第24話 私の暮らしてる世界そんなヤベェことになってんの!?
「という感じでのう! わしはたぬきのお姉さんから旦那さまの好みを分析して、こうして旦那さま好みの女に成長したというわけじゃ!」
いやぁ、あのときの旦那さま本当に恰好よかったのじゃー! としっぽと腕をぶんぶん振り回しながらましろは言う。狐耳までぴこぴこ揺れていた。
「ふーん? 確かに話だけ聞くとロマンチックだね」
「『話だけ聞くと』ってなんか委員長、辛辣じゃねーかな!?」
俺が思わず言うと、委員長がジト目で俺を見る。
「だって、もしかしたら自分好みのかわいい女の子をナンパするための自作自演だった可能性もあるわけじゃない? なにかしれっと都合よく月のケモノ? とかいう怪物が野放しになってたし、助けるタイミングもさ、絶妙すぎない? 出待ちしてないコレ?」
「確かにあらためて聞くとめっちゃナイスタイミングだったけど違うから! 事故と偶然が重なり合っただけであって、仕込みとかない! 断じて!」
「むー、委員長はロマンがないのう。まぁ仮にわしは旦那さまの仕込みだったとしても別に構わんのじゃが!」
「え? いいの?」
「もちろんじゃ! それはつまり――わざわざそんな手間隙かかることしてまで、わしというロリ爆乳美少女を手に入れたかったということじゃろう!? その意気や良し! じゃ!」
ましろはご満悦な表情で自分の頬に両手を当て、上機嫌に体を揺らしている。
「まぁましろちゃんが納得してるなら別にいいけど……」
「いやだからマジで仕込みとかなんもないんだって!」
俺が必死になって言うと――
「あんまり言ってると余計に嘘っぽく聞こえるよ、鏑木くん」
委員長は無慈悲な真実を告げてくるのだった……た、確かに! 俺もめちゃくちゃ自己弁護してくるやつとか、すげー怪しいと思うしな!
〔いや待て、詰んでねーかコレ?〕
黙る→やっぱ仕込みだったんじゃねーの? と疑われる。
自己弁護→こんなに否定しまくるなんてこいつ怪しいぞ? と疑われる。
……ダメじゃねーか! ちくしょう、いったいどうすればいいんだ!? 真実を伝える方法がまったく思い浮かばない!
「大丈夫じゃ、旦那さま」
ましろが優しく俺に寄り添い、語りかけてくる。
「さっきわしをロリと信じてくれたように、わしも旦那さまをちゃんと信用するのじゃ。旦那さまが違うというなら絶対に違う。わしと旦那さまは、あそこであんなふうに運命的な出会いをして、必ず結ばれるようになっておったのじゃ!」
「ま、ましろ……!」
俺は感動のあまり、涙ぐみながらその小さな体を抱きしめていた。ましろもそっと俺の頭を撫でてくれる。
いつもは俺が撫でる側だが、今回は逆の立場になっていた。
「完全にバカップルのイチャつきじゃん……」
委員長が冷めた目で俺たちを見ているが、正直全然気にならなかった。
「仲睦まじい恋人同士にみえますけど、ダメなのですか?」
サラマンダーの問いかけに、委員長は息をついて肩をすくめる。
「人目を気にしなくなったらおしまいでしょ?」
「それ……あなたがいうんですか? 先ほどの発言はだいぶ、人前でしてはならない言葉がならべたてられていたようにおもうのですが……」
「あれは私のあふれ出るパッションが漏れ出てしまっただけなので、セーフ! セーフです!」
委員長は断言した。サラマンダーは呆れ顔である。
「盛り上がっているようだけどねェ」
ばあちゃんが駄菓子屋の奥から出てきた。
「ほれ、委員長ちゃんの結果が出たよ。ったく、あたしャこの手の占星術は得意じゃないんだけどねェ……。退魔師協会にきちんと頼んで見てもらったほうが確実だろうに」
「得意じゃないって、他人の適性とか見るのはほぼ百発百中じゃん」
俺が言うと、ばあちゃんは鼻を鳴らす。
「ほぼ、であって一〇〇パーセントじゃないんだよ、あたしのはねェ……現にあんたの両親の適性、微妙に見誤っていたわけだから」
「いやあれは見抜けるほうがおかしいから。一〇〇パーセント的中でいいんだよ、ばあちゃんの占い。っていうかあれは見抜いたらダメだろ色んな意味で!」
俺の言葉に、ましろが首をかしげる。
「旦那さまのご両親の適性、ってどんなんだったんじゃ?」
「聞かないでくれ……。マジで人に誇れるやつじゃないんだ、本当に。できれば誰にも知られたくない……」
俺は大きく息をついた。
「むぅ……気にはなるが、旦那さまがそこまでひた隠しにしたいというなら、今は追求せぬことにするかのう。いずれ旦那さまが明かしたくなったときに聞くのじゃ!」
わしはいつでもウェルカムじゃぞ! とましろは元気よく言った。
「ありがとな、ましろ。両親については、まぁ……その、おいおい、な?」
俺は言葉を濁した……もうホント、なんで他人に誇れる両親じゃないんだろうなぁ、と俺は嘆きたくなるが、愚痴っていても仕方がない。
「それでばあちゃん、委員長の結果は?」
「占いで見る限りじゃァ、適性は精霊術師だね。ただし属性は水だ」
「翔太と同じ……でも水ってことはウンディーネか」
「え!? なに!? もしかして翔太くんとの相性的にめっちゃ悪いの!?」
委員長がめっちゃ食いついてくる。
「悪いわけじゃないけど、ウンディーネって特に人間と恋に落ちる話が多くてさ。しかも女の精霊術師の場合、契約したパートナーの恋人と……ってパターンがわりと――」
「つまり……仲良く翔太くんをシェアできるよう、術師である私の手腕が問われると?」
「なんでそうなるんだよ?」
委員長はものすごく真剣な顔で言うのだった。
「大丈夫よ、鏑木くん……。私もウンディーネも、ちゃんと翔太くんを共有してみせるわ。ハーレムを維持するために、私も全力を尽くすと約束しましょう! ねっ? サラマンダーちゃん! 一緒にがんばろうね!」
かわいらしく翔太とサラマンダーに向かってウインクしてみせるが――サラマンダーのほうはいかにも不満げな顔で、
「正妻はわたしです! 勝手にしきらないでください!」
と言っているし、翔太のほうはちょっと呆れた顔で「あはは」と笑っている。
本当に大丈夫かよ、コレ……。今さらだが、翔太じゃなくて別のやつを連れてくればよかった、と俺は後悔していた。
「ほれ、用事も終わったし、そろそろ日も落ちる。店じまいだよ! とっとと家に帰りな」
ばあちゃんが手を叩いて解散をうながす。
俺たちはばあちゃんに礼を言うと、別れの挨拶をして駄菓子屋の外へと歩き出した。
あと各々家路につくだけ――だったのだが、委員長がひとりで帰ることを拒否した。
「だってあれ普通にヤバかったじゃん! 私はみんなと違って霊能力とかないんだから、巻き込まれたら死ぬでしょ!? っていうかさ鏑木くん、本当に今さらだけど、あのとき私が死んでたらどうする気だったの!? 私の家族にどう釈明するつもりだったの!?」
「仮に俺も翔太もましろもいない状態で襲われてたら、委員長の家族は委員長のこと忘れるというか、気にしなくなるから釈明もなにもないぞ?」
「え……? なにそれ怖い、どういうこと?」
委員長がドン引きの表情で俺を見た。そして俺から一歩、距離を取る。
「ほら、前に説明――いや、説明してなかったんだっけ? 退魔師が出張るような案件だと、そもそも依頼人とかいないって」
「え、それは確かに聞いたけど――」
「基本的に従者クラスの力を持つ悪霊に襲われた場合、ああいう隔離結界内に取り込まれて行方不明になるんだよ。で、家族のほうは認識阻害によって失踪者のことを気にしなくなる。適当に――ありがちなのは、一人暮らしがしたいと遠方に引っ越したとか、仕事や学業の関係で海外に行ってるとか……」
「存在ごと忘れ去られるってこと!?」
「厳密には『自分たちの知らないところで平穏無事に暮らしてる』と思ってる。ちなみに従者じゃなくて主人とか総裁クラスまで行くと、芋づる式に家族も隔離結界内に取り込まれて、みんな仲良く失踪したりとか――」
「この世界怖すぎない!? 私の暮らしてる世界そんなヤベェことになってんの!?」
「退魔師がちゃんとそうならないように調整してるから、実際には何も起こらないぞ? まぁ突発的な事態だと後手に回ることもあるけど」
なんせ悪霊は毎日生まれているのだ。
隠密特化みたいなのもいるし、協会が捕捉できなかった悪霊がこっそり事件を起こしたり、生まれたての悪霊がその場で大事件! なんてパターンもあったり、これでなかなか難しい。
「結局、依頼人がいるということは」
と、翔太が俺のあとを引き継いで言った。
「依頼人が無事に帰還できるか、少なくとも事件を認識できる程度の脅威でしかない、ってことですからね。退魔師が出張るようなヤバい案件だと、事件があったという事実そのものに気づけなくなりますよ」
ひぇ……と委員長は青ざめた顔で、小さく悲鳴を上げる。彼女は震える声で、
「ちょ、ちょっと――! じゃあ、なおさらボディガードしてよ! 翔太くんだけじゃ正直不安だから、ましろちゃんも一緒に来て! っていうか私が一人前になるまでずっと護衛しててもらいたいくらいなんだけど!?」
「旦那さまはよいのかのう? 戦力的には最強無敵じゃが」
ましろの言葉に委員長は、
「いやだってこの人、私を大ピンチにした張本人じゃん!? 正直ね、アレ! 私さっきから平気そうな顔してるけど、わりとトラウマだったからね!? 言っちゃあなんだけど元凶の人の印象はだいぶ悪いから!」
「難易度調整ミスったのはマジで悪かったけど……」
実際はもっと穏便に、こう――それこそ俺とましろの出会いのように、ピンチに陥るけどさっそうと助けられて、悪霊退治の危険性とそれをしりぞける退魔師の強さ! みたいなのを体験してもらう予定だったのだ。
「うーん、わかったよ。悪いんだけど、ましろ」
「委細承知なのじゃ、旦那さま」
ましろは笑みを浮かべる。
「夫のフォローも妻の務めなのじゃ!」
ぶんぶんとしっぽを振ってやる気を見せるましろ。
「いや、妻って――」
と言いかけるが、実際に失敗の埋め合わせをましろに頼んでいる時点で、どうにも否定しづらいのだった。
〔正直、もうごまかしようがなくなってきたなぁ……〕
俺は内心でこっそりそう嘆いた。
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