8日目

 今日から毎週の月曜日に日記を書くことにした。これは決して面倒くさいからという不埒な考え故の決断ではなく、ただただ書くことがないだけである。未来の学者先生方も、つまらない高校生のつまらない日常に興味などないだろう。それより報告に移りたいところだが、あれから一週間が経った現在も依然として変化がない。変わったのはタバコの値段くらいで、私が居候させてもらっている家の主であるおじさんの機嫌が悪くなったくらいだ。もともと常時しかめっ面で何を考えているかわからない男だったが、最近は拍車がかかり、私はおじさんの形をした炎の火の粉を払うばかりであった。

 このおじさんという生き物は大変興味深いシロモノであり、おそらくアマゾンの奥地に潜む珍獣、あるいは1000年に一度咲く幻の奇怪花と同じくらい学術的価値が高いと思われるので、彼の生態についていくつか書き残しておくことにする。彼の名はおじさんである。本名は存じ上げない。ただ彼に引き取られた頃から今日までそう呼んでおり、彼もその呼び名に異議を申し上げたことはただの一度もなかった。おじさんは書き物の仕事をしているようで、彼の仕事部屋にはたいていいつも丸めた原稿用紙が散乱していた。家事全般を担当している私がそれを片付けるのが習慣となっていたが、今時パソコンも使わず紙とペンで勝負しているところがまた彼らしかった。ただ、隣に住むおばあさんの話によると昔は何かの研究を国から任されていたようで、それについていろいろ知りたかったのだが、この話をしたとたんにおじさんはしかめっ面を一層深くして仕事部屋に戻ってしまったので、それから私の中でおじさんの過去は探らないという暗黙のルールが出来上がったのであった。

 それにしても最近おじさんの様子が少しおかしいように感じられる。朝ごはんの呼びかけにも反応が悪く何度も呼ぶ羽目になるし、散乱しているはずの丸めた原稿用紙が姿を消し、その代わり仕事机の約8割をパソコンが占拠しおじさんがそれに一日中かじりついているのは異様であった。タバコの値上がりにしても、何か焦っているようなのは不自然であり、吸うたばこの本数が減るばかりか増える一方なのは、おじさんの焦りの原因が他にあるのを明らかにしていた。おそらくだが太陽もどきのことが関係しているのだろう。いや、それしか原因が見つからない。そしてそれは過去に行っていたという研究に深く関わっているはずである。本当におじさんが太陽もどき事件にかかわっているならば、私はどうするべきなのだろうか。おじさんは周りに無関心であり、私も遊んでもらったりした記憶はない。ただ身寄りもない私を拾ってくれたのは事実であり、無関心ながらも欲しいものは何度もねだればいつの間にか部屋に置いてあったりして、そんなおじさんのことが好きだった。

 今はまだ何もわからない。あの事件から一週間、疑問が増えるだけで解決できたものは一つもなかった。おじさんのことも考えすぎかもしれない。ただ、おじさんが焦っているのならば、その分私がゆっくり歩く。そうしておじさんが疲れてしまって立ち止まった時、後ろから追いついた私がたくさん励ましてあげたいと思う。

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あの日、空から太陽が落ちてきた 中宮俊 @moguo515

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