契約その4 混沌のschool life!
「ヘェ……悪魔にも契約が効くのか」
ユニは興味深そうに聞いた。
「そうなんだよ。おれ、あの後魔界に帰ったんだけどさ、お前の事どうしても!忘れられなくてさ、だから世界を改変して人間としての姿と戸籍と住民票を手に入れたんだ」
ユニは、まさか悪魔の口から「戸籍」や「住民票」といった言葉が出てくるとは思わなかった。
「結構大変なんだぞ。世界変えるのって」
そこまで聞いたユニは、手を挙げて質問する。
「キミはおれに『責任取れ』って言ったけど、具体的にはどうすればいいんだ?」
「簡単な事だよ。あの家におれも住むんだ」
ユニの家の事である。かなり大きな家で、由理と二人で住むのには確かに少々広い。
確かに住人が増えても部屋数的にはおそらく大丈夫だが、問題はある。
「おれはいいけどさ、おれの妹が何て言うかわからないぞ」
「その辺は大丈夫だよ。戸籍や住民票のついでに『瀬楠家にホームステイしている帰国子女』っていう設定も付け加えたから。お前の妹も逆らえない」
ルーシーは堂々と言い放った。
「だからさ、頼むよ。家事炊事も手伝うからさ」
ルーシーは手を合わせて必死にお願いする。そこまでされると、ユニは断る事はできなかった。
「わかったよ。同居を認める」
「ホントか!?ありがとう」
ルーシーはユニの手を取り、強く握ったのだった。
「それじゃ、メッセージIDの交換しようか。魔界にスマホあるか知らないけど」
ユニは、自分の携帯を取り出しつつ言った。
ルーシーも、自分のスマホを取り出してそれに応えたのだった。
まさにその時である。
「あー!こんなとこにいた!」
七海が指を刺しつつ駆け寄って来た。
「ユニと……それとルーシーさんだっけ?とにかく早く準備しないと。次の時間体育だし」
「体育か……体育!?」
ユニは青ざめた。
「とうとうこの時が来たか……」
女子更衣室の中でユニは立ち尽くした。
確かに今の自分は女性で、その自分が女子更衣室で着替える事は自体はおかしい事ではない。
だがそれは見た目の話であり、中身は男子高校生なのである。
下着姿のJKが闊歩するこの場にいて、冷静にいられるわけがなかった。
「一体どうしたの?」
七海が怪訝そうに聞いた。
「あーいや何でもない!何でもないんだ!」
ユニは、自分以外の下着姿は見まいと目をつぶりながら瞬時に着替えた。
「うわっ早っ!」
七海は驚くが、ユニは先行ってるからと言い残し、脱兎の如くその場から走り去ったのだった。
「じゃあ行きますよー!」
ルーシーが投げたボールは、男子生徒の体を捉え、討ち取った。
ユニのクラスは親睦の意味も兼ねて、男女混合のドッジボールに興じている所である。
男子は利き手を封じるハンデを負った状態であり、ルーシーは男子相手もものともせずに無双するのだった。
ユニは、彼女が味方である事に強く感謝した。
ドッジボールで汗を流した二人は、地べたに座って一緒に休憩していた。
そんな二人に、ある男子生徒が話しかけてきた。
「お二人さん元気かい?」
チャラチャラした雰囲気の優男である。
今日初めて転校してきたルーシーが知らない男だった。
そんなルーシーにユニが言う。
「名前は確か……そうだ、『雉元そうじ』だよ。大病院の息子らしい」
ユニはついでに「かなり女性を取っ替え引っ替えしている噂もある」と付け加えた。
「あ、そうだ」
雉元は、持っていたコーラをユニに差し出した。
「これやるよ。口つけてないから」
「いや……何だよいきなり」
ユニは怪訝そうな顔をする。
「何だよって、おれはただキミと仲・良・く・したいだけだよ」
そんな事を面と向かって言える雉元に、二人はドン引きした。しかし断るのも悪い気がする。
ユニは、彼の面目を保つ為にも、とりあえずコーラは受け取る事にした。
そうこうしている内に、下校時間になった。
「ルーシー、一緒に帰るぞ」
ユニが声をかけると、ルーシーは彼女に興味を持ったクラスメイトや野次馬達にもみくちゃにされていた。
「是非女子ソフト部に入ってよ!」
「いーやバスケットボール部に!」
「あ……いや私はその……」
勧誘の嵐に、されるがままにされるルーシー。
しばらく時間がかかりそうだと思ったユニは、学校の中庭で待ってると伝えて去っていった。
確か七海は陸上部に入部したと言っていた。となれば今日は一緒に帰る事はできまい。
そこでユニは、中庭のベンチに腰掛けてルーシーを待つ事にした。ユニは目を閉じて、自然の音に耳を傾ける。
こんなにゆっくりできたのは久しぶりかも知れない。
しばらくして喉が渇いたので、さっき雉元から貰ったコーラに口をつけた。
春の陽気が暖かい。間もなく、ユニはそのままゆっくりと眠りにつくのだった。
目が覚めた時には、ユニはなぜかどこかの暗い場所にいた。地面はコンクリートの様である。
「よう起きたか」
話しかけてきたのは雉元である。
「何だこれ……」
ユニは、自分の両手両足が鎖で縛られている事に気づいた。
「何のマネだ……!」
ユニは雉元を睨みつける。雉元は怖い怖いと言いながら、タネ明かしをするのだった。
「さっきキミに渡したコーラ、それにはウチの病院からくすねてきた睡眠薬が入ってたんだ。それをみすみす飲んで眠りに落ちたキミは、ここの廃工場に連れてこられたというわけさ」
「お前……最初からそれが目的で!」
ユニはさらに雉元を強く睨みつけて言った。
「まあ、ここにいるのはおれだけじゃねェが……」
雉元がそう言うと、工場の奥から男が数人現れた。中には鉄パイプなどで武装している者もいる。
「彼らの協力も得たんだ。みんな喜んで協力してくれたよ。エサをぶら下げたお陰でな。おれの後なら、好きにしていいってなァ!」
抵抗できない程度に痛めつけろと指示する雉元。当然ユニも黙ってはいなかった。
男の一人に頭突きを食らわせ、怯んだ所を顔面にドロップキックをブチ当てて倒した。
しかし、拘束されている状況では多勢に無勢だった。
一方その頃、未だに質問攻めにあっていたルーシーは、誰にも気づかれずにその場を後にしていた。何か異変に気づいたのである。
ユニは何人かは倒せたものの、まだ睡眠薬が抜け切っていない中での戦闘に次第に追い詰められていた。
「しぶといな……。だがもう終わりだ。恨むなら可愛すぎる己の顔と体を恨むんだな!」
いよいよ向かってくる雉元。ユニはもはやこれまでと思い、無意識に目を強くつぶったのであった。
悪魔との契約条項 第四条
契約やその代償によって契約者に生じた不都合には、悪魔は一切関与しない。
その時である。ドカァン!という何かが爆発する様な轟音と共に、廃工場の扉が吹き飛び、粉塵の中から人影が現れた。
「誰だァ!」
雉元が叫ぶ。
その正体は、赤髪ツインテールの八重歯が特徴的な、ルーシーだった。
悪魔との契約条項 第四条(改訂版)
契約やその代償によって契約者に生じた不都合には、悪魔は一切関与しない。
ただし、例外は存在する。
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