第20話 白騎士との戦い
「実は自分の力がよくわかんなくなっててさ」
メイは意外な告白をした。ほう? と白騎士は興味深そうにあごを撫でる。
「自分では強くなったつもりでいたんだけど、覇竜一家とやり合ってわからなくなった」
「想像以上に苦戦して?」
逆だよ、とメイは苦笑した。
「弱すぎた。相手はエルダー・ドラゴンで、親衛隊はアーク・ドラゴンの集団だ。強い強いと聞いていたのに、思った以上に弱かった……。彼らがたまたまエルダー級、アーク級にしては弱かったのか、それとも俺が強いのかちょっと疑問に思っちゃってさ」
だってそうでしょ? とメイはかわいらしく首をかしげる。
「いくらなんでもエルダーとアーク・ドラゴンの集団を相手に、あんなあっさり勝てるわけがない。仮に俺の力がエンシェント級だとしても、もう少し苦戦しなきゃおかしいと思うし……だから自分の実力がどの程度なのか、わからなくなった」
メイは歓喜に満ちあふれた顔で、一歩前に踏み出す。
「だから――ここでやり合えるのはとてもありがたい。千年を生きた、エンシェント級のニューマン。大陸最強の騎士」
メイはゆっくりと右手の拳を握りしめる。
「俺の強さが、ようやくわかる」
ダンジョンにこもりきりで、ずっと謎だった――ひとりごとのようにつぶやくメイに、白騎士は間髪を容れず斬りかかった。
神速の振り下ろしだった。
リンネには、いつ白騎士が抜剣して動いたのかさえ見えなかった。気がついたらメイの間近に白騎士が迫っていた。抜き身の刃が、今まさにメイにむかって振り下ろされようとしている。
だが、その刃がメイを引き裂くことはない。
メイの動きは最小限だった。リンネの目には、メイの動きが恐ろしくゆっくりと見えた。まるで旧人類の動画で見た、スローモーション演出のようだった。
メイはそっと右手を上げると、振り下ろされた刃に手の甲を当てて、ほんのわずかに軌道をずらした。切っ先はメイの隣に突き刺さって床を斬り裂いた。あまりの威力に、部屋の端まで亀裂が伸びる。
そうして、少し遅れてから轟音が響いた。
「いきなりだね」
「戦で不意打ちは当然! まして相手がエルダー級とアーク級のドラゴン集団を一蹴する怪物ともなれば……」
メイはそのまま右拳を白騎士に叩き込んだ。いつの間に出したのか、白騎士は純白の盾をもってメイの一撃を防ぐ。
しかしその場に踏みとどまっていられず、突き飛ばされる形で床を破壊しながら後退していく。
「盾に強化魔法……!」
メイは目を瞠った。
「驚いたな。ニューマンは魔法が苦手だと……」
ふー……! と息をつきながら、白騎士は答える。
「伊達に長生きしておりませんよ。強化魔法くらい、使えます」
白騎士の魔力が高まった。肉体だけでなく、身につけている剣や盾、鎧にさえ魔力がまとわりついていく――魔法の苦手なリンネでさえ、フィジカルだけでなく装備が強化されているのが感じ取れる。
「ここから本番ってわけかな?」
「不意打ちが失敗した以上、気配を殺す意味もありませんからな。全力の、真っ向勝負です。東方覇竜どの」
そのお力、確かめさせてもらいますぞ……! 白騎士は言葉とともに、空気を引き裂いて突進した。
左手に盾を、右手に剣を持ち、二つの武具を巧みに扱っているようだった――ようだった、というのは二人の動きが速すぎて、リンネの目では完全に捉えきれないからだ。
かろうじて白騎士が剣だけでなく、盾まで打撃武器として使っているのがわかっただけだった。
メイは白騎士の刃をかいくぐり、さばいて、蹴りや拳を叩き込んでいた。が、白騎士は左の盾でメイの打撃を防ぐ。そうして、隙をついてまるでパンチをお見舞いするように盾で殴りかかるのだった。
二人の戦いはすさまじく、空気が揺らいで、竜巻のような衝撃波が起きている。
部屋は二人が放った斬撃と打撃でめちゃくちゃになり、床も壁も天井もどんどん亀裂が入って、王城そのものが崩れるんじゃないかと危惧したほどだった。
謁見の間にいた騎士たちは、大慌てで戦えないものを避難させている。
もちろん女王も護衛に連れられ、あっという間に場を離れた。二人の戦いの余波が及ばぬよう、雇われたらしいフェアリーの魔術師たちが強力な結界を張っているが、焼け石に水のようだ。
結界は窓ガラスのようにひび割れ、音を立てて砕け散る。防護結界はほとんど意味をなしていない。結局――リンネもセバスとカノンを連れ、少しずつ後退して謁見の間から、ひいては王城から退避した。
人払いが済んだと二人が気づいたのか、それとも偶然か……戦いの規模が突如大きくなった。いきなり城がぶっ壊れて、崩壊する瓦礫の中を二人の人間が駆け抜ける。
白騎士が剣を振るうたびに旋風が巻き起こって、砕け散った城の破片が飛び散る。メイが踏み込むたびに地面が陥没し、巨大なクレーターができる。大地震が起きたように大地が揺れ動く。
王城どころか城下町のほうまで大混乱が巻き起こっていた。町からは怒号や悲鳴、逃げ出そうとする人々の足音が、洪水のような音色を立てている。
〔これがエンシェント級の戦い……!〕
周りの被害もお構いなしだ。
いや、そもそも全力でやり合うと、どうしても被害を出さざるを得ないのか。伝承に謳われるとおり、確かにこれは……災害としか言いようがない。
かつて覇竜戦争において、エンシェント・ドラゴンを始めとした各種族のエンシェント級が大軍を率いて戦った結果――スペード大陸の大半が消失、竜群島に変わったという話も、あるいは眉唾ではないのかもしれない。
リンネは激闘を繰り広げる二人を見ながら戦慄した。
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