第13話 ロリエナジーとかいう謎エネルギー

「セバスの意見は?」


 国王はメイとリンネを興味深げにながめてから、セバスに顔を向けた。


「はっはっは。何をおっしゃいます陛下」


 セバスは軽やかに笑って、メイドの女の子から一歩距離を取った。


「ご存じでしょう? イエス・ロリータ・ノー・タッチ! それこそが私の信条です。たとえ、その方が私の理想を体現した少女だとしても!」


 私の心は決して揺れません……! とセバスは清々しい、どこか寂しげな笑みを浮かべた。欲しいものが眼前にあるのに、決して手に入らない、手にしてはならないと知っている男の顔だった。


 国王は紅茶を一口飲み、お茶請けのクッキーを頬張ってから言った。


「カノンは二十二歳だよ、セバス。驚いたな。君が相手の年齢を見誤るなんて」


 セバスは目をまん丸く見開き、彫像のように固まった。


 一流の彫刻家が『驚愕』をテーマに作ったと言われたら信じてしまいかねないくらい、その顔は驚きを示していた。


「……な、何を言っているのですか? どう見ても彼女は――」


 国王は首を横に振った。セバスは動揺を示すように一歩しりぞき、それから声を荒らげて詰め寄るように国王に近づいた。


「お待ちください! 彼女はどう見ても九歳と八ヶ月です!」


「なんで月までわかるの? ここまで行くと一種の超能力なんだけど」


 メイはおかしなものを見る目でセバスを見ていた。


「それにご覧ください! 彼女の放つ、すさまじいまでのロリエナジーを!」


「聞いたことない新エネルギーまで出てきた……」


「わたくしも初めて聞くんですけどそれ……」


 メイとリンネは二人して、何いってんだこいつ、という目をセバスに向けた。だが、そんな視線を向けられたセバスのほうは、困惑の体だった。


「何をおっしゃっているんですか!? ロリエナジー、あるいはショタエナジーですよ! 幼い子供たちのみが放つ、あの独特のオーラです!」


「いやだからそんなもん見えてねーんですわ。ロリコンの常識を世間の常識みたいに語らないでくださる?」


「ば、馬鹿な……! お嬢さまは生まれながらにロリエナジーが僅少であったがゆえにわからないだけでしょう? なにせ初めてお会いしたときからロリエナジーがおそろしく微弱でしたからね」


 ふぅー、とセバスは落ち着きを取り戻そうとするように静かに息をついた。


「この私ですら極限の集中状態にならねば感じ取れないほどの弱さ……」


 初めて見たときは目を疑いました、とセバスは感慨深くつぶやいた。


「通常、ロリエナジーあるいはショタエナジーは成長に応じて減っていくものです。大人になるとほぼ微弱にしか感じ取れないほど弱くなり、人によっては子供の段階からとても少ない……」


 セバスは目を閉じ、手を後ろで組んだ。


「見た目の幼さ、美しさとは無関係にエナジーの多寡は決まります。大人びた容姿なのに凄まじいロリエナジーを内包していたり、逆に幼い見た目でとても少ないロリエナジーしか持たない場合もあるわけです」


「そんな講義をされてもまったくわからねーんですけど?」


 だがリンネの訴えは無視され、セバスの説明は続いた。


「我々ロリコン・ショタコンは、このエナジーに惹かれます。むろん、ロリエナジー・ショタエナジーが多ければそれでいいというものではない。見た目、性格……そういった好みの一つとして、エナジーの多寡が挙げられるわけです」


 セバスはカッと目を見開いた。


「そう! おわかりですか! 見た目・性格・エナジー! これらが三位一体となり――!」


「ニンフェット論みたいなこと言い出したなぁ、この現代のハンバート・ハンバート」


「御託はいいから、つまりどういうことなんですの?」


 ふたりからばっさり切り捨てられて、セバスは一瞬ひるんだ。だが、すぐに気を取り直した様子で、メイドを手で示した。


「つまり、彼女はとてつもないロリエナジーを内包している、ということです」


 セバスは観察するように鋭く目を細め、メイドを見つめた。


「二十二歳などあり得ません。彼女が放つエナジーの質から見て、およそ九歳八ヶ月の少女が持つものでしょう。しかもこの爆発的な内包量……私ですら初めて体験する凄まじさです」


 ごくり、とセバスはつばを飲み込んだ。戦慄した様子でメイドの少女に目を向けている。畏怖しているようにすら見えた。


「たとえ、どれほど莫大なロリエナジーを保有していようと、二十歳をすぎればエナジーはもはや儚く消えるほどにしか残りません……。仮に本当に二十二歳だとすれば驚異というほか……」


 そのとき、メイドの少女が一歩セバスに近づいた。

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