第12話 さっきから一言余計では?
「縄で縛られるのと、手錠と足枷で拘束されるの、どっちがいいですか?」
うん、多分、転生してから今までで一番答えたくない質問だわそれ。
どっちを答えても俺の自由はないじゃないか?!
「えっと……ごめんなさい?」
「なんで疑問形なんですか、そもそもわかってないじゃないですか」
ミラは頬をぷくっと膨らませる。
うぐ……確かに何にもわかってないけど、女の子が怒った時はとりあえず速攻で謝っとけっていうのが爺ちゃんの口癖だったからな……。
暫く、するとミラが諦めたように真面目な表情に戻る。
「はぁ……まあ、セブトさんはお強いですし、優しいので色んな人のことを助けちゃうことはわかっています。多分、クシュリナ様ともセブトさんが助けただけじゃなくもうちょっと色々あったのでしょう?」
「……ど、どうだったかな〜」
やばいこの子、鋭すぎる?!
流石、今まで貴族社会で生きてきただけある。
確実にその洞察力は生きてきた時間の長い俺よりも優れている。
「……だけど、そうだとしても自分のこともちゃんと大事にしてくださいね?」
「えっと、自分って……ミラのことだよな」
「違いますよ、セブトさん自身のことです。セブトさんは今、自分のやりたいことをやれてますか? 何かの使命感とか親切心で行動しているんじゃないですか?」
「っ?!…………」
俺はその言葉を聞いた瞬間に全身に電流が流れたような感覚になる。
「確かにそれは世の中一般的に素晴らしいことだと思います。けど、セブトさん自身の視点から考えてどうなんでしょうか」
「それは……あんまり考えたことなかったかも」
けど、これは使命のようなものな気がする。
もちろん、今わかっている限りでも転生者は3人もいるのだがその中でも俺だけが唯一、原作知識を持っている。
ならば、邪竜討伐はゲーム主人公たちに任せ、俺は原作からズレた部分をどうにかするべきだ。
それに――
俺はこの
「うん、やっぱり、俺はこれでいいや。これが一番楽しい」
かと言っても俺だってこの世界を楽しんでいないわけではないからな。
欲を言うならばゲームのヒロインの誰かとイチャイチャしたい。
特に……
「どうしましたか? 私のことを見つめて。もしかして……本気で私と付き合いたくなりましたか?!」
「だとしても釣り合わないって」
「むぅ……またそんなことを。私は気にしませんよ?」
ミラが頬をまた、ぷくっと膨らませる。
ああ、もう可愛すぎて今すぐ攫っちゃいたい。
あんな設定がなければなぁ……。
「とにかく俺はこれで満足なんだよ。高望みなんてしないんだ」
「セブトさんらしいですね」
ミラはそう言い、柔らかに微笑む。
それは柔らかなものだが、不思議と諦めないという強い意思をも感じさせた。
すると、しばらく黙っていたクシュリナが居心地が悪そうに発言する。
「あの〜、私は何を見させられているのかしら? イチャイチャなら外でやって頂戴、なにも私の前ですることないでしょう……それともこれは恋人のいたことのない私への当てつけなのかしら?」
クシュリナは過去の自分を振り返っているかのようだった。
ああ、そっか。こいつ前世でも彼氏いたことなかったのか。
そして今世は第一王女という身分なわけで勝手な私情による恋愛ごとは許されないためまたしても独り身。
なんというか……可哀想だな。
「あのさ、勝手に私の過去を想像して憐れむのはやめてくれないかしら?! あなたに憐れまれるのはヤケにムカつくのよ」
ヤケにムカつくってなんだよ。
まるで俺が前世でも恋人いなかったみたいな言い方じゃないか。
……実際、いなかったけどさ。
「これはこれは失礼しましたクシュリナ様、高貴なる貴方様に恋愛話など関係のない話でしたね」
「殺すわよ?」
本当に人を殺しそうな殺気が突き刺さる。
この姿のクシュリナをクシュリナのことを褒め称えている貴族らに見せたらどんな反応するだろうか。
「なんというか……二人とも仲が良さげでいいですね」
「どこがよ!!!」
「どこがだよ!!!」
確かに可愛そうでイジっている分には楽しいがこいつ、平然とした顔で拷問してきやがったんだぞ?
「そういうところじゃないですか……」
似たもの同士、ということだろう。
同じ元日本人だからな。
ミラは俺たちが仲良さげだと認識したのかクシュリナに対抗心を燃やす。
「けど! クシュリナ様でもセブトさんは渡しませんからね?! その場合は全面戦争ですからね?!」
「こんな捻くれ野郎、要らないわよ……」
「おい」
誰が捻くれ野郎だ。
すると、今度はミラの不満が俺に向いた。
「セブトさんも王女様相手に失礼ですよ? 多分、王族以外でここまで失礼な態度を取れるのはセブトさんくらいですし」
「ああ……確かにそうだが」
確かにクシュリナが同郷な上に年下だとしても流石に無礼すぎたか。
「良いわよ、別に。家族でもここまで雑で捻くれた言い方してこないから逆に楽だわ。それになんだか懐かしいし」
「え、マジで?」
「ええ、けれど公の場では控えて頂戴。こんなやつと友達だと思われたくないわ」
「さっきから一言余計では?」
この一言が無ければ良い奴だと思えなくもないかも知れないというのに。
その後、時間がそこそこやばいことに気づき、俺たちは急いで部屋に戻るのであった。
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