第二話 転生先の俺の方がイケメンで複雑な気持ちです
「うぅ……」俺は胸に少し痛みを感じながら起きた。
「ここが、転生先か?」恐る恐る目を開けるとフカフカなベッドの上で横になっていた。
周りを見渡すと昔の病室?のような部屋。木の壁に木の机、そこには花瓶に花が挿してあった。
「これは?誰だ?」そう思い身体を見てみると胸に包帯がグルグルに巻かれており恐らくこいつも重体だったんだろうと察した。
とりあえず誰かにこの世の中について聞いてみよう。そう思いベットから身体を下ろして部屋を出ようとした。
ドアを開け部屋の外に出る。すると数人の女性が一斉にこちらを見た。
「え?なんで動いてるの?」
「で、でた!ゾンビよ!ゾンビ!」
「し、心臓止まってたのになんで生きてるの?」
「いやー!!」
『悪名高い王様の側近が殺されたんだ』閻魔の野郎の言葉がフラッシュバックした。
そういやこの身体の持ち主はお亡くなりになったんだっけ……。しかもこの包帯の巻き方恐らくこいつも胸にナイフで刺されたのだろう。運命を感じてしまうな……。
「さて、誰かにこの世の中について質問しないと」そう思ってナース服のようなものを着ている女性達に声をかけようとした。
「あの、ここって……」そこまで喋ると年配のナースが前に出てきた。
「こ、これは神のいたずらよ。神よ愚かな私達にお許しを……」そう言いながそこにいた全員が地面に頭を付けだした。
確かにいたずらと言えばいたずらだよな、だってあいつ俺のこれからの人生を酒のつまみにしようとしてたんだもん。
「あ、あの頭を上げてください」そう言うと先程よりも女性達は驚いた。
「い、今なんとおっしゃいましたか?」恐る恐る質問する年配ナース。
「頭を上げてください。聞きたいことがあるんです」そこまで言うと年配ナースは再び頭を地面に付けた。
「やはり、神のいたずら。スカイ様が身分の低い私に頭を上げろなどおっしゃるはずがない!」頭を地面に付けながらそう叫ぶ年配ナース。
だめだ、話が進まない。そう思った俺は少し苛立ち「いいから頭を上げて話を聞いてください!俺は誰でこの世の中はどうなっているんですか?」と声を上げてしまった。
すると年配ナースは恐る恐る顔を上げ「記憶がないのですか?」と聞き返してきた。
あぁ、もう面倒くさい。記憶喪失ということにしておこう。そう思い透かさず「そうなんです。俺は誰でこの世の中はどうなっているのか分からないのです」
すると年配ナースは再び「本当の本当に記憶が無くなったのでございますか?」と念を押して聞いてきた。
「本当の本当に本当です」俺は真剣な顔をしてそう答えた。
「そうですか……」年配ナースは哀れむ顔をして俺を見ながら近づいてきた。
「私は……貴方の……スカイ様のフィアンセですの……」と抜かした事を言ってきやがった。
「は?」俺は真剣な顔でそう返した。
こっちは一刻も早く状況を把握して世の中の秩序を正して人々を幸せにしなきゃいけないんだ。
年配ナースは懲りずに「もう一度だけ言います。私は貴方のフィアンセなんです」恥ずかしそうな顔でこちらを見てくる。
いや、百歩譲って俺が熟女好きだとしてもだらしないお腹で縮毛の頭に厚化粧で唇がタラコのような太さのおばさんをフィアンセとして認めるわけにはいかない。ていうかこの年配ナースも無理があんだろ。
「いや、結構です」自然と口がそう答えた。
年配ナースは諦めきれないのが目に一杯の涙を浮かべながら俺の肩を掴み「何言ってるの?何度も愛し合ったじゃない……」
うるさいな、目をうるうるさせながらこっちを見んな。と思ったが、俺はあくまで紳士的に「すみません。貴女は恐らく私のフィアンセではありません」と断った。
しつこい年配ナースに痺れを切らした他のナースが「ほらおばさん。諦めなって」と年配ナースを引きずり俺から引き剥がした。
やっと解放された……。俺は引き離してくれたナースに「ありがとう」とお礼を言った。
「いえ、スカイ様が嫌がっていたもので……」となぜか顔を赤くしてもじもじと照れ出した。
どうしたんだ?そう思いながらも俺は聞かなければいけない事をその照れ屋のナースに聞いた。
「すまない、俺の名前とこの世の中の情勢を聞いてもよろしいですか?」
照れ屋のナースは少し悲しい表情で話してくれた。
――ここはプレザント王国……。
前プレザント王が数年前に亡くなりその子供が王になってから民の収める税や食料が上がったり、騎士団強化という理由で休ませずに働かせたり優秀な騎士を自分の護衛のために周りに置いたりとやりたい放題になっています。
その結果、前プレザント王時代は住みやすく戦争では負け知らずと言われていたのに今では各方面の街は寂れ食糧難になり騎士団は今では全敗するほど落ちぶれてしまいました。
全ては現プレザント王が自分とその身近な貴族だけが裕福な暮らしができるようにと仕向けた結果です。
――――
それを聞いた俺はふと気付いた。
「もしかして、俺が殺された原因って……」
「はい、スカイ様は王様の一番の側近であったため苦しめられた国民の誰かから殺害されたと思われます……」照れ屋のナースは下を向き俺に顔を合わせないようにしている。
だろうな……。悪名高い王様の側近とだけあって多くの国民に恨まれてるに違いな。
そしてこの身体は名はスカイというのか……
「俺はスカイなんて言うんだ?」
「スカイ・イルサンダー様です」
スカイ・イルサンダー……お前がどういう人間か知らないが俺が生き返るためにありがたくこの身体と地位を利用させてもらおう。
「ありがとう。俺はこれから王様のとこへ戻るよ」
そうだ、今きちんと見返せばこの病院らしきところもボロボロじゃないか。さらに可愛らしいナースはみんな痩せ細っている。
俺は神ではなくこの国の人達に誓おう『俺がお前達を幸せにしてやる!』ってね。そう心に違い少し胸を張って堂々と病院を出ようとした。
するとたまたま出口に鏡がありふとどんな顔をしているのか気になって覗いてみた。そこには何とも言えない好青年のイケメンな男が現れた。
年齢は俺より少し年上の20〜22くらいかな?その見た目は俺が今まで見た男の中で一番格好良かったのかも……。
銀白の髪は少し長くぱっちりとした二重。鼻筋が綺麗に通っていてまるで白馬が似合う顔立ち。細身のスタイルなのに引き締まった筋肉。何より足が長く身長が高い。
さっきの照れ屋のナースが照れていた理由はこれだな……。
「悔しいが俺の負けだ……」そうガッカリしながら俺は王様がいる街へ向かおうとした。
しかしふと気づくいた「ここは何処だ?王様は何処にいるんだ?」そう言えば俺は転生された身、地図か何か貰わないと。
そう思い再び病院へ戻りナースに地図を貰った。
ナースは地図を渡す際に「スカイ様専用の馬をこちらで預かっていました。どうぞお連れください」と馬小屋から転生前のスカイの愛馬を連れてきた。
その馬は綺麗な白い毛並みに生き生きとした目、そしてしっかりとした筋肉が付いている。
「まさか、イケメン顔に白馬ってこれが本当の白馬の王子ってか……」いや、そんな事よりも人間が痩せ細っているのに馬はしっかりとした体つき……。
もちろん、どちらも大切だけどやっぱり人間も人間らしく生きて欲しい。改めて白馬とナースを見て改めて誓おう『神』ではなくこの国の人々に!。
「このまま西に進めば3日ほどで王様の城へ到着しますよ!」照れ屋のナースは笑顔で俺にそう教えてくれた。
「では、色々ありがどう。この国は俺が変えてみせるよ」ナース達に格好つけてそう言うと白馬に跨った。
しかし、全く微動だにしない白馬。
「あれ、どうやったら走るんだ?俺乗馬した事ないから分からないや……。」ナース達の呆れた視線が痛く急に恥ずかしくなる。
先ほどの照れ屋のナースがふふっと笑いながら「約束ですよ!」と言い白馬の尻を叩くとヒヒーンと鳴き出し急に走り出した。
「お、おい!急に走り出すなよ!」白馬に言ったがもちろん馬なので言葉が通じずそのまま俺は森へ消えた。
そう言えば言葉が通じないで思い出したけど何で俺の世界で平気で会話できているんだ?しばらく白馬乗りながら考えていだが「どうせあのバカ2人組のおかげだろう」と
無駄に頭を使うのをやめた。
――その頃神様と閻魔大王は……
「おい、こいつ神じゃなくてたかが人間に誓ったぞ。地獄じゃ地獄!」酒に飲まれた神様が下界の空を見ながら暴れた。
「まぁまぁ、序盤だし許してやろう。とりあえず飲め飲め!」こちらも酒に飲まれ気が緩んでいる閻魔大王。
「許せるか!バカとも言ってるんだぞ!生き返るチャンスをやってあげたいのに何と恩知らずな!」
「許してあげてやれ神よ。それより飲め飲め!」神のコップには溢れんばかりの酒が注がれた。
「何が神じゃなくこの国の人々に誓おうだ!キザなセリフを平然と吐きおって共感性羞恥心というやつじゃ!こっちが恥ずかしくなる!」神様は注がれたお酒を一気に飲み干した。
「相変わらずつまみがいいと言い飲みっぷりだ!さあどんどん飲め!」閻魔大王は酔っ払いながら大満足という笑顔でさらに酒を注いだ。
そのまま2人は記憶をなくすまで飲み続けた……。
……話を戻して――
空はしばらく森を走っていると……。いや、森から抜け出すことができない。完全に迷った。
「ここは何処だ?森は木が多く生えているから迷いやすいって誰かが言ってたよな……」やばい、完全に終わった。もしかしたら俺はみんなを幸せにすることができずにこのままくたばるのか?
普通に考えたら知らない土地の森に闇雲に入ったら迷うのは当然だよな……。何やってんだ俺、ていうかあの照れ屋のナースもいきなり馬の尻を叩くなよな。
「少しは馬の扱い方を教ろっての!」少し不安になり叫びたくなったので思い切り叫んだ。俺の声は森中に響いた。
「やべ、獣とかいたら俺がいること気づかれるじゃん」俺は焦りながら跨いでいる白馬の尻を足でトントンと軽く叩いて再び歩かせ前へ進んだ。
辺り一面暗くなりさらに不安になる。
しばらく歩くと少し開けた場所を見つけ「今日はここで野宿するか」本当は嫌だけどやるしかないよな……と頬をバシッと叩き気合を入れ直し「と、とりあえず火をつけないと」と木の枝を拾い集めた。
「確か、木と木を擦って火種を作るんだよな」そう思い少し太い木に穴を開けてその穴に木の枝を立て回転させ擦った。
何時間経っただろうか……。やっと火種ができた
「日本だったらスイッチ一つで火がつくのに……」そう文句を言いながら火種に木のささくれを乗せて慎重に息を吹きかけた。
慎重に……慎重に……。ここで焦ったらまた一からやり直しだ。そう思い全集中を火種に注ぎ空気を送る。
すると数分後……。ボワっと火種は小さな火になった。
すぐにその日に木の皮を交互に乗せさらに空気を送る。
「頼む、大きくなってくれ……」俺の願いは届いた。
火はみるみる大きくなり俺は太い木の枝と細い木の枝を交互に火の中に入れさらに火を大きくした。
「やった……」思わず出た言葉。初めて自分の力でつけた火を見て感動してしまった。
「俺ってもしかしたらやればできる子?」
俺は少し疲れたので地面に横になった。
「とりあえずこれで獣には襲われずにすむな」と安心したせいか、俺は眠りについてしまった。
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