帰還
すっかり天誅を終えたアカネたちは、屋敷の外にいる騎士団に、かろうじて生きているロデルや使用人、チンピラたちを引き渡した。
あまりのボロボロ具合に、仲間である騎士団もアオイに恐れをなしていたが、彼女の方はドヤ顔で「これが屑の受ける報いってやつよ!!」と、親指を立てていた。
他にも、ロデルから賄賂を受け取って彼の犯罪行為を見逃し、手助けしてきた騎士や行政職員を捕えたり、子供たちの身元を確認したりと、するべきことは山積みなのだが、アカネたちの仕事自体は襲撃が完了した時点で終わりとなる。
後始末は騎士たちにお願いして、彼女たちは屋敷へと戻った。
玄関ホールでは、ケイとマナを中心に使用人たちが並び、温かく出迎えてくれた。
アカネたちの姿を確認して、メイド長が一歩前に出る。
「おかえりなさいませ、皆さま。お風呂やお夕飯の準備が整っております。特に、お子様方は体力を消耗なさっているでしょうから、お先にこちらへ」
彼女は丁寧に頭を下げると、アオイの後ろにいる子供たちにニコリと微笑む。
数十人もいる子供たちをいっぺんに保護できる場所というものは、そう無いため、アオイはケイに頼み込み、しばらくの間、子供たちが屋敷に滞在することを許してもらっていた。
また、本来は事件の調査や手続きのために、出来るだけ子供は一か所に集まっていた方が良いのだが、騎士の側が融通を利かせ、喫茶店の子供だけはその場に残って両親と暮らすことが許された。
子供たちは、身体上の傷は
衛生状態も相変わらず悪く、空腹状態だ。
疲れ果て、立ったままうつらうつらと居眠りを始める者もいた。
「アオイ姉ちゃん……」
屋敷や使用人そのものに対する恐怖が拭いきれないのだろう。
小さな子供たちを始めとし、年長者のトムでさえも、怯えた瞳でアオイを見つめる。
するとアオイは、少し前まで怪獣のような勢いで屋敷内を暴れまわり、破壊の限りを尽くしたとは思えないような、穏やかで優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫だ。ここの人たちは、皆いい人たちだから。ご飯はすごくおいしいし、お風呂は温かい。ぬくぬくのベッドだって、準備してくれてるんだ」
ポンポンと頭を撫で、駄目押しで両手のグッドサインを見せてやれば、子供たちの表情に笑顔が戻る。
「わあ! ありがとう! 姉ちゃん!!」
数人の子供たちがギュッと抱き着いてくるのを、アオイも抱き返した。
「お礼はあたしじゃなくて、ケイ様やお嬢様、それに、使用人の皆に言うんだぞ。姉ちゃんとの約束だからな!」
子供たちはコクコクと頷いて、使用人について行く。
アオイたちが彼らに手を振っていると、ケイがコホンと咳払いをした。
ケイはマナと同様に四枚の柔らかな耳を持つ、モフモフな獣人だ。
毛の色は薄い茶色であり、狐のような尻尾がのんびりと揺れている。
また、彼は金糸で飾られた純白のスーツを身に着けており、背筋をキッチリと伸ばして姿勢よく立っている。
非常に品のある、
「皆様、ルメインの治安改善にご協力いただき、誠にありがとうございます。皆様にもお風呂やお食事の用意をしてございますので、本日はゆっくりとお休みください」
まずはアカネたちに丁寧に頭を下げ、それからアオイを見た。
「アオイも、お疲れ様。正義のために力を
アオイは屋敷の使用人であるし、子供たちの居場所を提供してもらっていることや、ベーテルラッド家でディルが捕らえられたことなどからも、キチンと襲撃について説明する義務がある。
申し訳なさそうにするケイに、「かしこまりました」と頷いたのだが、
「え~!? せっかく私、こんなに
と、マナが抗議の声を上げた。
プクッとリスのように頬を膨らませ、ケイをジッと睨みつける。
「仕方がないだろう、マナ。子供たちの今後についても話さなきゃいけないんだから」
妹に弱いケイが困ったように頭を掻いていると、アオイがサッと屈み、マナに目線を合わせて微笑んだ。
「お嬢様、きっとお話はそう長くございません。ですから、よろしければ、このアオイのために、もう少々お時間を頂いてもよろしいですか?」
ちょこんと愛らしい肉球付きの手を握って問いかければ、マナはパアッと表情を明るくし、
「しょうがないわね! 私は優しい主だから、たかが専属メイドのために、いっぱい時間を使ってあげるのよ! 感謝してよね!!」
と、高飛車に言い放って、ちぎれさせんばかりに尻尾を振った。
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