契約その3 Transfer studentは突然に!?
午前五時。ユニの部屋に目覚まし時計がけたたましく鳴り響く。
ユニは布団の中からぬっと腕を伸ばし、ボタンを勢いよく押して止めた。
その後、布団の中でモゾモゾと動くと、ゆっくりと起き上がる。
そしてふぁぁっ……と大あくび。それから手足を確認し、自分の体が女性のものである事を改めて確認した。
「やっぱり……戻っちゃいないよな」
ユニはそう呟くと、続いて自分の胸を触ってみる。
感触はまるで餅の様に柔らかく、世の男が女性の胸に執着する理由を改めて思い知った。それにかなりデカい。
素人目ではあるが、FからGカップはありそうだ。
巨乳でよかったと思う反面、ことごとく「男としての自分」を奪われたみたいで、どこか複雑な心境である。
ユニは寝グセでライオンのたてがみの様になった髪を揺らしながら、ベッドを降りるといそいそと学校の支度を始めるのだった。
しかし、その支度は早くも頓挫する事になる。
「マジかよ……」
ユニは、女性もののピンクの下着を両指でつまんだまま立ち尽くしていた。
タンスを全部開けてみたのだが、昨日まではあった男ものの下着や服は全て消えており、その代わりに女性ものの下着や服が現れていた。
どうやら周囲の人間の認識改変というよりは現実をそのまま改変した様な感じらしい。
簡単に言えば、まるで自分が
しかしこうなった以上は仕方がない。ユニは意を決して下着に足を通したのだった。
履き心地はいい。男のそれより生地は柔らかい様だ。しかし、何か自分の大事なものを失った気がする。
次いでブラジャーに腕を通し、後ろで留める。今まで経験がないので、少し難儀した。
コレは慣れるまでに時間がかかりそうだ。
そして学校の制服に手をかける。ユニの学校は男女共にブレザーとなっている。
ワイシャツと赤いネクタイ、クリーム色のベスト、その上からブレザーを着る形である。そして下は……。
「着るのか……。やっぱり……」
黒を基調にした赤のチェックのスカート。少し躊躇したものの何とか履くのだった。
「み……短い……」
コレ本当に大丈夫か?ふとした時に見えたりしないのか?ユニは不安になる。さすがにそういった事は調べていなかった。
気にしていても仕方がない。支度を終えたユニは、恐る恐る一階のリビングへと降りて行くのだった。
「あ、姉さんおはよう」
リビングでは、すでに由理が二人分の朝食を作って待っていた。何の変哲もないシュガートーストと牛乳である。
しかし、ユニはなぜかそのまま突っ立っていた。
「どうしたの?姉さん」
「あーいや、えーっと……おれ……いや
「いや別に特に何も変じゃないけど。いつも通り」
由理は、何を言っているのかといった雰囲気で答える。
(そのいつも通りがわからないんだよなァ……)
ユニは心の中でボヤいた。
ユニはソファーに座り、自分の分のシュガートーストにかじりついた。
「そういえば、『ルシファー』は『もう会う事はない』って言って帰っていったっけな」
それはまるで何かを振り切る様な、そんな雰囲気だった。
「ルシファー」を呼び出した「魔導書」もいつの間にか消滅しており、こっちから呼び出す事はできない。
「もっと色々聞きたい事あったんだがなー」
悪魔と話せる機会などそうある事ではない。惜しい事をしたとユニは後悔した。
そうこうしていると、いきなり電話が鳴った。
スマホの画面には「
「『長寺七海』……何だか懐かしい名前だな」
ユニは口に入れたトーストを飲み込んだ上で席を離れると、電話に出た。
「もしもし」
「もしもしユニ!?今あなたの家の前で待ってるんだけど。今日は一緒に学校行く約束してたよね!?」
聞き覚えのあるハキハキした声が聞こえる。「長寺七海」、ユニの幼馴染である。
幼少期は一緒に遊んだものだが、学年が上がるにつれて段々疎遠になっていった。
男女の幼馴染というのは、得てしてそういうものである。
しかしどうやら「男女の幼馴染」から「女子同士の幼馴染」という関係になったので、高校生に至るまで関係は続いているという事になっているらしい。
しかしユニにはそんな約束をした覚えはなかった。
「約束……してたっけ?」
「約束忘れるって何だかあなたらしくないね。まあ昨日学校休んでたし、忘れてたのも無理ないか。わかった。無理せず自分のペースで来ていいよ」
やっぱり優しいな。そう思ったユニは急ぐ事にした。
トーストを牛乳で流し込み、身支度を整え、五分弱で七海の元に現れたのだった。
「おはよう」
「おはよう!昨日はいきなり休んだからびっくりしちゃった。何があったの?」
「あーいや、まあ……」
さすがに一昨日まで男だったのが急に女になって学校どころじゃなかったとは言えず、言葉を濁した。
とりあえず軽い体調不良だと誤魔化し、学校へ急ぐ。
家から学校まではさして離れてはいない。徒歩で十五分といった所だ。二人は何のトラブルもなく学校に着いた。
教室を前にビクビクするユニ。
「あのさ七海。おれ何か変じゃないかな」
「変って……別にいつも通りだけど。強いて言うならドアの前で挙動不審な行動してる所かな」
「ああそう……」
「それにそこは人の邪魔になるし」
そう七海が言ったその時、ユニにある人が話しかけてきた。
「どきなさい。私が歩く道よ」
ユニが慌ててどくと、その女子生徒は颯爽と歩いていったのだった。
「あの人は確か……」
ユニは自分の調べた情報を頭の中で洗い出した。
情報によれば、このクラスの学級委員、「緑山アキ」である。長い黒髪にスレンダーな体型が映える。
噂によると、様々な場所でアルバイトをしており、「凄まじきバイト戦士」なるあだ名で呼ばれているらしい。
そんな彼女を見送ると、ユニは慌てて自分の席に座った。
クラスの中では、「転校生が来る」という噂が広がっていた。今は四月下旬、転校生は時期外れである。
程なくして
しかし、その姿を見たユニは絶句した。
転校生は赤髪のツインテールに、八重歯が特徴的な女の子……「ルシファー」だったのである。
「イギリスからやって来ました、『内藤・メア・ルーシー』です。よろしくお願いします!」
休み時間。ユニは「ルシファー」もといルーシーを廊下に連れ出して問い詰めた。
「何でキミがここにいるんだ?しかも人間?のフリをしてまで」
「うーんそうだなー」
ルーシーは唇に指を当ててしばらく考えていたが、いきなりユニに壁ドンをした。
「『何で』って……それはね、おれがお前にホレたからだよ」
「えェ!?」
ユニは今日で一番の驚きの声を上げた。
それに構わず、ルーシーはさらにユニに顔を近づけて言う。
「だから、全てはお前があんな契約をしたせいだ。
その距離は、うっかり唇と唇が触れ合ってしまう程の近さだった。
悪魔との契約条項 第三条
悪魔との契約内容には、悪魔自身すら逆らえない。
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