第2話 積極的なノノ
「ノノのほうは一応……俺のことを男として意識してるような気はする」
「『気はする』とは正直心外でございます、我らが主」
スルッと姉の体から飛び降りて、ノノはメイのそばまで一瞬で移動する。そして、いきなりメイに抱きついてキスをした――しかも舌まで入れて!
「ちょっとー!? 公衆の面前でのキスってわたくしも自重してましたのに! というかそれありなんですの!? ねぇメイさん、それわたくしもやっちゃっていいんですの!?」
「なんか反応おかしくない?」
メイは渋面をリンネに向ける。
「っていうか今のは証明でしょ。俺が……まぁ煽るつもりなかったんだけど、結果的に煽る形になっちゃったから」
「それはわたくしもちゃんと理解してますけれど――でも正直わたくしもやってみてぇんですわぁ……! 公衆の面前で! なんならキス以上の行為も!」
「……これ一回きりだし、向こうに着いたらできるだけリクエストには応じるから、頼むから衆人環視プレイは自重してほしい」
メイは真剣な顔で言った。
「さすがに冗談ですわよ。おまわりさんに捕まりますし――というか今、できるだけのリクエストに応じるっておっしゃいまして!? 男に二言はないのですよね!? それはつまり、ノノちゃんも合わせてオーケー! という意味に受け取っても!?」
リンネは表情を輝かせる。
「即座にその反応……本当に欲望の権化で驚くよ」
呆れ半分、といった様子でメイは微苦笑した。そして未だに抱きついているノノを引き剥がして、
「悪かったよ。確かに『気がする』じゃないな、これは。ノノは明確に俺を『異性』だと認識してる」
「わかっていただけてなによりでございます」
満足げなノノに、メイはため息混じりで問うた。
「で、そのハーレム志望のお姫さまはマルチプレイがご希望らしいけど?」
答える代わりに、ノノはサッとリンネのそばまで駆け寄って、メイにしたように口づけをした――もちろん舌まで入れて。
〔あ、このコ……結構テクニシャン〕
ふへ、という笑い声がリンネから漏れる。ノノが唇を離した。
「わたしを介してのメイさまとの間接キスです。いかがです? お気に召しましたか?」
リンネはメイと違って背が高いので、ノノは首どころかパンダのように抱きついていた。ぎゅうぎゅうと大きな胸が、リンネの大きな胸に押しつけられている。
「にわか仕込みですけど、姫君がお好きかと思ってこれも覚えてみました」
ノノは器用に舌を動かしてみせる。
「やだ、このロリ爆乳――すっごい積極的ぃ……! いいですわぁ!」
とろんとした顔でリンネは言った。
素晴らしい娘だ、パーフェクトだ、と彼女は内心で思った。だが、即座に懸念が頭のなかで浮かぶ。
「いえ、お待ちになって! 年齢は!? 年齢的にありなんですの!?」
「なんでそういうとこだけ常識的なの? おかしくない?」
メイは本気で疑問に思っているらしく、いぶかしそうに訊いてくる。
「大事なことですわ! もう警察に逮捕されるのはさすがに勘弁ですもの!」
「ああ……地味に効いてたんだ、アレ」
「当然じゃねーですの!? わたくしだってねぇ……! さすがに欲望に忠実すぎてやべー目に遭った自覚くらいはありますのよ!?」
「わたしの年齢でしたら大丈夫ですよ。こう見えても十九歳ですから」
「まさかの年上!?」
リンネはびっくりした。
とはいえメイの例を見ると、そこまで驚くには値しないのかもしれない。確かにノノもメイと同じで子供のように見えるが、胸だけは不釣り合いに大きい。
そこだけは豊満で成熟していた。
「ふふ、こう見えてもわたしはちゃんと合法でございます。お好きなようにかわいがってくだされば……と思っております」
「かわいがるのもいいですが――わたくしのほうがかわいがられるのは、ありですの?」
ノノは意外そうな顔をした。
「攻めがお好み――いえ、この場合は受け攻め両方でしょうか? ふむ、正直どうでしょうか? 何分、わたしも姉さまも未経験者でして……あまり高度なプレイスキルをもとめられても、はたして応じられるかどうか……」
「そういえばあなたのお姉さん……確か、彼氏がいるとかなんとか、そういう話をメイさんが――」
「そ、それは誤解です!」
リンネの言葉をさえぎって、大声が響いた。声の主であるシズクはハッとした様子で体を縮こませて、遠慮がちに付け加えた。
「その――あの男とのトラブルは、そもそも向こうが一方的にからんできたもので……私はちゃんと、閣下の許嫁として――」
最後のほうは自信なさげな弱々しい声音に変わっていった。
「その辺の委細については、向こうに着き次第、当人の口から語らせるといたしましょう。もちろん姉さまの証言もきちんとまじえて」
妹がフォローするように言った。それから、ノノは意味ありげにリンネを見上げる。
「姫君も、心の準備をなさったほうがよいのではありませんか? なにせメイさまのご両親に挨拶をするのです。やはり第一印象は重要かと……」
一瞬、リンネは言われている意味がわからなかった。
「え? メイさんのご両親って亡くなったんじゃ――」
そう思ってメイのほうを見れば、よどみなく動いていた手が止まっている。そして気まずそうな顔で、ノノを横目でちらりと見た。
「えーっとさ……もしかして、全部バレちゃってる感じ?」
「はい」
ノノはニッコニコだった。
「グレーター・ドラゴンのふりしたアーク・ドラゴンやエルダー・ドラゴン、死んだはずの人と入れ替わるように突然生えてきた書類上の兄弟姉妹や親戚など……すべてきれいに白日のもとにさらされております」
だいぶヤバいことを口走っているような気がするのだが、ノノの声はひたすら能天気で明るかった。
「あ、ご心配なく。書類の偽造にたずさわっていた役人たちは全員出世して、現在は高官の地位におりますから。なにせ幼き日の我らが主のご意向を受けての行動ですので、罪に問われることは決してございません」
実にさわやかな笑顔でノノはそう答えるのだった。
「え……? な、なんですの? つまり――死んだのは嘘ってことですの!? なんで!?」
メイにむけて問いかければ、相手は頬をかきながら、
「いや、単純にそのほうがトラブルが少ないだろうっていうのと、あと慣例というか慣習というか――」
「まぁまぁ姫君! そういったことも向こうに着いたらきちんとご説明いたしますので」
助け船を出すようにノノが言った。
「まずは閣下のご両親に会ったら、どうご挨拶すべきかを考えましょう。心構えのあるなしでだいぶ違いますから」
「そ、それは確かに……そのとおりですけれど!」
突然の事態に、リンネは右往左往した。
メイ自身が、両親は亡くなった、とさらりと言ってのけたので、まさか両親への挨拶イベントが突如発生するとは予想もしていなかったのだ。
「ま、まずは『息子さんをわたくしにください?』それとも『息子さんと結婚を前提にお付き合いさせていただいているリンネです』かしら? い、いえ! そもそもわたくしがハーレムを作りたがっていることがバレたら悪印象になるのでは!?」
「だからさ、なんでそういうところだけ常識的なの?」
乱れまくるリンネの心に、メイの冷静なツッコミが入った。
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