悪名高い王様の側近に転生したので転生先の人々を幸せにすることを誓います!

赤井 音

第一話 転生先の人々を幸せにすることを誓います!

 消えゆく光と押し寄せる闇の狭間……。

「もし生き返れるチャンスがあるならこの世の中の奴らを幸せにでもしてやる」何となく死に際に呟いた言葉が現実になってしまった。いや、少し思っていた現実ではないかもしれない。

 

 俺は高校3年生の関口空。自分で言うのもなんだけど整った顔と明るい性格、そして高身長のおかげで学校で一番の人気者。とても目立ちたがり屋な俺は高校の生徒会長に立候補し圧倒的な人気と地頭が良かったおかげで他の候補者を寄せ付けないくらいの票を稼いだ。


 生徒会長として学校のために……ということはせずとりあえずセオリー通り挨拶運動とか学校行事を企画して適当にこなしていた。


 実際、これだけやっていれば先生の評価も高く友人や後輩からも信頼される。そして、俺は将来この国の総理大臣になるのが夢だ。


 総理大臣になって日本のリーダーとして生きていく。

 そうして色々な改革を行い世界に俺の名を轟かせてみんなに「先生」と言われチヤホヤされたい。


 そう、俺は学校で収まる器ではなく世界へと羽ばたく逸材なのだ!


 もちろん、非効率的なことはしたくないから部活なんて入っていない。運動系はプロにならなきゃお金は稼げないし文化系は色々大変そうだし……。だから勉強が学年で1桁の順位があれば充分だ。勉強ができて良い大学に入れば政治家になれるだろうし俺の夢である総理大臣も叶えられるだろう。

 

 そして学校という狭い世界は人の為に何かをするフリをすればみんな騙されて俺を評価してくれる。見た目も頭も良かった俺が良い事をすればそれはもう世界を救ったかのような扱いだ。そんな俺は絶対に幸せになれると信じていた。


 そしてある日、念願だった志望大学の学校推薦選抜で合格した事を知った。

 職員室に呼ばれた俺はこの学校の英雄のような扱いだった。「おめでとう空。お前はこの学校の誇りだ」担任の先生に握手を求められて笑顔で手差し出す。

 俺よりも年上の大人達が二十歳にもなっていない俺を見て喜んでいる。ものすごく気分が良い。


 クラスに戻ってもみんなが笑顔でパチパチと拍手で迎えてくれた。

「さすが、空だな!」

「空ならきっと総理大臣とかになっちゃったりしてな!」

「いや、きっと大企業の社長になるかもよ!」

 みんなが笑顔で称えてくれる。最高な瞬間だった。


 帰り道、最高に気分良く帰っているとクラスのメッセージで注意喚起が送られてきた。

『さっきニュース速報で知ったけどこの辺りに強盗殺人事件が起きたらしい。犯人はまだ逃走中だからみんなすぐに家に帰ったほうがいいよ!』


『ありがとう』それだけ返信して俺は帰り道を外れた。

 強盗殺人犯?絶好のチャンスじゃないか。俺が捕まえれば将来選挙活動の際にアピールできる。気分が良い俺は調子に乗ってしまった。


 そうして殺人犯を自らの手で捕まえようとウキウキしながら捜索を始めた。「ここでもし捕まえたら俺は全国的にヒーロー。将来政治家、いやその先総理大臣になるチャンスが目の前にあるのに逃すわけにはいかない」勘違いも甚だしかった。

 

 2〜3時間歩いただろうか。

 流石に当たりが暗くなってきたので諦めようかと思っていた。悔しそうに小石を蹴りながら「ちっ、チャンスを逃してしまった」そうブツブツと文句を言っていると目の前にパーカーのフードを被った怪しげな男が現れた。


 男は挙動不審になりながら俺の横を通り過ぎていた。

 俺はそいつが殺人犯だとすぐに分かった。そんなに寒くもないのに革手をはめており、街灯で照らされたパーカーは血のようなものがかかっている。

 何より鉄のような血生臭い匂いが通り際に漂った。


 俺はすかさず「おい!待てよ!」とその男を止めた。

 その男は一瞬ビクっと止まったがすぐに早足で俺から逃げようとした。


「待てって言ってんだろ!」俺は全力で追いかけそいつの肩を掴んだ。男は「みのがじでぐれ」と泣きそうな声と真っ赤になった目を俺に向けた。

 少し驚いたがとりあえず転ばして動けなくしてやろうと思い切り足を引っ掛けたがその瞬間、何か熱いものを胸に感じた。


 そして急に力が入らなくなり意識が朦朧としてきた。「あれ、どうしたんだろう」そう思い胸を触るとそこには冷たいナイフが刺さっていた。


「あぁ、俺死ぬんだ」この出血量とナイフが確実に心臓に刺さっていることを感じすぐに察した。

「こんなとこで俺死ぬのか、俺の人生は順風満帆な予定だったのに」悔しくても悔やみきれない。少し調子に乗りすぎたと後悔しながら祈った。


 神でも仏でも先生でもなんでもいいから俺を救ってくれよ。俺はみんなの人気者なんだぞ、総理大臣になる男だそ。誰か、助けて……。


 俺は完全に生還する事を諦め「神や仏なんていないじゃん。クソ野郎」と呟き投げやりに「もし生き返れるチャンスがあるならこの世の中の奴らを幸せにでもしてやる」と言った。


 「おい、聞こえているか?神様か仏様。お前たちが本当に存在するなら俺は今言った事を実現さしてやるよだから生き返してみろよ」と心の中で叫ぶ。


「まぁ、仕方ないよな。実際人間が想像で作り上げただけの架空の存在なんだから」完全に諦めた俺は次第に死を受け入れる覚悟ができてきた。


「ま、天国が地獄があるならばできたら天国でお願いしますね」そう頭の中で考えるとふと誰かが俺の脳に話しかけた。


「どっちでもないよ」

 空間を歪ますような低く重い声。

「誰だ?俺はもう死ぬんだ。気持ちよく寝れそうなのに邪魔しないでくれ」俺は目を閉じ静かにその時を待っていた。


「だからどっちでもないって言ってるじゃん!」

 再び脳に話しかけてくる声。いい加減脳が揺れる感じがするからやめてほしい。「いい加減黙ってくれ。こらから死ぬ人に迷惑だぞ」少し苛立ち強く返した。


「……」ようやく黙ってくれた。これでよく眠れる……?俺は気付いた。「あれ、痛みが引いてる。さらにいつまで経っても意識がなくならない」ふと目を開ける。


「ここは何処?なんでこんなに真っ暗なの?もしかして死後の世界は何もない真っ暗な世界なんだ……」これは退屈な時間になりそうだそう思ったが、


「おい、こっちを見ろ人間」その低く重い声は空耳とかではなく実際に俺の耳にしっかりと聞こえた。


そっと声の方を向くと目の前には太い眉に赤い顔、大きな目と鼻、そして長い髭の大男が俺を見ながら座っていた。


 さすがの俺も腰を抜かし「黙れとか言って申し訳ございません」と頭を地面に付け謝った。


 大男は「急な事だからな許してやろう」と見た目とは裏腹に優しく俺を許してくれた。そして大男は「ワシは閻魔大王、貴様の願いを叶えてやろう」と意味不明な事を言い出した。


「俺の?願い?」不思議そうにする俺に閻魔大王は説明を始めた。しばらく脳に響く閻魔の声。


 要約すると……

 俺はきちんと死んだらしい。

 そして閻魔大王は神様と仲が良いらしく、普段から神の愚痴を聞いていたのだがどうやら地球と違う世界で問題が起きていたらしい。


 その問題は悪名高い王様が人々を苦しめているそうだ。


 そして俺が死に際の一言をどうやら閻魔大王は聞いていたらしく天国と地獄を判決する役目の閻魔が面白半分で俺にその世界に送ったらどうなるのかと身体ごと回収したそうだ。


 要は俺がその世界の人々を幸せにできたら俺は再び日本に生き返れるという話を持ちかけてきた。


「なんか俺の一言と少し違うような」そう思っていると閻魔大王は俺を睨みながら話しかけてきた。


「正直、神と俺はどっちでもいい。暇つぶしみたいなものだ。お前が違う世界で人々を幸せにできたらそのままの姿で本当に生き返してやる。早く決めろ」足をガタガタと動かしてイライラしているのがすぐに分かった。


「えーと」少しもじもじしながら戸惑っていると閻魔大王は「断るのか?別に断ってもいいけど断るのか?」と俺の顔に息がかかるくらい顔を近づけさらに睨み付けてきた。


「あ、じゃあお願いします」閻魔大王に睨まれた俺は断ったら地獄行き確定だと察して少しちびりながら返事をした。


「そうか」閻魔大王は満面の笑みになると今度は地鳴りのように響く声で「神よ。人間から良い返事を貰ったぞ」と上を向きながら叫んだ。


 いや、強制だったじゃん。断るの許さなそうな顔してたじゃん。そう思ったが、閻魔大王の笑顔を見ると恐ろしくて言葉にはできなかった。


 しばらくすると上から白い綺麗な女性から舞い降りてきた。白い髪に白い眉毛、綺麗な薄い黄色の目に肌も透き通るほど白い。


「初めましてこの世で一番偉い神様です」

 腰に手を当て胸を張りドヤ顔をしながら降りてきた。

 見た目とは違い図々しい。いや、清々しいほど偉そうにしているの間違いなのか……。


「は、初めまして」

 なんだこいつ。そう思ったが相手は神様だ、もし神様が優しくてもおっかなそうな閻魔大王と仲が良いなら変な事を言うと閻魔の方に地獄に落とされるかもしれない。と考え心を落ち着かせた。


「貴方が選ばれし人間ですね。話は聞きました。では早速転生しましょう」神様は俺に美しい白い手を差し出した。

 先程の態度とは違い優しい笑顔と声でなんとも魅力的な神様だろうと思ってしまった。


「あ、俺がこれから転生する世界ってもうちょっと詳しく聞く事できますか?」情報が少なすぎるだめ俺は転移先の世界について書き出そうとしたが、


「それは貴方が転生した後調べてください」笑顔の神様からの返答はそれだけだった。


「いや、あのあまりにも情報が少なすぎなので世界の情勢とか色々詳しく教えて頂くとありがたいのですが……」俺は丁寧に聞き返したが、


「あぁ、それは貴方が転生した後調べてください」笑顔の神様からの返答は同じだった。


「あのですね神様。さすがに情報が……」俺が再び聞き出そうとすると閻魔大王が立ち上がり口を開いた。


「しつこいぞ人間。そういえばタイミングが良い事に転生先の世界で悪名高い王様の側近が殺されたんだ。そいつに生まれ変わってもらうとしよう」


神様は手をパン!っと叩き「ナイスアイデアですわ、閻魔さんでは早速転生させましょうか」と嬉しそうに言った。


 多分こいつら説明を面倒くさがっているな。少し納得いかないけど……。そう思いながら俺は神様の手のひらに自分の手を乗せて「お願いします」と言った。


 神様は不満そうな顔をして「いや、ここは誓いの言葉を言って貰わないと」と俺に注意した。


「誓いの言葉ですか?」不思議そうな俺を見て焦ったくなった神様が頬を膨らませた。


「人間は結婚する時とか神に誓うでしょう。そんな感じで貴方もこの私に誓いなさい」と少し怒った顔で俺を見た。


 訳のわからない俺は「な、何を誓えば?」と聞き返すと閻魔大王が横から俺を睨み「お前が死に際に言った事だよ」と低く重た声で俺の耳元で囁いた。


 俺は硬直しながらも「あ、はいそれでは……」

 だったら初めからそう言えよ、面倒臭い奴らだな。と思いながら目を閉じて神に誓った。


 ん?待てよこの世の中の奴らを幸せにするとしか言ってないけど……まぁいいか何言ってもこいつらバカ2人には話が通じないもんな。

 

「私、関口空は転生先の人々を幸せにする事を誓います」

 ……こんな感じでいいのかな?


神様は俺に微笑むと「それでは貴方が転生先で人々を幸せにする事をお酒……オホン……見守っています」


 ん?今お酒って言わなかった?こいつ俺の転生先の人生を酒のつまみにしようとしてるな……。


 もう、なんでもいいや。とりあえず生き返るために少し本気を出してやるか……。


「それでは改めて。貴方が転生先で人々を幸せにする事をこの優しく美しい神様がいつまでも見守り続けます。」


 あ、また余計な一言を……。神様ってナルシストなの?これは世間の神様のイメージダウンに繋がるのでは?


 あー、でももうなんか転生されそう。神様だし、逆らったら怖そうな閻魔大王もいるし余計なことは言わないでおこう。


 まぁそれでも……。


「行ってきます。神様、閻魔大王」俺は笑顔で2人にチャンスをくれた事への感謝の気持ちを込めて挨拶をした。


 神様から放たれた優しく温かい白い光に包まれた俺は見知らぬ異世界へ転生した。

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