第19話 コーラル王国での謁見
謁見の間には、大勢の貴族や騎士、廷臣の姿が見えた。
メイの移動速度があまりにも速く、その日のうちにコーラル王国に到着した。もちろん、東方覇竜が向かうことは事前に電話で知らせてある。
だが、いくらなんでもその日のうち――どころか、五分も経たずにやって来るなんて向こうも思わないだろう。
一応、訪問前の先触れとしてセバスを向かわせておいた。だが、たぶん謁見の許可は取れまい、とリンネは考えていた。なにせ行動が迅速すぎる。
だから、即日対応となったことはリンネにとって大きな驚きだった。
〔それだけメイさんのことを重視している、あるいは扱いかねている……ということですかしら〕
正直、門前払いで帰され、宿に何日か逗留して――という形になると思っていた。
「ようこそいらっしゃいました、東方覇竜メイどの。コーラル王国女王が歓迎します」
女王はそう言って、神妙な顔でメイを見つめた。
「はじめまして。東方覇竜のメイだ。歓迎に感謝するよ」
メイの言葉に、あからさまにホッとした空気が流れた。おそらく、とリンネは思った。もっと傍若無人な人物を想定していたのだろう。
なにせ『暴虐竜』などという二つ名がついているほどだ。
しかも事実上、先代の東方覇竜から力で地位を簒奪した男(見た目は美少女だが)。もっと横柄な振る舞いをするのではないか、と恐れていたのだろう。
〔先日の結婚式での脅しも効いていそうですわね、これは……〕
リンネは素早く周りを観察しながら心の内でつぶやいた。
「あまりにもお早いお着きで驚いています。あなた方の出立を知らされたのは、ほんの三十分ばかり前でしたが……」
あどけなさの残る女王は、できるだけ威厳を出すように気を張っている様子だった。
「さっさと用事は済ませたほうがいいかと思ってね。悪気があったわけじゃないんだ。迷惑だったんなら申しわけないが、俺はその手の作法に疎くてね」
「いえ、急な継承であったゆえに現東方覇竜どのは突拍子もない行動をとることがある……とそちらの」
女王はリンネに目を向ける。
「ヒスイ王国から事前に知らされておりました。どうかお気になさらず」
「そうか。じゃ、まどろっこしいのは苦手だから単刀直入に」
メイの言葉に、女王は体と表情をこわばらせた。周囲の貴族、護衛の騎士たちも緊迫感をただよわせている。
「雨雲さまの封印を解く。許可をもらいたい」
「……雨雲さまは、ヒスイ王国に封じられている伝承の魔物です」
女王は緊張した面持ちで、ためらいがちに答えた。
「それをどうするかは、ヒスイ王国が決めることであり、我が国が干渉してよいことではありません」
「でも実際に封印を解いて、万が一とんでもない大被害を巻き起こしたら、そんな悠長なこと言ってられないでしょ? 絶対文句をつけてくるし、だから向こうは俺に許可を取ってきてくれと頼んだわけで」
「当然です。ヒスイ王国の決断は尊重しますが、我が国がなんらかの被害を受ければ非難せざるを得ません」
決意を固めた表情で女王はメイを見据えた。メイは首をかしげる。
「つまり被害を受けなければ問題なし? 俺じゃ倒せないって認識なの?」
「まさか。わたくしどもが東方覇竜どののお力を疑うなどあり得ません。ただ、相手は伝説に謳われる魔物です。警戒しすぎということはないでしょう」
「まぁそりゃそうだけれど。んじゃどうすればいいのさ?」
「わたくしたちとしましては、もっと慎重に事を運ぶべきではないかと考えております」
「具体的には?」
「敵の情報が不足しております。雨雲さまがどのような魔物で、どのような能力を持ち、どのような被害が起きたのか……それをもっと詳細に――」
「相手、何千年も前の魔物だけど、記録を洗ったところで正確な情報なんて得られないと思うよ?」
「だとしても、やれる限りのことはやるべきでしょう」
「んー……まどろっこしいな。一応、結婚式のほうで俺のパフォーマンスはちょろっと見せたつもりだったけど、あれじゃ足りない?」
少しばかりイラついた口調でメイが言った。女王の顔がこわばる。
「確かに、我が国からも……何人かはそちらのお二方の結婚式に出席してはいましたが、直接見たわけではなく――」
メイは小さく息をついて笑った。
「じゃあ直接見せたらいいの?」
メイの言葉を受けて、一人の騎士が歩み出した。
女王の隣に控えていた大柄な男で、真っ白な甲冑姿で剣を吊り下げている。若々しい見た目だが、妙な威厳があった。
「お相手願おう」
女王が少しばかり慌てた様子で玉座から立ち上がろうとした。が、騎士が手で主の動きを制す。段取りと違う流れで焦ったのかもしれない。
「陛下、失礼ながら東方覇竜どのはまどろっこしいのが苦手なご様子。ここは率直に行くべきでしょう」
それに、と騎士は口の端を吊り上げて不敵に笑う。
「年寄りも気が短くなってしまいましてな。こういったやり取りをわずらわしく感じてしまうものなのですよ」
「へー、気が合うね」
メイはにっこりと笑みを浮かべた。場に似つかわしくない無邪気さを感じさせる美少女のほほえみだった。
「有名だから知ってるよ、白騎士。現存する唯一のエンシェント・ニューマン。千年を生きる大陸最強の騎士」
「ご存じとは光栄です」
白騎士は一礼した。
「しかし、千年を生きたのは自慢になりますまい。おっしゃられたとおり、私はエンシェント級です。寿命は一六〇〇年」
寿命は進化することで倍に伸びていく。
基礎寿命はドラゴン以外は一〇〇年、竜のみが二〇〇年だ。つまりエンシェント級なら竜以外は一六〇〇年、ドラゴンのみが三二〇〇年を生きる。
「天寿を全うできるとは限らないでしょ? 特に強いやつは誰かに殺されたりするパターンが多いって聞くよ」
「確かに、そういった傾向はありますな」
「生き残れたのなら……それは強さの証明だよね」
「血の気が多いですな」
白騎士はにこやかに笑った。
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