第3話 世間では傷物ということになっています





「ええっと……好き? それは私がセブトさんのことが好きっていうことの確認ですか? それともセブトさんが友人的な意味で私のことが好きってことですか?」


「……あなたに惚れそうってことですよ」


「へ、ふぇ?!……じゃ、じゃあ!!!」


「けどまだお付き合いとかは出来ないです……そのためには障害が多すぎますから」


 ごめんな、俺もこんな美少女となら今すぐにでも付き合いたいよ。

 けれどそうすれば歯車はさらに狂う。

 その上、俺は平民……それに対してミラは次女とはいえど侯爵家の娘だ。


 どう考えても釣り合っちゃいないじゃないか。


「私がセブトさんと付き合った時に迷惑を被ると思っているんですか?」


「?!……はい。ラミーレス様はこれから沢山の縁談が来るでしょう? 申し上げにくいですが……政治の道具になってしまうことは避けられないでしょうから」


「それなら大丈夫です、私は世間では傷物ということになっていますので」


「へ……はい?」


 あ、あれ?

 確か俺が助けた時には誰かに純潔を汚されている気配はなかったはずなんだけれど……。


「私は助けてもらった後、盗賊に襲われたと両親に報告しましたから。流石に侯爵家の次女とはいえ傷物をお嫁に迎えようなんて貴族はいないでしょうから」


「どうして……」


「セブト様が平民であることはわかっていましたから。どうですか、これで障害は一つ減ったでしょう?」


「た、確かに……」


 こうなれば侯爵家としてはミラを優秀な平民か下級貴族に娶らせるか、神殿に送り込むくらいしか選択肢がなくなってしまう。

 ああ、この子はどれだけ狡猾で頭がいいんだよ。


「どうですか、お付き合い……してくれますか?」


「……だとしてもラミーレス様が貴族であることは変わらないでしょう? 友人ならば……」


「ふふっ、ではこれからよろしくお願いしますね」


 そう言って彼女は幸せそうに微笑む。

 それは一見、ただの笑みに見えるが……その瞳の奥には何か黒いものが見えたような気がした。


「ええ……こちらこそ」


「今は、友人でもいつか絶対にセブトさんを惚れさせて見せますから」


 そう言いながら煽情的な表情をミラは浮かべるのであった。


 ああ……やばい、もう堕ちそう。

 今すぐにでも抱きしめたい……。

 でもダメだ、関わりすぎるとシナリオが狂ってしまう……。


 ……

 …………

 ………………


「ところで、ラミーレス様はどうやってこの部屋に入ってきたんですか?」


 俺は冷蔵庫のような魔道具からお茶を出し、二人で飲みながらそう問いかける。


 きっと空間魔法が得意なミラのことだから転移してきたのだろうが、本来、平民であるセブトはそんなことを知らないため違和感を感じさせないようにきいておく。


「ドアの前まで移動して空間魔法で部屋の中に転移しました。……すみません、泥棒みたいなことをして」


「それは大丈夫ですよ、けれどミラ様は勝手に屋敷を抜け出してきてもよかったんですか?」


 今、俺がいるのはグリーディア学園の端に位置する学生寮だ。

 俺らのような平民は寮で生活するが貴族様たちは学園の近くに屋敷を借りたり、買うなりして生活しているはずなのだが……。


「大丈夫ですよ、私も寮生活ですから」


「へ?」


「セブトさんとこうやって会うためには寮生活の方がいいかな〜……なんて思っちゃいまして。それに私もいい加減、自立しなきゃですしね。いつなにが起こるかわからないっていうことは攫われた時に実感しましたから」


「え、偉い……」


 この子、本当に15歳? 少なくとも俺が15歳の時にはこんな立派な考えを持って親元離れて自分だけで生活しようと思えなかった。


 俺が感心しているといつの間にミラが口を尖らせていた。


「さっきから思っていたのですがその敬語と様付けはなんなんですか?」


「ああ、ラミーレス様は貴族ですから……」


「禁止です、苗字で様付けして呼ぶ友人なんてどこにも居ませんよ」


「じゃあ、ミランダ……さん」


「ミラでいいですよ? なんですから」


 彼女は“友人”という言葉を強調しながらにやりと笑う。

 あーもう! 仕草の一つ一つが可愛すぎる。


「で、でもミラさんはさん付けだし、敬語じゃないですか」


「私は交際を申し込んだ立場ですから、それに恩人を呼び捨てで呼べません」


 恩人なんて大袈裟すぎるような気がするんだけどなぁ……。

 まあ、作中でもミラが敬語を外している場面なんて滅多になかったし、しょうがないか。

 いつか、呼び捨てでもっと気安く呼んでくれる時を楽しみに待とう。


「わかった……ミラ。これでいいんだろ?」


「はいっ!」


 絵に描いたような満面の笑みだなぁ……。

 見ているこっちも微笑ましくなってくる。


 すると、今度は子犬のように俺の名前を連呼してきた。


「セブトさん、セブトさんっ!」


「なんだ?」


「今日この後、楽しみにしておいてくださいね」


「え……? それってどういう――」


「それじゃあ、お邪魔しました〜」


 ミラはそう言うと一瞬で転移の魔法陣を構築し、消えてしまう。


 結局、その後しばらく俺はミラの意味深な言葉が脳裏に離れず、意味を何度も考えさせられてしまうのであった。




――――――

MEMO

『テーラルファンタジー』


ゲームのジャンルとしてはギャルゲーに当てはまる。

多くの可愛いヒロインとのイチャイチャがメインだと思われがちであったが、間違えた選択肢を選んだ場合や戦闘に負けた時用のバッドエンドの鬱展開などもちゃんと用意されている。


また、ハッピーエンドの場合でも様々なルートがあり、そのルートの多さから意外と人気を呼んだ。





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