第3話 至極曖昧な事情説明
「ふっ……真のロリコンたるこの私の目はごまかせないということですよ」
セバスは白い歯を見せて、ほがらかに笑った。
「お名前をうかがっても? 私はセバスチャン、こちらのリンネさまに仕える従者です」
「あー……そういう感じか。俺はメイ。よろしく……って言っていいのか?」
メイと名乗った男は顎に手をおいて、首をかしげた。そんな仕草もかわいらしい。やっぱり成人男性とは思えない。
絶対女の子のはずだ、と彼女は思った。
しかし、二人はリンネのことなど無視して、なごやかに会話している。
「はっはっは! 心配せずとも幼き少女に手を出したことなどございません。イエス・ロリータ・ノー・タッチという標語はご存じでしょう?」
「聞いたことはあるけど、実際に使ってるやつは初めて見た」
「メイさんも真のロリコンと交流を持てば、自然と耳にするようになるでしょう」
「それ、どのくらい確率なの?」
メイは苦笑いを浮かべた。それから、彼は不意に笑みを消した。
「……名前も女の子みたいだって言わないんだな、あんたは。たいがい言われるのに」
「ご両親が名づけたのでしょう? 男の子にふさわしい名だと」
「男にふさわしいかは知らないけど……」
メイは少し気恥ずかしそうに答えた。
「
「いい名前ではありませんか」
セバスは訳知り顔でうなずいた。
「私など、将来は偉い方に仕えるのだからと、執事っぽいセバスチャンの名をつけられてしまいました」
「わかりやすくていいじゃないか。実際仕えてるんでしょ? まさに名は体を表す、だ」
二人は笑った。
「ちょっとお待ちになってくださる!?」
硬直していたリンネが割って入った。
「男性って……! だって見た目も声も――!」
「ああ、声もかわいいってよく言われるね。なんか完全に女の子の声だって」
「女の子っていうか……完全に美少女ボイスなんですのよ、あなた! 男性が標準搭載していい声帯じゃないでしょうコレ!?」
「違いがわからないんだけど……」
女の子と美少女の声って違うの? とメイは困惑顔である。
「声まで美少女ってことですわ! どう聞いても男らしさゼロなんですわぁ!」
「はっきり言われると微妙に傷つくなー。全然女の子に相手にされないのがさ……」
メイは面倒くさそうに目をすがめた。
「ご安心ください、メイさん。少なくともここに一人、メイさんに心惹かれる変態女がいますよ」
「ちょっと! 何しれっと自分の主を貶してんですの、この執事!? というか、それメイさんにも失礼でしょう!?」
「しかし、お嬢さまが変態であることはまぎれもない真実です! 隠し立てするわけには……!」
セバスはこの上なく真剣な顔だ。
「そこは忖度なさいよ! あなた、本当にわたくしの従者!?」
「まさか、お嬢さま……? 幼少のみぎりから仕えてきたこのセバスチャンの忠義を……疑うおつもりですか!?」
「まさしく忠義を疑う行動してんですのよ、あなたはぁ! そもそも変態違う!」
「おもしろい主従だなー」
ぼやくようにメイは言った。
「で、なに? そこのお姉さんは俺に惚れてるの? 正気?」
「なんで狂気を疑われてんですの!? 女の子にモテてご不満ですか!? というか、めっちゃどストレートに聞きますわね!? 好きなのかって!?」
「だってこの見た目だし……」
メイは自嘲するように苦笑した。
「実際さ、なんか婚約者? に選ばれた人も俺に興味がなくて? 別の男? に惚れてる? らしい? まぁ本人は大嘘だから信じるな、とか主張してて? 正直俺もよくわからないんだけど……とにかく、女の子に惚れられる感じじゃないよなって」
「なんですの!? その疑問符だらけの説明は!? というか婚約者いましたの!?」
リンネはショックを受けた。
「いきなり婚約者だとか言われたんだよ、上から……。でも交流とか全然なかったし、俺もいずれ島を出ていくって宣言してたから、なんの関係もないんだけど」
「何がなんだか全然わかりませんわ……」
ふらふらとリンネは倒れそうになる。フィアンセ付きと知って、足に力が入らなくなっていた。
「まぁまぁお嬢さま。そう質問攻めにするものではありませんよ」
セバスは軽く手を叩いて、二人のあいだに入った。
「メイさんも、温泉を目指してるんでしょう? どうです? 長話は山道を登りながら……ということで?」
「話聞くのは確定してるんだ?」
「そりゃお嬢さまのお相手になるかもしれない人物ですからな」
にこやかにセバスは笑った。
「ひとまず温泉に着くまでの道すがら、簡単な説明をしてもらって、お嬢さまの放心状態を解きましょう」
さぁ参りますよ、とセバスは二人を促した。
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