第14話 ロリエナジーでパワーアップするセバス

 セバスは警戒するように下がった。


「いやなんで近づかれて逃げるの?」


 メイが困惑の顔つきでたずねた。


「わかりませんか?」


 セバスは肩で息をしながら答えた。


「私はロリコンです。確かに常人であればこのエナジーを見ても平静でいられるのでしょうが……! はたしてこんなとてつもないロリエナジーにさらされて、私は自分が無事で済むのか確信が持てないのです……!」


 しかしメイドの少女――カノンはセバスの心配をよそにあっさりと近寄った。距離を詰め、セバスとふれあうほどに近づく。


 瞬間、ぐぁぁぁぁ! と声を上げて、セバスが吹き飛ばされた。壁に激突する直前で、セバスはなんとか踏みとどまった。


「無事で済むのかって理性とかじゃなくて物理的な意味なんですの!?」


「当然じゃないですか……!」


 セバスは実に悔しげに答えた。目に涙さえ浮かんでいる。


「我々とて理想のロリータとふれあいたい! ですが……! イエス・ロリータ・ノー・タッチの精神により弾かれてしまう……! ロリータへの想いが強ければ強いほど! 彼女のような甚大なロリエナジーは我々を拒絶する!」


 わかりますか!? とセバスは叫ぶように訴えた。


「実のところ、真なるロリコンは彼女のような本物のロリータ少女にさわることすらできないんです! ロリエナジーが彼女たちを守護しているがために……!」


 セバスはグッと拳を握りしめた。


「いえ……! もちろんそれは素晴らしいことです! 我々とロリ少女がふれあうことは、あってはならない! 彼女のような理想の――容姿・性格・ロリエナジーの三拍子が揃った少女が我々の毒牙に侵されることは決してない……! そう、彼女たちは不可侵、不可侵なのです!」


「それ泣くほどショックなんですの?」


 呆れ混じりにリンネが訊くと、セバスは恨みがましい目を向けてきた。


「お嬢さまだって理想のメイさんといっさいふれあえない、さわることも抱きしめることもできないとなったら発狂するでしょうに」


「それは確かに狂いますけど」


「狂うんだ……」


 メイは微妙そうな顔をした。


「俺は別に理想の女の子といっさい関われなくても正直なんとも思わないかな……。だって関われないのが普通の状態なわけだし」


「自己評価が低いね」


 と国王が苦笑いを浮かべた。


「天下の覇竜なんだからハーレムくらい作っても当然だろうに。先代の東方覇竜みたいな一人の妻しか愛さないタイプは非常に珍しいだろう?」


「リンネみたいに俺を『男』と認識してくれる相手がいたら考えるよ」


「むむ、なんですの? 恋人の前で堂々と第二、第三夫人を作るだなんて」


 ちょっと不満そうにリンネは頬をふくらませた。メイはなんでもないことのように手を振る。


「どうせそんな物好きはいないだろうから、考えるだけ無駄だよ」


「わたくしは結構危惧しておりますけど?」


「まぁ実際いたら作っちゃいそうな気はするけどさ。やっぱりリンネはイヤ?」


「そりゃあ――」


 とリンネは答えかけてから、


「いえまぁ……三人プレイとか、正直、憧れがないわけじゃねーんですけど」


「憧れるもの間違ってない? っていうか本当に欲望に忠実だね」


 メイは呆れ顔で息をついた。それからセバスとカノンを見て、


「っていうか、こっちはどうするの? なんか理想の相手に吹っ飛ばされてるけど」


「その辺は彼女がどうにかするよ」


 国王は気楽な調子で言った。そして、事実そうなった。


「わたしはあなたを拒絶しません。大丈夫です」


 とカノンは言って、ゆっくりとセバスに近づいていった。セバスのほうは追いつめられた獲物のように壁に背を押しつけ、身構えた。


 だが、今度は吹っ飛ばされなかった。


「こ、これは……!」


 カノンがセバスにふれると――急にセバスが力強く、拳を握りしめた。その顔は驚愕に満ちあふれ、同時に自らの恐るべき力に驚いているようでもあった。


「何が起こってるのか全然わからねーんですけど?」


 リンネが眉をひそめた。セバスが失望したように吐息を漏らす。


「お嬢さま……このあふれ出るすさまじいパワーがわからないのですか?」


「だから何も見えねーんですわ、こっちは! 何が起きてますのコレ!?」


「彼女のすさまじいロリエナジーが私を拒絶せず、逆にとてつもないパワーを与えているのです! なんという力……! 今ならお嬢さまもひとひねりできそうです!」


「なんで主を倒そうとするんですのこの従者!?」


「そこはあんまり不思議はないかな……」


 言ってからメイは、じっとセバスを見つめた。


「確かに……さっきより強くなってるね。一時的な強化?」


「え? ホントに強くなってるんですの?」


「リンネはわからないんだ?」


「申しわけないですけれど、さっぱりですわ」


 リンネは首を横に振った。

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