契約その8 Childhood friendのお手を取れ!
学校の支度を終え、ユニは一人で学校に向かおうとする。
ルーシーは運動部の、由理は委員会の仕事があるらしいので、朝早くに家を出てしまった。
玄関を出ると、七海が家の前で待っていた。
「よっ、おはよう」
七海は、二本指を頭に当てて軽く挨拶する。
「おはよう」
それに釣られてユニも挨拶する。
「さっ一緒に学校行こうか。朝は部活の練習もないし」
七海はそう言うと、くるりと180度回転して歩き出した。
「いやいや、ちょっと待ってよ!一緒に行く約束とかしてたっけ?」
あまりにも急な展開すぎてついていけなくなったユニが言った。
「約束しなくちゃ一緒に行っちゃいけないの?家も隣同士なんだしさ」
七海はケロリと言ってのけたのだった。
「ほら、早く行かないと遅刻しちゃうよ?」
七海はユニに手を伸ばす。ユニもそれに手を伸ばすと、それをしっかり強く掴み、一緒に学校へ行くのであった。
昼休み。ユニはルーシーと一緒に昼食を食べていた。今日は買い食いである。
「へー。今度は陸上部の練習に参加するのか」
クリームパンを飲み込んだ後にユニが言った。
「そうなんだ。どうやらウチの陸上部かなり弱いらしくて、それで部員に喝を入れる為にって長寺に頼まれた」
カレーパンを頬張りながらルーシーが言った。
転校初日に自分の身体能力を見せつけて以降、ルーシーは各運動部に引っ張りだこの存在になった。
しかし、一つの運動部を贔屓するわけにはいかず、必要な時だけ試合や練習に出る事がルーシーと各運動部の間で取り決められた。
なので基本放課後は希望する部活動に参加する事になったらしい。
「だからさ、今日は一緒に帰れない。ごめんな」
ルーシーは両手を合わせて謝罪した。
「いや、今日はおれも参加する」
「は!?」
ユニの意外な反応に、ルーシーは目を丸くして驚いた。
「キミに助っ人を頼んだ長寺七海の事で気になる事があるんだ」
そして放課後。ルーシーとユニの二人は、七海に言われた通りに陸上部の部室を訪れた。
晴夢学園女子陸上部。今でこそ弱小だが、八十年代は全国大会の常連とも評された強豪校であった。
しかしその時代特有の極端に辛い練習や、厳しい上下関係などで退部や下級生に対するイジメが続出、果ては自殺者まで出したので、九十年代半ばで停部処分を受けてしまった。
今年になって七海が学校に働きかけて復活したのだが、練習している様な雰囲気はない。
その状況から、今度は廃部になるのではないかという話が出始めているのが現状である。
そんな崖っぷちの状況に、七海は起死回生の一手としてルーシーに応援を頼んだのである。
まずは大型連休中の試合に勝つ事が目標らしい。
そんな部活に、二人は訪れたというわけだ。
部室は校舎の端の方にあった。もうこれだけで学校側から冷遇されている事がわかる。
部室の前に来てみると、全盛期当時のものを使用しているのか「女子陸上部」と書かれた古ぼけた木の看板が出されていた。
ユニは意を決して恐る恐る部室の引き戸を開ける。しかしどうやら滑りが悪いらしく、開けるのに少し苦労した。
「あのーすみません、この部活の応援として呼ばれた一年G組の瀬楠由仁と……」
「同じく内藤・メア・ルーシーですけど……」
頭を下げながら話しかける二人、辺りにはお菓子の匂いが充満していた。
どうやら練習もせずにここで駄弁っているだけの部活と化している様だ。成程、これなら停部するのも時間の問題である。
二人は部室の中を見渡して七海の姿を探す。しかしここにはいない様だ。
まだ来てないのかとルーシーが言ったその時、背後から七海が話しかけてきた。
「あっルーシー。来てくれてありがとう。それと何でユニがいるの?」
七海の疑問はもっともである。さっきは「応援に来た」と言ったが、それは言葉のあやの様なもので、実際には呼ばれてないのだから。ユニはルーシーの付き添いだと説明した。
「じゃあ皆さん、ユニフォームに着替えて校庭に集まって下さい」
七海がみんなに呼びかける。彼女が取り仕切っている様だ。
しかし、誰も行動しようとしない。さっきからポテチを食べる音とクスクス笑いしか聞こえてないのである。
「皆さん……お願いします!校庭に集まって下さい!」
しかし七海の声は虚しく響き渡るだけだった。
すると、ある一人の女子生徒が口を開いた。
「あのさあ……。私達さ、ハナから陸上に興味ないんだよね。こうやって友達と一緒に他愛もない話してさ、ほら一生に一度しかない高校生活なんだから」
「そうそう。入部したのも『晴夢高校女子陸上部所属』っていう肩書きがあれば進学も有利になるからだし」
「ネームバリューだけはあるからね。なのに陸上やろうなんて……正直ウザいというか……」
他の女子生徒達も同調した。どうやら本気で陸上をやるつもりはない様だ。
「そんな……」
あまりのショックに、七海は逃げ出してしまった。
「あっちょっと!」
「まあ待て」
追おうとするルーシーを、ユニは静止し、そして先輩達に言い放った。
「あの……先輩方。このままだと
結局部活は始まらず、二人はそのまま帰路についたのだった。
その帰り道。ルーシーは腹を立てていた。
「何かなァ……あの態度。だって七海は部活の栄光を取り戻そうと頑張っているんだろ?それをウザいの一言で一蹴するなんて」
ユニは黙っていた。いや、静かに怒りをたぎらせていたのである。
「悪いルーシー。先帰ってる」
「え?……わかった。
全てを察したルーシーは、ユニを快く見送った。
「ありがとう」
ユニはそう言い残すと、まるで陸上部の様なスピードで走り去っていったのだった。
ユニは家には帰らず、隣の七海の家に行った。チャイムを押し、七海を待つ。
程なくして七海が出てきた。
「ユニ……?」
ユニは顔を掻きながら言った。
「えっとさ……特に理由はないんだけどさ……ちょっと散歩しないか?」
時刻は午後五時過ぎ、周囲もだんだん暗くなってきた。
夕日をバックに、二人は土手の上を歩いていた。
しばらく歩いていると、ユニは七海に話しかけた。
「あのさ、七海。おれがどうして陸上部に参加したと思う?」
「え……?」
驚く七海。
「おれさ、わけあって女の子にホレられる体質なんだ。だから今朝のキミの反応を見て、キミがおれにホレていると考えた。でも、そんな事どうでもよかったんだ」
「……?」
七海の今日一番の驚き顔だった。
「好きだったのは、キミじゃなくて、おれだったって事さ。さっきの連中を見て、自分の事みたいに腹が立ったんだ」
そしてユニは土手に向かって叫ぶ。
「マジメな奴がバカを見る!そんなんでいいのか!?いいやよくない!マジメな奴こそが!幸せになるべきなんだ!」
「ユニ……」
ユニは、七海の方に向く。
「おれに考えがある。キミを幸せにする作戦だ。乗る気はあるか?」
ユニはそう提案すると、七海に手を差し出す。その手を、七海はしっかりと取るのだった。
悪魔との契約条項 第八条
悪魔の身体能力は、人間を遥かに凌駕する。
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