第14話 原作
「ここがあのグリーディア学園かぁ!!!」
そう言ったのは後ろ姿だけが画面に映っている白髪イケメン。
彼はこの学園のものと思われる制服を着て、大きな校舎を見上げている。
ただ、その顔はカメラの角度的に見えない。
「いやぁ〜、心踊るねぇ」
彼がそう言いながら感傷に浸っている間にも彼の隣を何人ものの生徒が通り抜けていく。
「よし、行くか――首席として最高の演説をしないいけないからな」
グリーディア学園史上、初の平民の首席はそう呟いて会場に向かって歩き始めた。
――――――――
「これが始まりかぁ」
俺はゲーミングチェアに体をグッと預け、伸びをする。
まあ、典型的な俺tueee系っぽいがオープニングムービーのヒロインたちはめっちゃ可愛かったからな、折角買ったんだし、最後までやるつもりだ。
俺はなんだかんだでクソゲーでも楽しめちゃうタイプだ。
どんとこい!
そう思って始めたテーラルファンタジア……略してラルファンだが、しばらく進めていくと案外、面白かった。
「待て待て待て、俺まだ初期装備なんだけど?! なのにもうラスボス戦?!」
開始して30分、あの後、主人公が村から出ていく時の回想に入った。
その際、俺は興味本位で誰に何を言われても頑なに村から出ていこうとしなかったところ、『10年が経った』というたった1行の説明文の後、突然、邪竜戦が始まったのだ。
当然、初期装備同然の俺じゃあ相手にならなく、ボロッボロに負けバッドエンドになった。
「マジか、ただのギャルゲーだと思ったのにこんなバッドエンドが……」
その後もゲームを続けていくと選択肢をミスったり、先頭に負けたりすると簡単にバッドエンドに入ってしまったため、これが鬱ゲーなんじゃないかと疑ったな。
その中でも俺が最も最悪な気分になったバッドエンドがこれだ。
「誰ですか? あなた?」
画面には人を凍て殺せそうな極寒の寒さを感じる青く、冷たい目をした銀髪の貴族令嬢が写っている。
彼女はミラ・ラミーレス。
メインヒロインではないのだが、サブヒロインの中でも登場頻度は高く、ゲームのレギュラーキャラと言っても過言ではない。
俺は途中で他国の学園への留学ルートを選んだ上にそこで戦争に巻き込まれ、半年ほどこの国に帰ってこれなかった。
つまり、半年ぶりの再会なのだ。
だがしかし、そんな感動的な状況なのにミラは主人公に対してこんな目をしているのだ。
「えっと……ごめん、留学先で戦争に巻き込まれちゃってこの国に帰ってくるのが遅くなってしまったんだ。怒っているよね? 本当にすまな――」
選択肢などなく、強制的にそんな台詞が発せられる。
いやいや、違うだろ。
怒っているよね? じゃねえよ。
俺はこのゲームの中でメインヒロインよりもミラが一番の推しキャラであったため、主人公のやけにムカつく口調に少し苛立ちを覚える。
けれど、これはギャルゲー系のゲームだし、ここから感動的な展開が始まるんだろうなぁ、と思っていた時であった。
「質問に答えてください。あなたは誰ですか?」
「え……」
主人公の台詞と、俺が無意識に口から漏れた言葉が重なる。
「だ、誰って……」
主人公は戸惑いながらも自身の名を伝える。
すると
「ああ、あなたですか……」
「そうだよ、忘れちゃってたの? 冗談でも悲しいよ」
「……そうですか、飛んで火に入る夏の虫とはよく言ったものですね」
「ん?」
その瞬間、ミラの表情が大きく変わる。
まるで獲物を見つけたかのような笑みに憐れむような目。
俺はこの時、その表情の理由が全く理解できなかった。
ミラはそんなプレイヤーと主人公の困惑も気にも留めずに主人公に対して質問を投げかける。
「あなたは私のことが好きですか?」
「え……? うん、勿論。好きだよ」
「それは仲間として、友人として……でしょう?」
「……」
その言葉に主人公は遠慮しながらも小さく頷いた。
「知っていました。ですから約束も破って他国に滞在していたのでしょう?」
「そ、それはさっきも言った通り戦争に――」
「どうせそれもお人好しの結果でしょう? 誕生日を祝う約束を忘れたんですか?」
「それは……」
そうだ、主人公は他国に留学に行く前にミラに対してしっかり3ヶ月で留学から帰ってきて、そのさらに1ヶ月後にあるミラの誕生日を祝うと約束していたのだ。
けれど、実際、帰ってきたのは誕生日から2ヶ月も過ぎた日だ。
そもそも戦争に巻き込まれたのも確かにお人好しの結果だ。
うっ……こう思ってくるとそれに繋がる選択肢を選んだこっちも申し訳なってくる。
「私は――いいえ、もう彼女はと言ったほうがいいでしょう。彼女はあなたのことが好きでした、それはそれは凄く」
この時、俺はミラの好感度を優先的に上げていた。
しかし、彼女は基本的に誰に対しても冷たい。それは主人公も例外ではなく、そのため好感度はまだ大して上がっていないのだろうな、と踏んでいただけあってその言葉に少し驚く。
「待って、それじゃまるで今の君はミラじゃないみたいな言い方じゃないか」
「ええ、もう彼女は居ません……どこにも」
そこで選択肢が出てくる。
『じゃあ君は……?』
『ミラを返せ!』
俺はなんとなく、前者を選ぶ。
「私ですか? 私に名前なんてありません。ただの負の感情の集合体です、あなたは彼女を好きにさせておきながら彼女を半年も放置したのです。そのため、彼女は私に体を乗っ取られてしまったのです」
「そんなっ……!」
つまり、彼女は恋愛感情による嫉妬や寂しさ、憎しみによって自我を失ったってことか?
なんだよそのクソルート。
「でも、もう大丈夫ですよ」
「な、なにがだいじょ――ガハッ!」
画面が真っ赤な血に染まる。
主人公は無数の触手に貫かれていた。
BADEND
ただその言葉だけが表示され、俺はホーム画面に戻された。
これは彼女――ミラの好感度を1番あげた上で半年以上、彼女を放置すると起こるBADENDであった。
このBADENDがあるのは数多のヒロインの中でミラただ1人であり、彼女は最も愛が重いヒロインとしてプレイヤー間で有名になった。
同時に最も攻略しずらいキャラとしても。
彼女は好感度を上げても態度が変わらないため、攻略しずらいのだ。
そのため、今回の俺みたいにいつの間にかに闇堕ちしているなんてことがあるキャラであった。
俺は多分、これから色々巻き込まれる。
巻き込まれたくはないが……俺はこのゲームが好きだから主人公が手に負えない部分は俺がどうにかしようとしてしまう。
だからこそ、半年や1年くらい彼女を放置してしまう可能性がある。
俺は彼女の闇堕ちした姿も悲しむ姿も見たくない。
彼女はもっと別のちゃんと彼女を愛してくれる人を見つけるべきだ。
だから俺がやるべきことは1つ。
彼女の想いを少しずつ逸らす。
それだけだ。
サブヒロインに恋愛相談されたので『夜這いでもしたら?』と言ってみた。起きたらその子が目の前にいた。 わいん。 @wainn444
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