第15話 素質がないメイとリンネ
「ちなみにそのパワーアップって俺でもできるの?」
メイは興味深げにカノンを見た。
「え? そこに惹かれるんですの? 見た目とか性格とかじゃなくて?」
「性格は知らないけど、見た目に関しては思いっきり外れてるよ。さっきも言ったとおり」
メイは苦笑いで答える。
「そうじゃなくて――ロリエナジーが何なのかはわからないけど、少なくともセバスが強くなってるのは確かだ。つまり、彼女の力の本質は他者の支援・強化……にあるのか?」
メイが立ち上がって、セバスたちに近づいていく。慌ててリンネもついて行った。そうして、二人してカノンと手を握った――が、リンネはなにも感じられず、いぶかしげな顔をする。
「その様子だとリンネもダメみたいだね」
「メイさんも?」
「全然パワーアップしてない……ロリコンというか、セバスのようにロリエナジーを感知できるやつ限定? どっちにせよ、俺には無理かな」
メイは肩を落とすと、完全に興味が失せた顔でソファに身をしずめた。
「こりゃカノンの相手はセバスで決まりだね」
国王は微苦笑で告げた。
「覇竜への貢ぎ物にならないかと思ったんだけど」
「もらっても困るものを贈らないでよ。そもそもセバスの相手として連れてきたんでしょ。だったらセバスと結婚させなよ。本人も――たぶん、これ、そのつもりだったでしょ?」
カノンはあからさまにホッとした顔をしていた。メイの関心がなくなったことを心から喜んでいる様子だ。
国王はからかうように言った。
「昔の逸話に、覇竜は人妻を貢ぎ物に要求した、というのがあったからね。ニューマンの国では有名なんだよ。特に命をかけて拒否した夫婦が『俺は寛大だからな。じゃあ娘をよこせ。かわいい子を産めよ?』と言われた話とかね」
「その話は私も知っています」
セバスが神妙な顔で告げた。
「わかりました。不肖このセバス、必ずや愛らしい娘を育ててメイさんに捧げましょう」
「いらないから。というかなにその話? 俺、そこまで傍若無人なやつだと思われてるの?」
メイは心底イヤそうに言った。
「昔の覇竜のことは知らないけどさ、変な噂が立ちそうだから本当にやめてほしい」
「すでに暴虐竜という二つ名がついているけどね」
「悪名にさらなる悪評を加えないでほしいかな。俺が望んで行動した結果の悪評なら、そりゃあ文句もないけどね」
吐息混じりにメイは言う。
「さすがに周囲の勝手な押しつけで悪名はうんざりするよ」
「ふぅむ、二つ名に反して――思った以上に理性的というか、『暴虐』のイメージと程遠い御仁だね。正直、意外だよ」
国王は目を丸くする。
「部下からの報告を受けた印象では、もっと荒々しくて傲岸不遜な人物を想像していた」
「噂と実際に会った相手じゃ、そりゃ違うと思うよ」
メイは頬杖をついて、どうでもよさそうに言った。
「あんたの部下がどういうやつかは知らないけど、たぶん俺と直接会ったり話したりしたことはないだろうし、そりゃ伝聞で聞いたことをまとめたって、相手の実像なんかつかめるはずがない」
「お説ごもっとも。しかし部下を責めないでやってくれ。さすがにミニチュア・ドラゴンと交友を持とうとするニューマンはそうそういないし、探索者として有名になって以降は気軽に会える相手じゃないからね」
「まぁ、そりゃ俺だって見知らぬ他国人と積極的に会おうとは思わないけどさ……」
メイは苦笑いを浮かべ、振り払うように手を横に振った。
「っていうか俺の話はいいよ。覇竜どうたらは竜群島に戻って直接訊くし」
「目的は雨雲さまかな?」
「知ってるなら話は早い。封印を解いて倒す」
「理由を訊いても?」
「興味本位と修行」
メイは簡潔に答えた。
「まぁ単純に、かつての伝説がどれくらいの強さなのか知りたいっていうのが半分。強い魔物を倒せれば、俺がさらに強くなれるっていう期待が半分だよ」
「飽くなき強さを追い求めるミニチュア・ドラゴンか……。『強さこそがすべて』となると、まさしく大昔のドラゴンそのものだね」
まいったまいった、と言わんばかりに国王は両手を上げる。
「あんたの立場上、簡単に了承できないのは理解できるよ」
「おや? その辺まで織り込み済みか」
国王は意外そうに言った。メイは眉をひそめる。
「さすがにバカにしてない? そりゃ危険な魔物の封印を解け、なんて一国を預かる立場の人間なら承諾できるわけがない」
「いや失礼。ついさっき自分が望んで行動した結果なら――という言葉を聞いたばかりなんでね。自分のやりたいことは他者の都合などお構いなしで実行かと思ったよ」
「いくらなんでもそこまで自分勝手じゃない。他人の事情くらいは考慮するよ」
「だがやめる気はないんだろう?」
こくりとメイはうなずいた。
「では、東方覇竜どの。ちょっとばかり協力していただこう」
国王は不敵に笑ってみせた。
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