第9話 死神
最初は憧れとほんの少しの小さな恋心だった。
私は彼に森から1番近い街の近くまで連れて行ってもらい、そこで別れた。
それはもちろん、彼が下手に注目されることを嫌ったからである。
本当なら実家に事の詳細を伝えてお礼をしたかったのだが、彼との約束でそれが出来ないため代わりに私は別の提案をした。
「あのっ!」
「ん? どうしたんだ、忘れ物でもしたか?」
「もし良かったらこのペンダント……もらってくれませんか」
そういって渡したのは売れば1年は遊んで暮らせるほどの価値があるミスリルで作られた宝石の散らばめられたペンダントであった。
「え……いや、悪いよ。俺はついでに君を助けただけだし」
「貰ってくれませんか? どんな理由であってもあなたが私を助けてくれたことに変わりは無いんですから! じゃないと私……お返しできるものが」
「だとしてもコレ、貰い物とかじゃないの? それは君にコレを上げた人にも悪いよ」
「そうですけど……で、でも!」
どうにかして貰ってもらわないと。
これでお別れ……なんて寂し過ぎる。
「じゃあわかった、いつか別の形で再開することが出来たらお礼してくれよ」
「……わかりました、絶対、絶対にお礼しますからね? ですから……待っていてくださいね?」
その後、すぐさま私は精霊魔法を使う宮廷魔法使いの息子を調べた。
彼の名はセブト……一見、ほんとに何の特徴もない平民であった。
だが、彼には裏の顔があったのだ。
彼は年齢と容姿、名前を偽って冒険者をしているらしく、現在、そのランクはなんと星5つ。
冒険者のランクは星4つが騎士と同じ位の強さだと言われている。
つまり、まだ成人もしていない子供が騎士より強いのだ。
明らかに嘘みたいな話だけど……
「それでこそセブトさんです、これまでどれだけの努力をしてきたんでしょうか……」
盗賊に襲われてただ怯えることしか、守られることしか出来なかった私とは違う。
だからこそ、強い憧れを抱いた。
――――――――
次に目を覚ますと俺はさっきの体育館裏にいた。
試しに手で頬を引っ張ってみるとしっかり痛みを脳で感じる。
よし、成功だ。
「ダクリィ……居るか?」
俺は辺りに精霊の気配が無いか探る。
あれ? 居ない……?
「居るわよぉ〜」
「うわぁっ?!」
その声の主は俺の体内からにょきっと現れる。
「こ、怖ぇよ、そんなところに居たのか……」
ていうか精霊って人の体内に入れるのか。
すると、ダクリィは俺の考えを読んだかのように返答する。
「出来るわよ〜、もしも私がいなかったらマスターはぁ〜、帰れないでしょ〜?」
「ま、まあ確かに」
「私もいるわよ?」
「うわああっ?!」
今度はライリィがにょきっと俺の体内から出てくる。
「学園の廊下すら暗くて1人じゃ歩けないマスターのために私が道を照らしてあげるわ」
そう言ってライリィは光り輝くその体で辺りを照らす。
「2人とも……!」
光を司る精霊のライリィに闇を司る精霊のダクリィ。
2人が入れば千人力……なのだが。
「こう……もうちょっと普通に登場出来なかったの?」
「マスターが怖がりなだけじゃない?」
「お前に関しては絶対、わざとだろ!」
ダクリィと同じタイミングで出てくれればいいものを……!
俺はライリィの襟を掴もうとする――
「なんのことかなぁ〜」
が、ライリィはひらりと俺の手を躱した。
生意気な奴め……。
「はいはい〜、2人とも落ち着いて〜、マスターは早くここから出ないとでしょぉ〜?」
「そうだな、ライリィ。もっと道を照らしてくれ」
「はいはい……」
ライリィが手を振ると世界が真っ白に見えるほど明るくなった。
「眩しいわ!」
「めんごめんご」
全く……こいつはブレないな。
だが俺は少しの懐かしさを感じていた。
前、死んだ時もこんな感じだったなぁ。
普通なら有り得ないだろう……死んだ人間が生き返るなんて。
けれど、俺は自ら開発した魔法によってそれを擬似的に可能にしていた。
俺がレイベルから逃げるために使った〈
とある魔法を発動するための準備魔法でもある。
その魔法がこの〈
〈
そして元々の体は……それからも一定時間が経過するか、使用者が魔法を解除するか、デコイが死ぬかのどれかが起きるまで透明化し続ける。
つまり、俺は実はレイベルに姿を見せていなかったのだ。
本物だと思ったか? 残念偽物でしたってな。
〈
元々は情報共有に使われていた魔法だったらしいが俺が特殊な使い方を見つけてしまったのだ。
「元々はレイベルにぶん殴られて万が一、死んだり、怪我を負ってしまったりするかもしれなかったから〈
「本当にマスターは運がいいんだか悪いんだか……」
まあ、不幸中の幸いってやつだろう。
それにしても……
「なあ、ダクリィ。やっぱりあの死神みたいな奴は……」
俺はクシュリナに尋問されている時、偶然感じてしまったのだ、この部屋にいるもう1人の存在に。
クシュリナの護衛かと思ったがそれにしては気配が薄すぎて……なんだかねちっこかった。
暗殺者の類いかと思いクシュリナに伝えようと思ったのだが、嫌な予感がしたため様子を窺っていたのだ。
今になって振り返るとそれが最善の選択だと感じる。
なぜなら……
「ええ、あれは死神ねぇ〜」
死神……それはこの世界における三大災害の1つだ。
ランダムに世界中にいる生物の誰か一体を不定期的に死へおいやるモンスター。
死神はどんな暗殺者よりも高度な隠密魔法を使い、どんな戦士よりも早い一振りで瞬殺する。
「だけど、あれは10年前に騎士王が討伐したんじゃなかったの?」
ライリィがそんな疑問を投げかける。
確かにそうだが……。
「あれはその残滓だな。最近は目撃件数がほとんどなかったはずなんだけど」
死神はこの世からは居なくなったがまだ、その残滓が死神モドキとして出現していた。
もし、あれが本当の死神だったら存在を感知することも〈身代わり〉スキルを使うことすら間に合わなかっただろうな。
だが、俺は大きな違和感を感じていた。
それはラルファンにおいて死神モドキがクシュリナを狙うイベントが発生するのは学園を卒業した後であるということだ。
それも追加コンテンツの中のバットエンドでだ。
ちなみに、死神モドキとは言えど隠密能力と瞬間火力は作中トップレベルであり、そのイベントが発生した場合、100%クシュリナは死亡する。
つまり、この世界は本来辿るべき運命から恐ろしい程にかけ離れてしまっているのだ。
本当に……何が起きているのだろうか。
「マスター? ただでさえ辛気臭い顔してるのに更に辛気臭い顔してどうしたの?」
「いや……なんでもない。てか、地味にディスられた気がするんだけど?!」
「気のせい、気のせい。ほら早くクシュリナのところに行くぞ」
俺はケリをつけるために魔力を辿って俺が死んだ場所まで行くのであった。
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