最強悪魔と始める百合ハーレム〜っておれ男なんですけど!?〜

桃浦金竜

第一章 幸福編

契約その1 Devilとの契約!?

 「すみません、あなたがものすごく優しい事は知ってるけど、だからって恋人っていうのはちょっと違う様な……だからごめんなさい!」


 ああ、まただ。これで十人連続。緑の黒髪をなびかせ、走り去っていく女子の背中を、くすよしひとは力なく見つめるしかなかったのだった。


 ここは私立はれ学園。今年の春から入学した由仁は、すでにクラス内では「いい奴だけど恋多き男」というキャラが通ってしまっていた。


「ハハハ、ユニ、お前またフラれたのか!」


「笑い事じゃないよ!真剣だったんだから。だってあの子の趣味趣向、性格、全部調べて、メモして、考慮して、最高のシチュエーションを考えた。成功確率は九割を超えていた筈なんだ。なのに何で……」


 由仁、通称ユニは、失恋を茶化されてふて腐れながら昼食のお弁当のご飯をかき込んだ。


「そういう周到さは尊敬するよ。でもよ、ユニ。お前がめっちゃいい奴なのはこのクラスの誰でも知っている事だ」


 クラスメイトの男友達は言う。


「色々手伝いとかしたり、積極的に力になろうとしたり……そんなお前の何がいけないって、顔が中性的過ぎるんだよ。たぶんだけど『恋人』ってよりかは『女友達』って認識されてんじゃないのか?」


 クラスメイトの男友達に指摘され、ユニはカバンから手鏡を取り出して自分の顔をまじまじと見た。


 もう飽きる程見た顔だ。


 大きく綺麗な赤い目、長いまつ毛。シュッとした線の細い顔に、気持ち長めのクセっ毛でフワフワした明るい茶髪。


 頭頂部からは、ひらがなの「つ」と評される大きく太いアホ毛が生えている。そういえば、この前モデルにスカウトされた。自分は男だと断ったが。


 男友達は続けて言う。


「だからよ、おれが思うにたぶん神様がお前の性別を間違えたんだよ。仮にお前が女子に生まれてりゃ、そんな苦労もしなかったんだろうがなァ……」


 心の底から同情する様な言い方だった。ユニには、そんな彼の慰め方が一番心に来た。


 学校が終わり、ユニは家路についた。部活がある連中はそれぞれの部活に行くのだが、ユニは部活には入っていない。


「自分磨き」に忙しいからである。


 自分磨きと言っても、何も自分を美しくする事ではない。近所の道場に行き、空手や柔道、合気道や剣道といった様々な武道を学ぶのである。


 そしてボクシングや総合格闘技のジムにも入っている。見た目は華奢で弱そうなユニだが、その実並みの男性の少なくとも十倍は強い。


「自分はミスターサタンよりはたぶん強いと思う」というのは、彼自身の評価である。


 しかし今日はその道場もジムもないので、比較的早く帰れた。帰ったら風呂掃除、両親の海外出張中は妹とは家事を分担してやる事になっている。


 男である以上、「約束」は必ず守らないといけない。


 そんなこんなで家路を急ぐユニだったが、たまたまそばを通ったゴミ捨て場から、あるものを見つけた。


「ん?何だコレ」


 ユニは、普段はゴミ捨て場に捨ててあるゴミなどには一切目もくれない。それはほとんどの人がそうだろう。


 ユニが見つけたのは古めかしい一冊の本であった。まるで辞書の様に厚くて重い。


 しかしゴミ捨て場に捨ててあったにしては、表紙や中身には傷一つついていなかった。


 昔絵本で読んだ魔導書の様な、そんな不思議な雰囲気を纏った本である。


 ユニは誰に言われるでもなく、その本を脇に抱えて家路を急ぐのだった。


 家に着くと、ユニの義理の妹で中三のくすが出迎えた。


 ハートを模したピンク色の可愛いエプロンをつけている。その姿は妹と言うよりもはや幼妻である。


「あ、兄さんお帰り」


 そう言うなり、由理は兄が持っている本を見た。兄がメモ魔で調査の達人である事は知っていたが、あまり見かけない本だったからだ。


「何その本。やけに古そうだけど」


「あーえーっと……」


 ユニは言いよどむ。流石にゴミ捨て場で拾ってきたとは言えなかった。


「学校の図書館で借りてきたんだ」


 口から出まかせだったが、どうやら由理は信じた様である。


 ユニはちゃんと洗面所で手を洗った上で2階の自室へ上がった。


 ユニの部屋は普通の男子高校生の部屋といった雰囲気である。青いカーテンに似た様な色のカーペットが敷いてある。


 そして机の上に置いてある超高性能PCには、今まで調べ上げた情報の、そのアーカイブが全て記録してあるのである。


 ユニは背負っていた通学カバンを床に下ろすと、自分のベッドの上に胡座をかいて座り、そこで件の謎の本を広げた。


 本の内容は……わからない。文字らしきものは見受けられるのだが、少なくともユニが知っている言語ではない様だ。


 最初はただの好奇心だったのだが、ここまで来るととことんこの本について知りたくなってきた。

 

 ユニは、何か手掛かりはと思い、パラパラページをめくってみた。すると、一ページだけ読めるページを見つけた。


 不思議である。他のページとの違いは見受けられないが。


 ユニはそれを声に出して読んでみた。


「えーっと、『最強の悪魔、名を『ルシファー』、今ここに顕現せよ』何だこれ」


 ユニは呆れたが、ともかくこれで解読できる箇所ができた。あとはそれを元に他のページも解読していくのみだ。


 そう考え、ユニは早速最初のページからの解読を始めていこうとした、その時である。


 急に本がユニの手が届かない所まで浮かび上がり、黒い光を放ち始めた。


 やがて光は次第に人間の形を形成していき、光が黒く弾けると、その人間はベッドの上に着地した。


 その人間……いや人間というのだろうか。背中からは何に使うのか不明な黒い翼が生え、口からは鋭い八重歯が覗く。


 そこにいたのは、赤髪のツインテールに、ゴスロリの服を着た美少女だった。


「だっ誰だ!?キミは!」


 ユニは思わず尻餅をつき、後退りした。もっとも、ベッドの上なので距離は知れたものだったが。


「誰って……お前がおれを呼んだんだろうが」


 その可憐な見た目からは想像できない、粗暴な口調だった。


「おれが呼んだ?」


 ユニは頭をフル回転させ、状況を理解する。常識では考えられないが、としか思えなかった。


「つまりキミは多分『ルシファー』って名前の悪魔で、この本に書かれてた言葉をおれがたまたま読んだからここに呼び出されたって事か」


「理解が早いな。その通り!おれは最強の悪魔、ルシファー様だ!よろしくなっ!」


 『ルシファー』はベッドの上にどかっと胡座をかいて座ると、八重歯を覗かせながらニカっと笑って言った。


「だがまあ、事故で呼び出しちまったのか……どうするかなァ……」


 ルシファーは顎に手をやり、そのポーズでしばらく考えると、突然思い出した様に言った。


「あっそうだ!じゃあさ、おれとしてくれよ!」


「契約?」


 聞き返すユニ。


「ああそうさ、『契約』だ!」


 『ルシファー』はそう言うと、再びニカっと笑って見せた。


 悪魔ルシファーから提案された「契約」、それがユニの人生を大きく狂わせる事を、彼はまだ知らなかった。


 悪魔との契約条項 第一条

「魔導書」に書かれた「召喚の呪文」を唱える事で、悪魔を呼び出し、契約する事が可能である。

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