第13話 出撃する東方覇竜一派

 東方覇竜親衛隊にとって、メイ――というよりミニチュア・ドラゴンは、目障りな存在だった。


 本来なら殺処分されているはずのである。光輝ある親衛隊からすれば、メイはあり得ないイレギュラーだったのだ。


 ミニチュアがなぜ殺処分されるかといえば、竜として恥だからである。なにせ竜に変身できないという致命的すぎる欠陥をかかえている。


 ドラゴンは、竜化という切り札によって通常よりもはるかに強い力を発揮するのだ。


 ところが、ミニチュアは肝心の竜化ができない。そればかりか、ドラゴンとしての強さをまったく持ち合わせていないのだ。


 俗に言う、「ニューマンよりも強靭な肉体とフェアリーを上回る莫大な魔力」を持つのがドラゴンだ。ところがミニチュアと来たら、「フェアリーよりも脆弱な肉体にニューマンを下回る微弱な魔力」しか持たない。


 弱い、あまりにも弱いのだ。


 このような存在が、よりにもよって東方諸島出身というだけでも前代未聞の大醜聞。挙げ句、世界的にも知られる東方諸島の名所「冥府のダンジョン」探索者として名を馳せるなど恥辱の極みだった。


 そこに来て――中央覇竜からの鶴の一声である。


 シズクは元来、東方覇竜が目をつけていた娘だ。なのに横合いからかっさらわれるような形で、メイに奪われた。


 いや、そればかりではない。シズクの母はミニチュアを生んでいたのだ。しかもそのミニチュアも生きている――どころか中央覇竜に目をかけられ、修行まで積んでいる。


 なんたる屈辱か……! エリートたる己ではなくミニチュアなんぞが選ばれるなど本来あってはならない!


 ――というのが、東方覇竜親衛隊の大方の意見であった。


 もちろん東方覇竜本人だっていい気はしていない――レイジは知らなかったが、父とのコミュニケーションが多かったチエリからすれば、不機嫌な様子は容易に見て取れる。


 実のところ、次兄レイジがシズクに懸想している……という噂が立ったときなど、これ見よがしに顔をしかめて不愉快極まりないという態度を隠そうともしなかったのである。


 父だけではない。母も、長兄も、姉も、なんなら一族のほかの者たちも、みんなメイという存在、ミニチュア・ドラゴンがちやほやされている現状に不満をいだいていた。


 だからこそ、親衛隊の暴走を誰も諌めなかった……。いや、もっとはっきり言ってしまうなら、最初から加担する気満々だったのだ。


 メイが竜群島を出ていくつもりだ、という情報そのものは、親衛隊も東方覇竜の一族もつかんでいる。もとよりメイ自身、その情報を隠していないのだから知っていて当然だ。


 そして、メイがそろそろ竜群島を出ていくつもりらしい――という情報が入ったところで、親衛隊によるメイ暗殺の計画が持ち上がった。


 普通なら暗殺など極力隠さなければならないことだ。


 しかし、メイ暗殺は大っぴらに――少なくとも東方覇竜邸のなかではごく自然に相談されていた。


 あのような不出来な存在が名声を得るなど間違っている――それが彼らの理窟だったのだ。


 そして、実際に暗殺を強行しようという段になって、事件が起きた。敬愛する次兄レイジがメイと戦い、重傷を負ったのだ。


 レイジ当人は誤解していたが、親衛隊や一族からのレイジの評価は高かった。それはそうだろう。若くしてレッサーからグレーターにまで成り上がったのだ。


 さらに荒くれ者どもをまとめ、島外からも挑戦者を集める戦闘興行を作り出し、きちんと運営して結構な儲けまで出している。


 新たな産業として注目を集める新進気鋭の辣腕家! さすがは東方覇竜の息子! 一族でも経営者としての才覚に恵まれている!


 ところが、そんなレイジをメイがボロボロにした……。メイが島外へ出ると同時に打って出る! そんなふうに準備していた親衛隊の怒りにいっせいに火がついた。


「もう我慢できん! 島外へ出るなど待っていられるか! 東方覇竜の息子が破れたのだ。仇討ちに我らが出向いたところで誰が咎められよう!?」


 親衛隊長はそう宣言し、鬨の声が上がった。


「閣下! どうかご決断を!」


 親衛隊長は、父に――東方覇竜にそう迫った。


「出るぞ」


 父は言った。簡潔に、力強く。


 ふたたび鬨の声が上がり――そうして一族総出で親衛隊を率いての出陣となった。五十名を超える精鋭部隊。負ける気配は微塵もなかった。東方覇竜の軍勢は、次兄とメイがいる湖畔の遊歩道にむけて飛行しながら進軍していく。


 物々しい様子に、何事かと人々が集まってくる。


 目的の遊歩道――というより湖は窪地にあった。まるで円形闘技場のように、湖の周辺に大勢の観客がやって来る。対岸のほうにまで、人々がなんだなんだと集まってきていた。


 メイは、動こうとしなかった。


 逃げる気はなく、ただ静かに軍勢が近づいてくるのを待っている。そして、その余裕を感じさせる態度が――親衛隊の、一族の怒りにさらなる火をつけた。


 なぜ逃げない? 勝てると思っているのか? どうして自分が無事で済むと、何事も起こらないとのんきに構えていられる? お前の死が迫っているのだぞ!?


 飛行しながら、呪詛のようにそんな言葉を吐き出す。やがて一族と親衛隊は、遊歩道へと降り立った。眼前にはメイがいる。

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