第三話 転生先のお世話になる子供が生意気でした
朝がやってきた。
「何か臭い、そして顔が生温い……」俺はそっと目を開けた。目の前には白馬が俺の顔面をペロペロしていた。
「原因はこいつか……抵抗したいけど腹が減って抵抗する力もない」俺は無気力ながらも身体を起こしてぼーっとした。
「何か腹に入れなければ……」グゥーっと腹の音が響く。
だけど、山菜採りとかきのこ狩りとしたことない俺にとって森の中で食料探しなんて出来やしない。
もし間違えて毒キノコなんて食べてしまったらこの話はバッドエンドになってしまう。
そんなことがあればあのバカな神と閻魔は腹を抱えて大笑いするに決まっている……。
「西に進みたいけど白馬も腹を空かせているだろうし、どうすれば」そんな事を考えながら白馬を見ると白馬は草をムシャムシャと食べていた。
「もしかして、その草食べれるのでは?」腹を空かせた俺はとにかく安全な食べ物が腹に入ればなんでもいい、味は二の次だ。
俺は白馬の横に並びその草を摘み口にした。
あぁ、日本で生きていた頃の俺が見ていたらなんで無様な姿なのだろう。あの優等生の俺が森で迷子になり何かよく分からない草を食べているのだから。
そんな事を考えながら草を噛むと「あれ?意外にいけるかも」恐らく俺は腹が減りすぎで味覚がおかしくなっていた。
「うまい!うまい!」俺と白馬は無我夢中でその草を食べた。そして辺り一面草がなくなると俺たちは一旦横になった。
「草でも腹は膨れるんだな」そう思いながら空を見ると綺麗な雲ひとつない青が広がっていた。
「とりあえずこの森から出ないとな。行こうか白馬」そう言いながら俺はあることに気づいた。
「お前、名前とかあるのか?」白馬を見つめ聞いてたが馬からの返答はない。
そりゃそうだ、こいつ馬だもん。言葉なんて喋れるわけがない。
「名前……何にしようかな」
白馬は英語でホワイトホース?んー難しいな。
正直、適当でいいか。こいつが名前を理解しているわけでもないし。
「そういや、音楽室に同じ白い毛の肖像画を見たことあるな……」俺はハッと閃いた。
「お前の名前は今日からバッハだ」こんな感じで適当に名前をつけた俺は「よしバッハ西へ向かうぞ!」と勢いよくバッハの背中に跨った。
あれ?西ってどっちだ?まぁいいやとりあえず森を出ないと始まらない。強い風が森を駆け巡った。
「よし決めた」俺は風が吹く方向へバッハを走らせた。
数時間走り続けると人が開拓したよつな道が見えた。
俺は安堵でいっぱいになり「良かった……これで助かる」そう思い道なりに進もうとした。
すると後ろから何やら唸り声が聞こえた。
恐る恐る後ろを振り向くと数十メートル先にクマのような少し違うような3メートルは超えているであろう大きな獣が現れた。
その獣は俺とバッハを目掛けて勢いよく走ってきた。
「やばい狩られる」そう思った俺は必死にバッハの尻を叩いてひたすらに道を進んで逃げた。
すると森から抜け出し辺り一面草原が広がった。それでも全力で追いかけてくる獣。
「しつこい!俺は人々を王様から救わなければいけないんだ!もう勘弁してくれ!」そう叫ぶ俺の横を誰かが通り過ぎた。
「ん?今、誰かが通り過ぎたような……」
俺はバッハに必死に捕まりながら振り返ると剣を持った人が獣の首を切り落としていた。
「グロ!こういうの初めてだけど結構グロい!」
テレビでライオンとかが野生動物を捕食するシーンは何度か見たけど生で生き物の首を切り落すのは初めてでなかなか気分が良い物ではない。
だが、俺は助けてくれたお礼を言わなければいけないと思い手綱首を上にあげ走るのを止めさせた。
バッハから降りた俺はその人の元へ行くと「あの、ありがとうございます」とお礼を言った。
フードを被ったその人は振り向き様に「礼には及ばん」と言いながら俺の顔を見ると驚いた顔をした。
「あ、貴方は?お亡くなりになられたのでは?」
そうか、この人が驚くのも無理はない。暗殺されたこの身体は王様の側近、国中にその噂は広がるに決まっている。
「えーっと、なんと言えばいいのか……」説明しても理解してくれるのか?
「生き返ったんです。死ぬ寸前で……」とりあえずこれで納得してくれればいいや、そのくらいの気持ちで話した。
その人は一瞬、俺を睨みつけたような顔をしてすぐに笑顔になり「そうですか、それは良かった!本当に……」と言っていたが目が笑っていない。
「この身体の持ち主は本当に恨まれてたんだろうな」改めて王様が人々を苦しめてきたのかが身に染みて感じた。
「スカイ様は何故ここに?」
「王様の元へ帰る予定なんです」
「そうですか……」フードを被った人はしばらく何かを考えて何かを思いついたかのようにニヤついた。
「ここから王様の城へは2日はかかります。今日は私の村でゆっくりして行ってはどうでしょうか?」
「ほ、本当ですか?助かります!」
俺はこの時これでゆっくり出来ると安心したが考えが甘かった……。王様とその側近のスカイという男がどれほど人々から憎まれていたのか知ることになる。
フードを被った人は「少しお待ちください。この獣を捌いてから村へ案内します」すると見事な手捌きで3メートルあった獣の内蔵を取り出し肉と毛皮だけにした。
「す、すごいですね」俺は目を逸らしながらも感心した。
俺よりも少し年下なのだろうか?体も小さいのに逞しい。
「あなたのお名前はなんと言うのですか?」
フードを被った人は「私の名前はグレスと申します」と名前を名乗りながらフードから顔を出した。そこには16くらいの女の子が現れた。
長い金髪と黄色の目できつね顔の可愛らしい女の子。少し目つきがきついのが気にはなるが日本の高校なら間違いなく学校のマドンナと言われるほどの逸材だった。
「可愛い……」思わず本音が漏れた。
グレスは「準備ができました。それでは村へ案内します」と獣の肉と毛皮を担いだ。
「よろしくお願いします」俺とバッハはグレスの後をついて村へ向かった。
しばらく歩くと村が見えた。
木でできた家があちらこちらに建っているが少し寂れた村だった。
すると小さな痩せた子供が近寄ってきて「グレスお姉ちゃんおかえり!」と元気よく近づいてきた。
どの世界でも子供は無邪気で可愛い。
「サブローただいま」ここにきて日本人のような名前……。
いや、俺の聞き間違いかもしれない。この異世界で聴き慣れたような名前が聞けるはずがない。
「この子サブローって言うんですか?」と真実をはっきりさせるために聞き返した。
「はい、サブローと言います。何かありましたか?」
本当にサブローなんだ。なんでこの女の子はヨーロッパ系の名前なのにこの子は日本人寄りの名前なの?
「へ、へぇ。いい名前ですね」それしか返せなかった俺。
そんなこともあり村へ入るとやはり村人の視線が痛い。
「あれって王様の側近スカイ様だよな?」
「死んだんじゃなかったのか?」
「あの噂はデマだったのか」
「チッ」
舌打ちまでされて……。嫌われ者だな。
大きな木の家の前でグレスは止まり「少しお待ちください」と一言俺に言うとその家に入って行った。
しばらく待つと「スカイ様、どうぞ中へ」と家の中へ案内された。家の中にはめちゃくちゃ偉そうなツルツルの頭に長い白い髭の仙人のようなお爺さんが現れた。
「ようこそお越しくださいました」
「いえ、こちらこそお世話になります」俺は頭を下げてお礼を言った。
すると村長は驚いた顔で「貴族様頭を上げてください」と焦っていた。
そうか、一応スカイという男はこの人たちからしたら相当目上の存在なんだ。だけど今のスカイは昔と違い人々の救世主、偉そうになんかしないぞ。
「あぁ、天変地異が起こったのか……」ボソッと聞こえないように村長は喋ったつもりだがきちんと聞こえましたよと。
「で、ではグレス様を宿へ案内しなさい」
「分かりました」
「スカイ様、こちらへどうぞ」グレスについて行くと村一番の綺麗で大きい木の家を案内された。
村の人は寂れた小さい家なのに俺がこんなところに泊まっていいのか?という罪悪感に襲われた。
「あ、あのこんな立派な宿でなくても大丈夫です」申し訳なさそうにグレスにそう言った。
グレスは驚いた顔をして「この宿は貴族様専用の宿でございます。王様の命令で各町や村に建てるようにとおっしゃったのはあなた方です」と少しキレ気味の口調で俺に言った。
「あ、すみません」王様めちゃくちゃだな。これはいつ反乱か起きても仕方ないな。
俺は本当に申し訳ない気持ちでその宿に入った。
「何かあればおっしゃってください」とグレスは一礼し宿を後にした。
広い2階建ての木の家……。自分の家を思い出す。
「あぁ、母さんの飯が食いたいな……」まだ転生してから1日だけしか経っていないが少し寂しくなる。
ふと窓の外を見るとグレスや村人が村長の家の前に集まっていた。しばらく様子を見ていたが何やら険しい顔をしていた。
あまり見るのは良くないかも……。そう思いベッドに横になったがじっとするのもなんだとすぐに起き上がり外に出た。
集会の邪魔にならないようにしないと……。村長の家を避けて村をウロウロしてみると広場で子供達が遊んでいた。
よく見ると子供達の中に先ほどグレスに懐いていたサブローがいた。声をかけてみよう。俺は宿を出てサブローに話しかけた。
「サブローくんだっけ?」笑顔を向ける俺。
子供にはスマイルが大事。俺は悪い大人ではないというアピールだ。
「おっさん、さっきグレスと村に来たやつ?」
そうか、20歳以上は子供にとっておっさんなのだろう。中身は18だけどな!
「そうだよ。サブローくんは何歳なのかな?」
「おっさん、怪しいから教えない」
こいつ、生意気だ。一回泣かしてやろうか。
「そ、そうだよね。いきなりごめんね」俺はあくまで大人だ。子供相手にムキになんてなるもんかい!
心を落ち着かせて怒らない怒らない。
「サブローくん達は何してるの?」
「あ?」おいおいガキとは思えない物凄く険しい顔をしてるぞ。
ダメだ10歳以上は確実に歳の離れている鼻垂れ小僧を今すぐにボコボコにしたい。こいつのおでこがすり減るまで地べたに頭を擦り付けさせたい。
「お、お兄さんもサブローくん達と遊びたいなーって思って……どうかな?」どうせ断るんだろクソガキ。
「いいよ」親指を立てたサブローは悪い顔つきだった。
おっ、意外にも遊んではくれるのか……。
……あ、いや違う!『俺が』遊んでやるんだ。
「お兄さんは何をすればいいのかな?」俺は機嫌を損ねないように恐る恐る聞いた。何で18年生きてきてこんなクソガキに気を遣わなければいけないのか……。
まぁ、子供の遊ぶことと言えば鬼ごっこだのチャンバラだのそういう類のもの。俺は勝手にそう思っていた……。
「とりあえずそこに跪け豚野郎」耳を疑った。
「ごめんねもう一度お願いします」
「そこに跪け豚野郎」
本当に子供か?跪け豚野郎なんて言葉普通に生活してたら出てこないだろう。
「え?」俺は聞き返すとサブローは容赦なく鞭のようなもので叩いてきた。
「おい!跪け豚野郎!」バチンと鞭で叩きながら罵声を浴びせてくる。
さらにサブローが叩くと周りにいた子供達も石ころを投げてきたり木の棒で叩いてきたりとめちゃくちゃだ。
「ほら!なきなぶた野郎!」
「このへんたいやろお!これがいいんでしょ」
「きもじいいか?へんたいじじい」
「うまくなけたらごほおびあげるよ」
いや、良くない良くない誰から教わったセリフだ?
めちゃくちゃアブノーマルじゃん。
「痛い!ちょっとタンマ!」俺はサブローに叩くのをやめてもらった。
「遊んでって言ったのはおっさんじゃん。お前生意気だな」いや、お前が生意気な。それとこれもう遊びじゃなくてイジメだよ。
集団で鞭や木の棒で手加減なく叩いてくるお前らの親の顔が見てみたいわ!
「この遊び誰から教えてもらったんだ?」
ちょっと子供には過激すぎだ。てか、何でこんなこと知ってるんだ?
「じいちゃんが夜中ばあちゃんとおふとんでこの遊びしてた」サブローは決して見てはいけない大人の光景を子供ながら見てしまったようだ。
聞いちゃダメだ聞いちゃダメだ聞いちゃダメだ。
「やめます。この遊び僕は降ります」初めからこの子供達には関わってはいけなかったのかもしれない。
さぁ、宿でゆっくりしよう。
「おじさん、途中で抜けるの無しだよ」サブローは鬼の形相で俺の肩を掴んだ。
いや、だって子供の遊びってもっと可愛いもんだと誰もが思うじゃん。これは遊びじゃないよ、いや遊びと言えば大人の遊びなのか??
「ほらひざまづいて欲しがりなさい」
子供達は止まらなかった。俺に襲いかかる複数人の小さい女王様。
だめだ、もう限界……そろそろ大人の本気見せてやろうと抵抗しようとした俺。
「な、何やってるの?」若干引き気味のグレスが目の前に現れた。
「あ、いや、これは子供達が」俺はこの変態的な遊びを弁明しようとしたがサブロー達にしてやられた。
「このおじさんがしてほしいって」
いや、してほしいじゃなくて遊んでほしいな。言葉足らずで俺が変態に見られちゃう。
「スカイ様、そんなご趣味が……」
「違う!違う!これは子供達が勝手に!」
さすがに転生した体とは言えそんな風に思われたら恥ずかしいったらありゃしない。俺の性癖はノーマルだ!
ま、まぁここだけの話痴女は少し好きだけど……。
「僕たち、こんな遊び知らなかったよ」サブローは目涙を浮かべグレスに訴えた。
そんな愛くるしい顔をしたらもう俺の負けじゃん。
「スカイ様、このことは私たちの秘密にしておきます」
もう、好きにして。もう二度とグレスに弁明はできないな、このクソガキのせいで。
「少し早いですが夕食の準備をします。スカイ様は宿でゆっくりしてください」
「何から何までありがとうございます」
俺は言葉に甘え宿に戻りゆっくりと休んだ。
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