第4話 ミランダ・ラミーレス


 ある日のことだった。

 グフォニア公爵家の次男の誕生日パーティにラミーレス家が招待されたのだ。


 グフォニア公爵家の次男――アルデは1年前までとてつもなく性格が悪く、人使いや気性が荒い人物として王国中で有名な人物であった。

 だが、最近になって改心したのか教会に寄付をしたり、おせろ?なる簡単で面白いボードゲームを生み出したりといい噂が多く上がっていた。


 あの時、恐らくお父様は改心したという事実が本当なのかどうか確かめるために私をその誕生日パーティに向かわせたのだと思う。


 私はお父様の勧めのままに馬車に乗り山脈をいくつか超えた先にあるグフォニア公爵領に向かっていた。


「お嬢様、お気分はいかがですか?」


 そう聞いてくるのは30年も前から我が家に仕えてくれている騎士――レゾルト。

 騎士であるのに関わらず、彼はこうやって誰にでも気を使ってあげられる人格者であった。


「ええ、大丈夫ですよ。久しぶりの長旅になるけれど頑張ります」


「ふふ、お嬢様も成長いたしましたね。少し前までは絵本の影響で勇者様が迎えに来てくれてる、なんておっしゃておられたのに」


「や、やめてください。いつの話ですか……」


 そういえば小さい頃、今日みたいな遠征の時にそんなことをレゾルトに言った気がする。

 実は今でもいつか、勇者様が迎えに来てくれたらいいな〜なんて思っていなくもないけれど、それを周りに言いふらせる程もう私は幼くない。


「これからも健康に育っていってくださいね、ミランダ様」


「ええ、もちろんです」


 そうやって和やかに談笑し、平穏なまま目的に着く……


 ――と思われたが、その途中で私の乗った馬車は盗賊団のような奴らに襲われてしまった。



「敵襲ッ!!!」


 深夜、私はそんな男の人の張り詰めた声で目が覚めた。

 馬車には何本も矢が刺さり、騎士の人たちが懸命に戦っている。

 ……けれど、戦況は決して優勢とは言えなかった。

 どうやら魔法が使えなくなっているようで必死に剣だけで応戦していたのだ。


「グヘッへ、どうだ?! 魔封じの魔道具は。この指輪をつけていねえお前らは身体強化を使った俺たちに歯も立たねえだろぉ!!」


「あ、あなたたちは……私はラミーレス家の次女ですよ! こんな狼藉、許されません!!」


「あ? お嬢さん、もしかしてここにまで貴族様の権威が届いてると思ってんのかぁ?! ここは魔獣の森……つまり、貴族様の力なんて関係ねぇんだよ!」


「くっ……」


 私が苦虫を噛み潰したような表情をしている間にも騎士たちは数、実力ともに勝る盗賊たちに殺されていく。


「お嬢……様」


「レゾルト?!」


 レゾルト……彼は伯爵家一の実力者だ。

 それなのに彼は肩から血を溢れさせ、放っておけばすぐにでも死んでしまいそうな顔をしている。


「転移で……逃げ、て……ください」


「そんな……皆を放って私だけ逃げるなんて。それに……」


 魔封じの魔道具による結界が張られている以上、その中にいる私は魔法を使えない。

 すると、レゾルトは震えた手を私に差し出してくる。


「これを……付ければ魔法が使えます」


「え……?!」


 彼が手を開くとそこにはエメラルドのような宝石がついた指輪があった。


「奴らは……これをつけることで魔封じから逃れて、います。さあ……バレないうちに早く!!!」


「そんな……出来ないです。守ってくれる者たちを置いて逃げるようじゃ私は――」


「早くッ!!! あなたさえ守ること……それは私たちの悲願……皆、あなた様のためであれば死んでも構わないと思っております」


「――あ?! 誰が逃げるって?」


 ――刹那、レゾルトの右手が飛んだ。

 そしてそのまま、首も飛ぶ。


「あ……どう……して」


「お嬢ちゃあん、そう言うことして貰っちゃあこっちもこまるんだよねぇ、俺らも仕事なんだよ」


 体のあちこちに大きな切り傷を持ったスキンヘッドの男が薄汚い笑いをしながら私の腕を掴む。


「やぁ……誰か、助けて」


「ふひゃっひゃ、もうお前を守ってくれる奴なんかいねぇ……大人しく捕まりな」


 私はそれから猿轡を噛まされ、手足を縛られ、目隠しをされた末に盗賊たちのアジトへ送られるのであった。


 ……

 …………

 ………………


「うぅ……ここは?」


 私は盗賊たちの笑い声で目を覚ました。

 どうやら、いつの間にかに気を失ってしまっていたらしい。


 辺りを一通り見渡してみる。


 ――ガチャガチャ


 手錠だ、私の手には手錠がついていた。それに足枷も……。

 空間魔法を発動してみるが、手錠の力によって阻害されてしまった。

 また、なぜかわからないけれど何故か髪色が黒色になってしまっている。


 私がラミーレス家の侯爵令嬢だとわからないようにするための細工だろうか。


「どう……しましょう」


 目の前には頑丈な鉄の鉄格子があり、完全に監禁されてしまっていることがわかる。


「ぐっひゃっひゃ!! 流石、魔王を名乗る奴から渡された魔道具だぜぇ、あんなにも簡単に貴族様を捕まえられるなんてなぁ!!」


「へっへ、お頭の実力もあると思いやすぜ」


「そうかぁ?! 確かにそうかもなぁ!」


 魔王を……名乗る者?

 魔王なんて絵本の中にしか出てこない……一部の人々は魔族の王様のことを“魔王”と呼ぶらしいけれど魔族の国は今、人徳のある王様のおかげで平和であり、治安も良いと聞くし……明らかに彼らの言う魔王は魔族の王のことじゃなさそう。


「おいおい、いつの間にかに起きてんじゃねぇか、こいつ」


“頭”と部下に呼ばれている男が私が目を覚ましたことに気づき、鉄格子をガシっと掴む。


「ひっ……」


「クソがッ!!! 髪色が変わってもやっぱりクソ美人じゃねえか。あーあ、味見してぇなぁ……ちょっとぐらいならバレねえか?」


「嫌ぁぁぁぁ!!!」


 それは今まで誰からも向けられたことのない下心と性欲に塗れたけがわらしい目線だった。

 私はこれから起こることを想像してしまい思わず全身に寒気が走る。


「なぁに、ちっと可愛がってやるだけだぜ?」


「へっへ、お頭。終わったらあっしにもちょっとだけ味わわせてくだせぇ」


 もう一人のヘラヘラとした男もそんなことを言ってくる。


「ふん、気が向いたらな」


 男はそう言い、ジリジリと私の方へと詰めていく。


「初物は流石に奪っちゃあこっちが依頼主に怒られちまうからなぁ……もう一つの方をいただこうじゃねえか。おい、どいつかアレを持ってこい」


「い、嫌ぁ……やめてぇ……」


 盗賊の頭は檻の鍵を開け、私に詰め寄る。

 私は尻餅をついたまま、逃げるように離れるが……もう、追い込まれてしまった。


 もう、私はダメなのだ。

 いつか、勇者様が私を守るために迎えに来てくれると思っていた……けれどそんな人いないんだ、ただの妄想。

 ああ……私は残酷な世界に何を期待していたのだろう。


 家の者たちがいなくなってしまえばもう、私を守ってくれる人なんていない……けれどこんなところで汚される運命を受け入れられなくって私は目を瞑り、祈る。


(誰でも、誰でも構いません。助けて!!!)


 すると、まるで願いが届いたかのように盗賊の男の動きが止まる。


 だが、実際は願いが届いたのではなく違和感を感じただけであった。

 さっき言った言葉に返事しないという


「おい、聞こえてねぇのか――あ?!」


 彼は振り返り、辺りを見渡す。

 そして気づいた。


 周りには誰もいないことに。さっきまで会話していたヘラヘラとした部下の男も。


「ど、どどどうなってやがる?! 神隠しか?――グハァッ?!」


 焦ったように彼は辺りを見渡す。

 ――が、刹那、何者かの攻撃によって体が後方に吹っ飛んだ。





――――――


予約し忘れです。

まだ、今日は終わってないからセーフなはず!

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