第13話 ドッキリ長いですって
「ふぅ……」
俺は木製の扉を前にして気を落ち着かせる。
ここが俺が今日から通う教室なのだ。
俺はモブ、モブなのだ……決して目立たぬようかといってボッチなのもそれはそれで嫌だから数人友達も欲しいな。
そんな願いを抱え、俺はドアノブに手をかけ、扉を開いた。
「おはようございま――ぶへっ?!」
俺が教室に入ろうとした瞬間、急に誰かに後ろから背中の襟を引っ張られ、必然ながら俺の首は絞まる。
俺は少々の苛立ちを感じながら後ろを振り返るとそこには――
「お前がセブトだな? お前の教室はそこじゃないぞ?」
「え? グレーテ先生?!」
原作でも鬼教官とプレイヤーの中でも有名であったあのグレーテ先生がいた。
グレーテ先生は主人公のクラスであるBクラスの担任、そして剣術の実技教師である。
「えっと……どういうことでしょうか? 昨日確認しましたが俺はここのクラスですよ?」
昨日の入学式で俺は自分のクラスをしっかりと確認したはずだ。その結果、俺は主人公たちのいるBクラスとは別の階層に位置するGクラスになったはずだ。
「ああ、すまないがそれは教員側のミスだ」
「ま、マジです?……」
やめてくれ、俺は主人公たちとは関わらないと決めているのだ。
必要となった時にだけ、関わってそれ以外の時はすれ違いたくもないのに……!
「ああ、マジだ。誰かによってデータが改竄されていてな。お前の本当のクラスは――Bクラスだ」
「……さいですか」
Bクラス――それは主人公たちが様々な物語を織りなす舞台。
用事があっても入りたくない……そう思っていたのに謎の理由で俺はBクラスになったらしい。
だ、だが、まだ諦めるには早いぞ。
俺のクラスが変わっているということは主人公たちのクラスも――
「なんだ? 嬉しくないのか。Bクラスといえば今年はお前と同じ平民がBクラスは少し多くてな……ああ、あと首席も居たな。彼と関わるのは良い経験になると思うぞ」
「……ぁ」
声にならない悲鳴が微かに口から漏れる。
Bクラス、平民……そして首席。それはゲーム内主人公の最初の肩書きだ。
嘘ですよね、ドッキリ長いですって先生。ほら、早くネタバラシ……とはいかないのが悲しいところだ。
「まあ、とやかく言わずにお前はBクラス……私のクラスなんだ。ほら、早く行くぞ」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁ」
駄々をこねる俺は結局、後ろ襟をグレーテ先生に掴まれながら教室に連れて行かれるのであった。
――――――――
「ほら、ここがお前の教室だ。もう諦めて素直に入れ」
そうとだけ告げてグレーテ先生は一人、教室に入っていく。
仕方ない、俺も覚悟を決めるか。
まずは元気な挨拶。
俺はドアノブに手をかけて勢いよく開いた。
「ふう……お、おはようございます!」
俺は辺りを見渡しながら挨拶する。
教室は静寂と喧騒の中間といった感じであった。
みんな、周りの人と仲良くしたいようだがやはり、初めの日ということで遠慮が強く見られる。
ちなみに俺の挨拶には――
「反応無しっと……」
俺は誰にも聞こえないような小声で呟く。
まあ、そうですよね。というか寧ろ変に目立つよりかは断然マシか。
俺は大人しく席に座ろうと黒板に貼ってある座席表に目を移す。
どうか、主人公たちと離れていますように……!
俺はそう願いながら自分の名前を探す。
まず、最初に主人公の名前が真ん中の列の前から2番目にあることに気づく。
そして、俺の席は――
「やった、一番後ろだ!」
一番、窓側のさらに一番後ろ。
これであれば同じクラスであってもモブに徹していれば影響はさほど多くないだろう。
俺はルンルンの気分で俺の席の隣の名前を確認する。
ええっと……
「っ?!」
冷や汗が俺の背中を走る。
俺は目をパチパチさせ、もう一度確認する。
そこに書かれていた名は――
「どうかしましたか? セブトさん」
「っ?!〜〜〜〜」
振り返るとそこには制服を可憐に着こなしたミラがいた。
そうだ、この主人公クラスにはミラもいたのだ。
け、けど、ミラは確か原作じゃ最前列だったはずじゃ……?!
どれもこれも恐らく、転生者が現れたことによるバグだろう。
「さっき言いそびれましたけど、おはようございます。隣の席ですね! これも神様からのご褒美でしょうか?!」
「そう……だね」
そうやって喜ぶミラの姿はとにかく可愛い。
うん、これが毎日見られるのはそれはそれで悪くないかも。
というか普通に最高なのでは?
そう考えると悪い気もしなくもない。
「それに……端っこの席。これで存分にセブトさんとイチャイチャできます」
ああ、けどミラのあの設定がなぁ……。
彼女は絶対に、絶対に主人公にくっつかなければならないヒロインである。
このゲームがただのギャルゲーであればどれだけ良かっただろうか。
「あっ、そうだ。あんなこともしたいな……」
俺が悩み事をしている間にミラはギリギリ聞こえないような声量で何かを言っている。
「ちなみに全部聞こえてるからな?」
「へ?! ご、ごめんなさい。忘れてください!」
「まあ、嘘なんだけど」
「む、むぅ……!」
ミラが騙されていたことに気づき、不満げな表情を浮かべる。
ちょっと意地悪しすぎたか。
すると、教室にいたグレーテ先生が教壇に立ち、皆に向かって口を開く。
「今からホームルーム始めるぞ。お前ら、席につけ!」
そうしてグリーディア学園での日々が始まるのであった。
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