契約その2 目指せharem!

 ひょんな事から悪魔「ルシファー」を呼び出してしまったユニは、彼女から契約を迫られた。


「そうだよ契約!ホラ、お前らの世界でもあるだろ?悪魔との契約の話!」


 確かにユニは、そういった話は過去に調べた事がある。


「まあ『メフィスト』とかの話なら聞いた事はあるけど」


「メフィスト」の話を聞いた「ルシファー」は、やれやれといった感じで話す。


「あー『メフィスト』かー。アイツ契約好きだからなー。そういう話は実際に悪魔と契約した人間がいて、それが次第に尾ひれがついて物語として伝わったものなんだよ」


「ルシファー」はため息をつきながら言った。


「そうなのか……」


 ユニは早速メモを取り出し、その内容を書き記した。


「もっと話を聞きたいな。『ルシファー』っていう名前は堕天使から来てるよな?果たして堕天使ってのは真実か……あるいは我々人間が勝手に付け足したイメージなのか……、そこんとこ知りたいな」


 矢継ぎ早に質問をするユニ。「ルシファー」は少しタジタジになりながら言った。


「あ……いや……そんな事よりもさ、契約だよ!契約しないのかよ」


 そういえばそうだったとユニは言った。「ルシファー」はやれやれと再びため息をつき、改めてユニに問う。


「さて……お前の願いを何でも叶えてやるぞ。ただしはつくがな」


「『願い』……『代償』か……」


 ユニは少し考え、言った。


「じゃあさ、おれを女の子にモテモテにしてくれよ」


 意外と俗っぽい願いに「ルシファー」は少し面食らった。


「あっ……そう!『女の子にモテモテ』ね!あーハイハイ……。じゃあ代償はどうする?」


「『代償』か。まあ何だっていいや。特にこっちからは指定しないよ」


 その返答に、「ルシファー」はさらに面食らった。


「えぇー!?いいの!?いや、おれが認めればどんな些細な代償でもいいんだぞ?」


「だからさ。こうして願いを叶えるんなら、それ相応の代償は支払わなくちゃだろ?」


 ユニの言い分を、「ルシファー」は黙って聞いていた。


「こっちが自由に願いを叶えて貰うんなら、そっちは自由に代償を設定して貰わないと平等じゃないじゃん」


 その返答に、「ルシファー」はニヤリと笑いながら言う。


「お前……最強の悪魔と自分が平等だって言いてェのか……!」


「そうだよ。契約者と履行者、そこに明確な格差があっちゃならないんだ」


 それを聞いた「ルシファー」の笑いが爆笑に変わった。


「ハハハハ!面白ェ男だ!いいだろう。これで契約成立だ!」


 「ルシファー」は、ユニの髪の毛を一本むしると、それを口に含んでそのまま飲み込んだ。それが契約の証という事なのだろう。


「じゃあ、契約開始は明日の午前五時からだ!恐らく人生が激変すると思うから、希望半分、絶望半分に待っててくれ。じゃあなっ!」


 「ルシファー」はそのまま宙に浮かぶと、出てきた時の様に黒い光に包まれて消えた。


 部屋には、まるで何事もなかったかの様な静寂が訪れた。


「何だったんだありゃあ……」


 まるで夢の様な出来事に、ユニはただ呆気に取られたのであった。


 ユニは、その日はいつもの通り由理と一緒に晩ご飯を食べた。


 しかし翌朝、「ルシファー」が残した言葉、「希望半分、絶望半分」の意味を、身を持って知る事になるのであった。


 ―――翌朝。


 ユニはいつもの通り目を覚まし、時計を見る。時間は午前五時半を指していた。


 ユニは早起きである。基本的に眠りは浅く、だいたい三時間ぐらい寝れば事足りる。むしろ今朝は寝過ぎたぐらいだった。


「ふぁ……ふ」


 ユニは大きなあくびをする。そこで自分の体がおかしい事に気づいた。


 さっきあくびをした時に口を抑えたのだが、抑えた手の平が何かおかしい。


 何だかいやにすべすべしていて白い。いや元々白いのだが、普段とは比べ物にならない。


 それに何だか全身が柔らかいというか、僅かながらあった男性特有の「体のゴツさ」というものがない。


 さらにやけに頭が重いと思ったら、どうやら髪がお尻の辺りまで伸びていた様だ。一晩でこんなに伸びるものなのだろうか。


 しかしこれじゃあまるで……。


 ユニはこれまでの情報から、自分の身に起きた最悪の状況を推察する。いや、あり得ない。まさかこんな事が……。


 ユニは目をつぶりながら、恐る恐る廊下の鏡の前に行き、そこで目を開けた。そこに写っていたのは……。


 お尻まで伸びた茶髪に、大きな赤い目。長いまつ毛。そして何より綺麗な形の巨乳が目を引く、紛れもない美少女の姿だった。


「う……キャアアア!」


 自分のものとは思えない甲高い叫び声。元から声は高い方だが、やはりその比ではなかった。


 ユニは慌てて自分の部屋へ風の如く引き返し、そのまま布団を被った。


「いや、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ!」


 まるで自分を言い聞かせる様にひたすら呟くユニ。性転換手術というものはあるが、とても一朝一夕でできるものではない。


 調べた事はなかったが、それぐらいは知っていた。じゃあ何で……?


 その疑問に答えを出す前に、騒ぎを聞きつけた由理がユニの元へやってきた。


「もう、朝から何騒いでるの?」


「ね……姉さん!?」


 あまりの衝撃に気絶しそうになったが、何とか持ち堪える。


「いや、そのえっと……由理。姉さん?は今日ちょっと具合悪くてさ、悪いけど学校に休みの連絡入れておいてくれ」


「あ……うんわかった」


 呼び方が「姉さん」に変わった以外はいつもと変わらないごく普通のやり取りだ。いや、変わったのは自分である。


 じゃあ原因として考えられるのは……。


 一つしかない。ユニは昨日拾ってきた本をパッと開く。


 元々解読しようとしていた本であり、解読できた箇所には付箋を貼っていたので、すぐに探し当てる事ができた。


 これで昨日と同じくを呼び出せれば……。


「それには及ばねェぞ」


 いつの間にか「ルシファー」が部屋に佇んでいた。


「あっ『ルシファー』!一体どうなったんだよおれの体!一晩で女の子の体になるなんて……常識じゃあ考えられない!」


 そう言いながら、ユニが詰め寄る。


「どうなったって……それが契約の代償さ。お前は『男らしさ』に執着があったみたいだったから、女体化させたんだ。人間の常識なんざ通用しない、悪魔の力でな」


「『悪魔の力で』って……じゃあ元には戻れないのか?」


「当然さ。契約はもうすでに履行されたんだから。お前は一生そのままだ。でもその代わり、女の子にはモテモテだ」


 その事実にユニは戦慄する。コイツにとって、男を女に変える事なんて造作もない事なのか。


「そうか……わかったよ……」


 ユニはそう呟くと、思い切り二、三回程深呼吸をした。


 今までは、想定外の出来事にずっと興奮していたが、こうする事で一気に思考がクリアになる。


 そして、「ルシファー」に向かってこう宣言した。


「……こうなったんなら仕方ない。きっとこれは楽して女の子にモテようとしたおれへの罰なんだ……」


「?」


「ルシファー」はきょとんとした顔でユニの話を聞いていた。


「だから『ルシファー』、ただモテモテになるんじゃダメなんだ。おれにホレた女の子、幸せにしてみせる。それがおれの……自分で叶える新たな願いだ!」



 悪魔との契約によって女体化させられた男の、「百合ハーレム」の野望は、こうして静かに幕を開けたのだった。


 悪魔との契約条項 第二条

「契約の代償」は、契約者側から特に指定がない場合は悪魔側が好きに決めてもよい。

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