた彼女に何と言う仕打ちじゃ」
村長は睨みつけるように村人を見回した。
「ワシはこの男ではなくグレスを信用する。意義があるもの?」
村人は尊重の言葉で黙ってしまった。
「では、スカイ様。プレザント国の人々のために必ず世の中を良い方向に導いてください。必ず」
「はい!もちろん!」
この時、俺は大きい方を少し漏らしたことをすっかり忘れてまさか殺されずに生き返れる希望が残ったことを喜び返事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます