第5話 メイの強さの謎
もし竜ならば、頭には角が、背中には翼が、そして立派なしっぽも生えているはずだった。
「騙されているとかではなく?」
リンネの問いに、メイは笑って今度は自分の目を指さした。
「ニューマンの目はこうならない、でしょ?」
メイの瞳――瞳孔が縦長に変わった。心なしか威圧感が増した感じさえする。
「確かに……竜の目ですわね、それ……」
「俺もちょっと疑ったことはあるけど、こういうこともできるし」
メイの魔力が爆発的に高まっていくのを感じる。メイが手のひらを差し出すと、炎が燃え上がって小さな赤いドラゴンが出現した。
「まさにミニチュア・ドラゴンですな」
セバスが腰をかがめて、メイの生み出したドラゴンを見た。手のひらサイズの赤いドラゴンは、くぁー、とあくびをして小さな火を吹いた。
「かわいいですわねー」
リンネはちょんちょんと赤いドラゴンの頭をつついた。くすぐったそうに小さな竜は鳴く。
「俺は間違いなくミニチュアだよ。納得してもらえた?」
「まぁこれを見せられては納得せざるを得ませんな」
セバスがリンネを見ながら言った。
「別にわたくしだって絶対に違うと主張してたわけではありませんわよ!」
リンネはムキになって否定した。
「ただ、ミニチュア・ドラゴンってとても弱いと! まったく成長できないと! そう聞いていたものですから!」
「ああ、全然強くならないし、レッサー級に進化することさえできないらしいね」
メイは笑った。
「実際、強くなっても俺は相変わらずミニチュアのままだ。未だにレッサー・ドラゴンになれてない」
「それがおかしいでしょう」
リンネは唇を尖らせた。
「最弱のはずのミニチュアなのに、どうしてそんなに強いんですの?」
メイの力は尋常ではない。少なく見積もってもアーク級の自分より強いように見える。
各種族の格付けは共通で、レッサーがもっとも弱い。そしてグレーター、アーク、エルダー、エンシェントと階級が上がるほどに強くなる。
もちろん、これはあくまでも基礎能力の話だ。当人の戦闘技術や経験によって能力差はくつがえせるし、種族ごとの特性によっても変わる。
たとえば
レッサー・フェアリーとグレーター・ニューマンの魔力なら前者のほうが高いし、グレーター・フェアリーとレッサー・ニューマンの肉体なら後者のほうが強靭だ。
ではドラゴンは? といえば、最強である。
竜の基礎能力は圧倒的に高く、ニューマンを超える強靭な肉体と、フェアリーを上回る高い魔力を持っている。
だが、メイはドラゴンとはいえミニチュアだ。ミニチュアはドラゴンにしかない特殊な階級で、レッサー未満の力しか持たず、決して強くなれないと伝えられている。
なのに、メイは強い。それも尋常でなく、圧倒的に。
レッサー級より強い、などという生ぬるいレベルではない。どう見てもアーク・ニューマンを超えるフィジカルと、アーク・フェアリーを上回る高い魔力を有している。
強くなれないはずなのになぜ? リンネがそう疑問に思うのも当然だった。
「さぁね」
メイは肩をすくめた。
「俺だってわからないよ。俺が特別なのか、それとも単に言い伝えが間違ってたのか、まぁ真相究明は俺の仕事じゃないしね」
わかってるのは、とメイは苦笑いを浮かべる。
「魔物を倒しまくれば俺は強くなれるってことだけ。そして俺にとってはそれで十分だよ。自分が強くなれるなら、あとはどうでもいい」
「無関心ですわねぇ……。もう少し興味を持ってもいいんじゃねーですの?」
「そんなこと言われたってなー」
「まぁいいではありませんか」
セバスが口をはさんだ。
「ミニチュアが稀少種である以上、未解明な部分が出るのは当然です。考えてわからないことに頭を悩ませても仕方ないでしょう」
「それはそうですけれど……」
「メイ殿が活躍することで、ミニチュアの扱いが変わるかもしれませんし……ミニチュアの謎については今後に期待することにしましょう」
さあ、とセバスが山道の先を指さした。
「目的地まであと少しです。参りましょう」
三人は温泉宿に向けて歩き出した。
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