契約その5 見せつけろ!最強悪魔のそのpower!
「お前……何でここに……?」
廃工場の扉をブチ破り、颯爽と登場したルーシーに、床に倒れていたユニは聞いた。
「何でって……さっき妙な胸騒ぎがしてさ。しらみつぶしに探したんだ。魔界から探すよりずっと簡単だったぞ」
ルーシーはそう言いつつ倒れていたユニを抱き起こした。
「ケガとかしてないか?立てるか?」
「大丈夫だ。ケガはしてねェ……。でも睡眠薬のせいでまだ少し頭が痛いな」
ユニは頭を押さえながらヨロヨロと立ち上がった。
「睡眠薬?」
「ああ。さっき飲んだコーラに仕込まれてたんだ。危うくヒドい目に遭う所だった」
ルーシーは、そんなユニに肩を貸してやった。
「さて帰ろうか」
ルーシーはそう言うと、ユニを縛っていた鎖を引きちぎって解放し、さっき自分でブチ破った入り口の方向へユニを支えつつ歩いていった。
「オイオイちょっと待てェ!」
これまでずっと放ったらかされていた雉元が二人を呼び止める。
「あ、雉元。どうしたんだこんな所で」
それはまるで出かけ先で友人に会ったかの様な口調だった。
「オイオイ……アイツのせいだぞ。おれがこんな所に連れてこられたのは」
ユニが言う。
「何だと……!?」
それを聞いたルーシーは、一気に顔色が変わり、文字通り悪魔の様な形相を見せる。
雉元は、そのものすごい怒りに内心ビビりながらも、仲間に指示を出した。
「ハハッちょうどいい!オイお前らァ!エサが増えたぞォ!早い者勝ちだァ!」
雉元に煽られ、獣と化した男達は我先にと襲いかかってくる。
そんな男の一人を、ルーシーはヤクザキックで蹴り飛ばした。
木っ葉の様に吹き飛ぶ男。男は壁に大きな音を立てて激突し、そのまま動かなくなった。
「は?」
一瞬の出来事に固まる男達。
そんな彼らに、ルーシーは言い放つ。
「年季が違うんだ。人間が悪魔に勝てるわけないだろ。降参しろ」
「悪魔だとォ?」
「フザけんな!」
口々に文句を言う男達。今度は徒党を組んで挑んでくる様だ。
「わかってない奴らだな。今のは最後通牒だよ」
人間と悪魔には、圧倒的な力の差がある。
そもそも人間数人が徒党を組んだ所で、敵う相手ではないのである。
ルーシーは、向かってくる男達を流れる様に始末していった。その様は、まさに「悪人どもをちぎっては投げちぎっては投げ」と言う表現が正しかった。
ユニも負けてはいない。
向かってくる相手を、こめかみへの回し蹴りの一撃で倒すと、すぐさま別の男に掌底を叩き込む。
睡眠薬を飲まされたせいでコンディションは悪いが、そもそも負ける相手ではないのである。
「このっ……こいつめ!」
ある男が、ルーシーの頭上目がけて鉄パイプを振り下ろす。その一撃は見事に脳天に直撃する。
「ガンッ!」という鈍い音が辺りに響いた。
「へへ、どんなもんだ」
男は勝ち誇る。しかし、その希望は次の瞬間には無残にも打ち砕かれるのだった。
「あー痛たた……。よくもやったな!」
ルーシーはその鉄パイプを右手で掴むと、思い切りへし折った。くの字に曲がる鉄パイプ。
そして痛いと言う割には、血どころかコブの一つもなかったのであった。
「何て石頭……!ば……化け物だァ!」
そう叫ぶ鉄パイプ男を、ルーシーは投げ飛ばした。雉元は、投げ飛ばされた男に衝突されてしまった。
その衝撃で転ぶ雉元。
「ぐあァ!ぐ……いてェ……」
「あとはお前だけだな。覚悟はあるか?」
とりあえず雉元を一発殴り飛ばそうとするルーシーを、ユニは制止して言った。
「待て待て。その前に……。お前、何でそんな事するんだ」
「『何でそんな事するのか』だと……?そんな事、決まってる……!」
雉元はヨロヨロと立ち上がり、叫んだ。
「おれが!女の子が大好きだからさ!全ての女の子はおれの為に存在する!みんなおれの言う事に従っていればいい!」
「何だと……!」
雉元の醜悪な本性に、二人は驚愕する。
「その為なら、たとえ実家から睡眠薬を盗む事も……もみ消しをする事も厭わねェ!ハハハッ!お前らもおれに……従いやがれェ!」
「何て男だ……」
ユニは戦慄した。こんな男が、よもや自分の身近にいたとは。
「女の子を力で支配して……言う事聞かせて……お前はそれで満足なのかよ……!」
「あァ?」
ユニは拳を強く握り締め、搾り取る様に言う。影になってその表情は見えないが、彼女がどんな感情を抱いているのかは、日を見るより明らかだろう。
ユニは歯を食いしばり、そして叫んだ。
「女の子の尊厳を踏みにじって!お前はそれで満足なのかって言ってんだよ!」
「ハァ……ハァ……愚問だ」
雉元は、驚く程冷静に言った。
「満足に決まってんだろ……。力のある者は……何をしたっていいのさ」
それを聞いたルーシーも、激昂して雉元に飛びかかろうとする。それをユニはまた抑えた。
「いやまずは、おれに任せてくれ」
「ユニ……」
ユニは雉元にこう言った。
「オイ雉元。そんな事言ってもいいのか?お前の人生はもう終わりだぞ?」
それを聞いた雉元は、余裕を持った話し方で言った。
「ムダな事だ。言った筈だぞ!おれの行為は父の権力でもみ消される!お前達は泣き寝入りだ!」
「そいつはどうかな?」
ここでユニは、ルーシーにバトンタッチした。バトンを渡されたルーシーは、雉元にこう言い放つ。
「残念だったな雉元。今までのやり取りは全ておれのスマホに録音されてんだ!このデータをマスコミにタレ込めば、どうなるかわかるよな?もみ消しにも限度がある筈だ!」
それを聞いた次の瞬間、雉元は青ざめ、そのスマホを奪おうと向かっていく。
その顔面にキックがぶち込まれる。ユニのヤクザキックだった。
「言っただろ。お前の人生はもう終わりだって」
キックを食らった雉元は、全身を宙に浮かすと、そのまま背中を打ちつけて気絶したのだった。
「終わったか……」
ユニがゆっくり呟いた。
その次の瞬間、フラッとしたかと思うと、ガクッと両膝をつく。今になって睡眠薬の後遺症がきたのだ。
「悪い。やっぱりダメみたいだ。少し寝るわ」
そう言い残すと、ユニはそのままうつ伏せに倒れ、寝息を立て始めた。
ルーシーはそれを起こさない様に、ユニの頭が自分の膝に当たる様に移動させた。膝枕である。
寝息を立てるユニに、ルーシーは優しく語りかけた。まるで子供をあやす様に。
「よく頑張ったな。ユニ。そして……ごめん。まさか恋をする事が……こんなに辛いとは思わなかった。おれのせいだ。キミがこんな目に遭ったのは」
ルーシーは、契約の破棄を考えた。が、無理である。代償を払った以上、契約の破棄は不可能となるからだ。
「だからせめて、一緒にいよう。たとえどんな奴が敵になろうと、おれはキミの味方だ」
そしてルーシーは、ゆっくりとユニの頭を撫でた。
「だから今は……おやすみ……」
―――翌日。
クラスは突然現れた転校生、「内藤・メア・ルーシー」の噂で持ちきりだった。
それはまるで、自主退学した雉元などいなかった様だった。
しかしルーシーは、しばらくの間、部活の勧誘などから逃げ回る事になったのであった。
悪魔との契約条項 第五条
一度契約の代償を支払うと、もう二度と契約の破棄をする事はできない。
ご利用は計画的に。
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