契約その7 初dateは三人で!

「なあ、そろそろ初デートしないか?」


 由理が彼女になってからさらに数日が経った後、不意にルーシーが言った。


「デートか……いいな!それ」


 恋人っぽい!と思ったユニは、すぐさま賛成した。


「実はさ、デートスポットを色々探してたんだ」


 ユニはノートを取り出しながら言う。表紙には「デートノート」と赤字で書かれていた。


「色々考えたんだけど、最初だからやっぱり無難に『遊園地』なんてどうかな!?ホラ!」


 ユニは、ノートのあるページを指差す。


 そこには「楠々くすくすランド」と大きく書かれており、その下には園の全景と思われる写真が貼ってあった。


「レビューによれば、週末に行ってもそこそこ空いてるらしい。あまり待ち過ぎるのもイヤだろ?」


 ユニが聞く。


「そりゃ勿論イヤだけどさ……」


 ルーシーは、自分が言わんとする言葉を恥ずかしがった。


「?イヤだけどなんだ?」


「だーもう!お前と一緒に待つんなら別だって言ってんだよ!」


 ルーシーは半ばヤケクソ気味に赤面しながら言う。


 しかし、この男(女)は気にしなかった。


「え?嬉しい!ありがとう」


 純粋に喜ぶユニに、ルーシーはキュンとするのだった。


「じゃあ、ここでいいんだな?」


 遊園地の写真を指指しながらユニが聞く。


「ああ。お前がそうやって必死に探してくれたスポットをムダにはできないからな」


 ルーシーは笑顔で答えるのだった。



 数日後の土曜日。


 ユニ達は、電車を乗って初デートの場所である「楠々ランド」を訪れたのだった。


「着いたな。中々いい所だ」


 遊園地の入り口を見ながら、ユニは感想を漏らした。


 そんなユニは、デニムのショートパンツに黒タイツ、白のスニーカーに白いカーディガンというスタイルだった。


 髪はアップに結っている。


「何かいつもと様子が違うな」


 ユニのファッションについて触れるルーシー。


「どんなファッションがいいか調べたんだよ!遊園地に行くならなるべく動きやすい服装がいいとか色々考えてさ!」


 ユニは興奮気味に答えた。デートできるのがそんなに嬉しいらしい。


「よし!早速中に入ろうか!」


「その前にちょっと待てェ!」


 ルーシーは、意気揚々と入場しようとするユニの首根っこを掴んで引き留めた。


「いや一体何で……」


 自分の首を抑えながらユニが聞く。


「どうしてここにがいるんだ!?」


 ルーシーはさりげなく一緒にいる由理を指差しながら言う。


「どうしてって……私いちゃいけないの?」


 由理が純粋に聞く。


「いや、ダメというか何というか……」


 ルーシーは、さすがに「邪魔なんだよ」とは言えなかった。


「でも、私も姉さんの彼女だし?初デートするなら私も参加したいの。ルーシーには悪いと思ってたけど……」


 自分を気遣う発言をされ、ルーシーはいよいよ彼女を帰らせる事ができなくなった。


「わかったよ。お前もユニの彼女だし……一緒に行こう」


 それを聞いた由理の顔がぱあっと明るくなる。


「うん。ありがとう」


 由理は笑顔でお礼を言うのであった。



 そして三人は一緒に「楠々ランド」の門をくぐる。


 すでに開園から二十年余が過ぎているが、遊具は更新を繰り返しているらしい。


 ジェットコースターに観覧車、メリーゴーランドと定番のものは一通りある。


 三人は、まずはジェットコースターの場所へ向かう。


「結構スリル満点らしいよ」


 ノートを見ながらユニが言う。


「へへっこっちは人間の十倍は生きてんだ。そんなのにビビるわけないだろ」


 ルーシーが得意げに言う。


「じゃあ乗ってみる?」


 由理の問いに、ルーシーは「当然!」と言ってのけた。


「本当に大丈夫かな……」


 心配するユニだった。


 そのユニの心配は的中する事になる。


「わあああ〜!!!」


 すごいスピードに、ルーシーは終始驚きっ放しだった。


「よく考えたら千年前にこんな乗り物ねェや……」


 ルーシーはげんなりした様子で語った。


「でも楽しかっただろ?」


 ユニが聞く。ユニの目には、驚きながらも楽しそうにしていた様に見えたのである。


「そ……そりゃあ勿論。たまに乗るのにはいいかもな……」


 ルーシーが赤面しながら言う。


 終始隣に座るユニに抱きついていた事を思い出していたのである。


 今度は穏やかなメリーゴーランドに向かう三人。


 ユニをカメラマンに、三人は写真を撮りまくった。


「こういうのは現像して飾ろうな」


 ユニが笑顔で言う。


 いつの間にか正午になり、三人は園内にあるレストランで昼食を取る事にした。


 正午なだけあってか、客は多い様だ。なので少し待つ事になった。


「おれの見通しが甘かったな。ごめん。少し時間ズラそうか?」


 ユニが三人に聞く。


「待つって言ってもせいぜい十分だろ?それぐらいなら待つよ」


 ルーシーの言葉に由理も頷く。


 三人はレストランの入り口近くにあるイスに座って待つ事にした。


 しかし、得てして悪い事というものは起こるものである。


「バァン!」と入り口のドアを強く開け放つ音がする。


 店内の客や従業員が一斉に入り口の方を振り向く。


 現れたのは、いかにもガラが悪そうな三人組の男である。まるでヴィジュアル系のバンドの様だ。


 男達はヅカヅカと店内に入っていくと、男の一人が店員に言う。


「三名ねー。それと喫煙席で」


「当店は全席禁煙となっていまして……」


 店員が困惑しながら言う。


 そもそも園内は全域禁煙なのだが、男達は気にしてない様だ。


「チッ……ケチくせェな……」


 男はそう吐き捨てると、場所を変えるのか、男達は店内から出ようとする。


 その最中、ユニ達と目が合った男達。


 男達は、ユニ達の方を見るなり腕を掴んで立たせる。


「コイツらでいいや。みんなかわいいし」


 そのまま店外へ連れて行かれる三人。


「これってつまりナンパだよな?」


 こそっとルーシーが言う。


「それで済めばまだいいけど……」


 ユニが言う。


「それでさあ……みんなおれ達と遊んで行かない?」


 男の内の一人が、おそらく精一杯の誘い文句を言う。


 しかし、断ったらヒドい目に遭わされそうな雰囲気である。


 普通の女の子なら。


 ユニ達にとって、こんな男達など敵ではないのだが、ここは遊園地、騒ぎを起こすのは得策ではない。


「じゃあキミ達一人だけでもいいよ」


 男の一人が言う。


 その折衷案に、ユニが名乗りを上げようとしたその時である。


「わかりました。私があなた達について行きます」


 ユニの前に名乗りを上げたのは由理だった。


 驚く二人に、由理は言う。


「私が、ルーシーにイヤな思いをさせたから。二人のデートに水を差した、その償いです」


 そう言い残し、男達の方へ向かおうとする由理の腕を、ルーシーは強く引き留めて言う。


「イヤなんて……そんなわけないだろ……!現におれはお前と遊べて楽しかったし、何より……」


 ルーシーはユニの方を向いて言う。


の恋人を悲しませんなよ」


 今にも泣き出しそうなユニの顔を見て、由理は自分の行動を反省した。


 そしてルーシーは、男達に向かって言う。


「だから言うぞ。おれ達は、お前らなんかとは一緒に行かない!とっとと去れ!」


 ルーシーの悪魔の形相に男達はビビり、退散していった。


「さてと」


 気を取り直し、二人はユニの方へ向き直る。


「こうなっちゃレストランには戻れないな。どうする?」


 ユニが勤めて明るく言う。


「こうなったら遊び倒そう!ほら食べ物は売店でも買えるしさ!」


 ユニは自分の両手を二人に差し出す。


 二人は顔を見合わせると、その手を強く握り、遊具へと繰り出していく。


 そのまま三人は、閉園時間まで楽しむのだった。


 悪魔との契約条項 第七条

悪魔を、怒らせてはならない。

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